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映画『プライベート・ライアン』は反戦映画でしょうか?!

この映画『プライベート・ライアン』(Saving Private Ryan)は、アメリカで1998年に公開されました。

第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦を舞台として、1人の兵士の救出に向かう兵隊たちの物語です。監督はスティーヴン・スピルバーグ、主演はトム・ハンクス、救出されるライアン役をマット・デイモンが演じています。

目次

 

 

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1.紹介

本作品は、スティーヴン・スピルバーグ監督による『1941』『太陽の帝国』『シンドラーのリスト』以来4作目となる第二次世界大戦をテーマにした作品です。

スピルバーグは後に、第二次大戦でB-25の無線士として太平洋戦線に参戦していた「父 アーノルド・スピルバーグに捧げた」と語っています。


2.評価

アカデミー賞11部門にノミネートされ、監督賞、編集賞、撮影賞、音響賞、音響編集賞の5部門を受賞しました。

受賞
監督賞 スティーヴン・スピルバーグ
音響編集賞 ゲイリー・ライドストロム、リチャード・ヒムンズ
録音賞 ゲイリー・ライドストロム、ゲイリー・サマーズ、アンディ・ネルソン、ロン・ジャドキンス
撮影賞  ヤヌス・カミンスキー
編集賞 マイケル・カーン


ノミネート
作品賞  スティーヴン・スピルバーグ、マーク・ゴードン、イアン・ブライス
主演男優賞 トム・ハンクス
脚本賞 ロバート・ロダット
劇映画音楽賞 ジョン・ウィリアムズ
美術賞 トーマス・E・サンダース (美術)、リサ・ディーン・カヴァノー (装置)
メイクアップ賞 ロイス・バーウェル、コナー・オサリヴァン、ダニエル・C・ストリーピーク

 

3.興行成績

1998年の全米年間興行成績1位を記録するヒット作となりました。全世界年間興行成績でも『アルマゲドン』に次ぐ2位を記録しています。

全米では2億1000万ドルの興行収入を記録し、2014年に『アメリカン・スナイパー』が記録更新するまでは戦争映画としては歴代最高の全米興行収入を記録しました。第二次世界大戦を題材とした映画としては歴代最高の成績となっています。

ちなみに、約3時間にもおよぶ長編映画にもかかわらず、わずか60日間というハリウッド映画としては驚異的な早撮りでクランクアップしています。

 

4.ストーリー

1)ノルマンディー上陸

 一人の老人とその家族の墓参シーンから一転、20数分の戦闘シーンが延々と続きます。その戦闘シーンは1944年6月のフランスでのノルマンディー上陸作戦でした。

 

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雷雨のような敵の砲火の中、上陸する兵士たちが次々に倒れていき、画面に現れた死者の数は全編を通じて255にも上ったそうです。

兵士の手足が吹き飛び、内臓が飛び出、炎に包まれて爆死したり、海水が血の色に染まるなど、まるでその場にいるような映像が戦場の現実を生々しく描き出してゆきます。

あからさまな戦争批判や英雄賛美もなく、ただただこの悲壮感だけを粛々と伝え続けるスピルバーグの演出が、観客の心にストレートに響きます。

 

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2)ソール・サバイバー・ポリシー

そんな中、アメリカ陸軍参謀総長ジョージ・マーシャル(ハーヴ・プレスネル)の元に、ある兵士の戦死報告が届きました。それはライアン家の4兄弟のうち3人が戦死したというものでした。

残る末弟ジェームズ・ライアンは、ノルマンディー上陸作戦の前日に行なわれた落下傘降下の際に敵地で行方不明になったという報告が入り、マーシャルはライアンを保護して本国に帰還させるように命令しました。

 

5)作戦開始

 4人兄弟の末弟を残し3人の兄弟が時を跨がず戦死するという理不尽な出来事に、敵軍のど真ん中に生死不明の末弟を捜し、連れ戻しに行くというこれもまた理不尽な命令がミラー大尉(トム・ハンクス)に出て、気心の知れた部下7名と共にチームを組み出発します。

 

6)最初の犠牲

途中、ミラー大尉たちは保護を求めるフランス人一家と遭遇しますが、安全が保障できないことを理由に保護を拒否します。しかし、部下のカパーゾ(ヴィン・ディーゼル)が独断で子供を保護しようとしてドイツ軍に狙撃されてしまいます。狙撃手のジャクソン(バリー・ペッパー)がドイツ軍の狙撃手を射殺しますが、カパーゾは死亡してしまいます。

 

