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映画『炎のランナー』今こそ観るべきヒューマンドラマです!?

 

この映画『炎のランナー(Chariots of Fire)』は、監督ヒュー・ハドソンで、1981年公開のイギリスの映画です。

当時の時代背景の中で権威主義的排他的なイギリスを描きながらもイギリス的尊厳を彫り込んだ作品になっています。第54回アカデミー賞(1982年)作品賞受賞作品です。

目次

 

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1.紹介

走ることによって栄光を勝ち取り真のイギリス人になろうとするユダヤ人のハロルド・エーブラムスと、神のために走るスコットランド人牧師エリック・リデル、実在の二人のランナーを描いています。

舞台は1919年、エーブラムスが入学するケンブリッジ大学と、リデルが伝道活動をするスコットランドエディンバラから、1924年パリオリンピックへと移ってゆきます。

落日に向かう英国の姿を背景に、英国エリート層の権威的で排他的な側面とそれに挑む若者の姿が描かれ、フェアとは何か、アマチュアリズムとはなにか、そして走るとは何か、改めて我々に問いかけてきます。

映画史上に残る、ヴァンゲリスの名曲「タイトルズ」をバックに、ランナー達の躍動感ある映像も素晴しい。

この曲は、日本でも耳にする機会の多い有名な曲となり、特にテレビでは競走のゴールシーンで多く使用されています。


2.ストーリー

1)プロローグ

1978年のロンドン、ハロルド・エーブラムス追悼の礼拝が始まり、アンドリュー・リンゼイ卿がスピーチを行っていました。

物語は、彼らが胸には希望を抱き、踵には翼をつけて、走ることに夢中だった時代へさかのぼります。


2)ケンブリッジ大学4人組

1919年、ケンブリッジ大学に入学したハロルド・エーブラムス(ベン・クロス)は、ユダヤの家に生まれたため、周囲からは潜在的な差別と偏見を受けており、その鬱憤をぶつけるように陸上競技にのめりこみました。

そして、障害物のアンドリュー(ナイジェル・ヘイヴァース)、中距離のオーブリー(ニック・ファレル)とヘンリー(ダニエル・ジェロル)とともに「ケンブリッジ大学4人組」として華々しい活躍をしていました。

 

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3)スコットランド代表

スコットランドには、牧師の家に生まれたエリック・リデル(イアン・チャールソン)がいました。

彼にとって、自らの才能によって競技会で勝利することは神の恩寵を示すものであり、つまり走ることは信仰と同義でしたが、妹のジェニー(シェリル・キャンベル)は、彼が陸上に熱中することを好ましく思っていませんでした。

しかしながら、父や兄は彼が競技を続けることを奨励し、スコットランド代表として大会出場する際には彼の伝道スピーチが併せて行われ、多くの人々が聞き入りました。

 

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4)それぞれの苦悩

1923年、ハロルドは競技会でエリックに敗北し、激しいショックを受けました。そこでハロルドは、サム・ムサビーニ(イアン・ホルム)に師事し、彼から本格的な指導を受けることになりました。

一方、エリックはジェニーに、中国へ布教に赴く決意と、その前にオリンピックに出場するという決意を伝えるのでした。

ハロルドはケンブリッジ大学のトリニティとキース双方の学寮長から呼び出され、非英国系かつプロコーチのムサビーニを雇っていることはアマチュアリズムに反し、大学にもふさわしくないと批判を受けました。

2人に反論して退出したハロルドは、友人たちから、100mと200mのパリ五輪代表に選出されたこと、エリックも代表であることを告げられるのでした。

 

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5)パリ五輪の壁

ドーヴァーからパリへの出航の日に、エリックは、記者から予選の日が日曜日(=安息日)であることについて質問を受け、初めてその事態について知りました。

敬虔なキリスト教徒である彼は、選手団長のバーケンヘッド卿(ナイジェル・ダヴェンポート)に相談し、日程変更を掛け合ってもらうことになりました。

しかし、事態は好転しないまま、パリへ到着します。英国チーム最大のライバルは、近代的なトレーニングを積み、士気も高い米国チームであり、パドック(デニス・クリストファー)、フィッチ、シュルツ(ブラッド・デイヴィス)といった強豪選手が名を連ねていました。


6)苦悩の選択

5月4日、パリ五輪が開会した。期間中に開かれた親善パーティの席上、エリックは、デイヴィッド王太子(デイヴィッド・イエランド)、サザーランド公、カドガン卿ら、英国オリンピック委員会の要人に引き合わされました。

結局、対仏交渉は不調に終わっており、エリックは祖国と国王への忠誠のため出場するよう説得されますが、神への信仰はそれに勝るとして拒否するのでした。
そこへ貴族であるアンドリューが入室し、アンドリューが400mの代表枠を譲るので、エリックは出場種目を変更してはどうかと提案します。全員が賛成し、エリックは100mを棄権しました。


7)ハロルドの決勝

200mに出場したハロルドは、パドックに敗北し、ムサビーニから叱咤されました。100m出場を目前に、ハロルドは不安な心情をオーブリーに吐露します。直接、競技場へ行かないムサビーニは、ハロルドへの手紙にお守りを同封しました。

王太子の激励や、アメリカの応援団と、レースへの緊張が高まっていきます。ハロルドは100mで優勝しました。ムサビーニも、英国国歌吹奏とともに最も高い所に掲げられたユニオンジャックをホテルから見、ハロルドの優勝を知りました。

英国本国の人々も、彼の優勝を知り喜びますが、ハロルドの心は晴れません。ムサビーニはそんなハロルドに深夜まで付き合って慰労するとともに、恋人と新生活へ歩むよう勧めました。

 

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8)エリックの決勝

400mに出場するエリックを、アメリカ選手は警戒します。ショルツは旧約聖書の一節を記したメモをエリックに渡しました。エリックはそれを握りしめてレースに臨みます。要人や英国チームの選手達、そして妹のジェニーが見守る中、彼は優勝しました。

ハロルドら同僚と共に、エリックはヴィクトリーランを始め、スタンドのジェニーに喜びを伝えるのでした。

 

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9)凱旋

英国へ戻った彼らは、大歓声で迎えられるヒーローでした。エリックやアンドリューが迎えられ、静けさの戻った駅に、1人降り立ったハロルドは、愛するシビル・ゴードン(アリス・クリーグ)と再会し、二人で肩を寄せあい歩み始めるのでした。


10)エピローグ

再び1978年、『エルサレム』の合唱で、追悼礼拝は終わり、アンドリューとオーブリーは「彼は勝った」と、ハロルドを思い出すのでした。

 

3.四方山話

1)原題

原題は「Chariots of Fire」、直訳すれば「炎の戦車」。この戦車とは映画『ベン・ハー』などに登場する古代ローマの1頭ないし複数頭立ての馬車をさしています。

戦場では、これに乗った将軍が指揮を執りました。目標や使命感のために邁進する姿を喩たとえたのかもしれません。

それがなぜ、「炎のランナー」となったのか?、よくあることですが、単純に走る者としてつけた邦題ならば寂しい限りです。


2)史実

史実によれば、100m予選の日程は何カ月も前からわかっており、エリックは短期間ではありましたが、400m出場に備えて練習を積んでいました。さらには、200mにも出場して銅メダルを獲得しています。

そしてハロルドは100m決勝の前に行われた200mにも出場し6位に終わっていますが、400mリレーでは銀メダルに貢献しました。

またアンドリューは、というよりも、英国選手は1924年パリオリンピックの110mハードルで銀メダルは獲っていませんでした。

 

 

 

 4.まとめ

主人公が2人いてちょっと戸惑いましたが、ふたりは、何に勝ったのか、誰に勝ったのか。それは、英国の古い権威でした。

エリックは国や国王まで持ち出した古い権威よりも自分の信じる宗教への思いを貫き、ハロルドは、ムサビーニから科学的なトレーニングを受け、偏見に満ちた周囲の反応を打ち破ったのです。

誰のために走るのか、スポーツで勝つことの意味とは何なのか、本作は現実に起きた重たいテーマを突き付けてきます。ふたりの主人公は「個」を信じ、大切にすることによってそこにひとつの答えをだしたのでしょう。