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カパーゾの死に、ミラー大尉はホーヴァス軍曹(トム・サイズモア)に吐露しました。
「部下が死ぬとおれは自分にこう言い聞かせる。それは2人3人10人の部下を救うためだったと、時には100人を...」
「おれが失った部下の数は94人、ということはその10倍の命を救ったわけだ、もしかしたら20倍かも知れん。そう割り切る。」
「任務か、それとも兵士の命か、その選択だ。」
「(ライアンは)その価値のある奴かな?カパーゾ10人分に値する奴でなきゃ」

 

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7)衝突

ミラー大尉は、ライアンの消息を、混成部隊に加わり前線の橋を守っていることと捜し当てました。ミラー大尉たちは前線に向かいますが、その途中で破壊されたドイツ軍の対空レーダーサイトと警備陣地、数人の友軍死者を発見します。

部下たちは戦闘を避けて迂回するように進言しますが、ミラーは後続の部隊の被害を防ぐために陣地の攻略を命令します。

ミラーたちは陣地を制圧したものの、戦闘で衛生兵のウェイド(ジョバンニ・リビシ)が戦死してしまいます。彼の死に憤慨したライベン(エドワード・バーンズ)は生き残っていたドイツ兵を殺そうとしますが、ミラーはドイツ兵に墓を掘るように命令し、人目を忍んでウェイドの死に涙するのでした。

その後、ミラーは墓を掘り終えたドイツ兵を解放して後続の部隊に降伏するように指示しますが、それに不服を感じ、そもそもライアン探索に懐疑的であったライベンは命令を放棄し、引き留めようとするホーヴァス軍曹(トム・サイズモア)が拳銃を向けるまでに衝突してしまいます。

 

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この危機的状況にミラー大尉は二人に対して、今まで明かしていなかった自身の高校教師であった履歴を語り、そして、帰国して、過酷な戦場で変わってしまったであろう自分の顔(人格)で、妻に会って今日のよう話をする時の心根を語って、その場を収めました。
「ライアンはおれにはどうでもいい。ただの名前にしか過ぎない。だが彼を捜し、帰還させたら胸を張って女房の所へ戻れる。そのための任務だ。」

 

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8)発見

やがて、前線の橋に向かったミラー大尉たちは、探し求めていたライアンを発見します。ミラー大尉はライアンに帰還するように命令しますが、彼は、

「仲間を残して本国に帰るのは嫌だ。(戦死したら伝言を)僕は戦場での兄弟を見捨てずに残って戦ったと。」
「母は分かってくれます、ここに残ります。」と命令を拒否します。

 

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そして、ミラー大尉は結論を出しあぐね、長年連れ添ってきたホーヴァス軍曹に率直な思いを尋ねます。

「奴の言う通り皆同じように戦ってる。奴を残して引き上げるか、あるいは我々が一緒にここで戦い、生き残って帰国するか。」

「いつの日か振り返って思う。ライアンを救ったことがこのクソ戦争で唯一誇れることだと、そう思います。」

「おれも、あなたのように胸を張って故郷に帰れるような気がする。」

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9)死闘

かくて、ミラー大尉たちも混成部隊と共に、戦車に支援されたドイツ武装親衛隊を迎え撃つことになりました。ミラー大尉たちは敵を市街地に誘い込み奇襲を仕掛けますが、物量差に押されて劣勢になり、ジャクソンやホーヴァス軍曹ら部下が次々に戦死してゆきます。

ミラー大尉も負傷して身動きが取れなくなって瀕死となり、前進する戦車を相手に虚しく拳銃で応戦します。そこにP-51戦闘機と援軍とが到着し、ドイツ軍は敗走します。ミラー大尉は、心配げにのぞき込むライアンに生きて人生を全うするように告げて息絶えます。
「ジェームス、無駄にするな、しっかり生きろ」

 

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10)エピローグ

画面は冒頭のノルマンディー米軍英霊墓地、ミラー大尉の墓前にかわります。老いたライアンはミラー大尉に感謝の言葉を伝えた後に、妻に、

「私は人生を立派に生きただろうか」と問いかけます。妻の

「もちろんです」

という言葉を聞き、ライアンはミラーの墓に向かい敬礼を捧げるのでした。

 

5.キャスト

プライベート・ライアン」の米国公開から約16年。珠玉の演技で我々を虜にした主要キャストたちの今を見てみます。

 

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1)トム・ハンクス

部隊を率いたジョン・H・ミラー大尉役のトム・ハンクスは、当時も今もスター俳優としてハリウッドに君臨する彼は、途切れることなく話題作に出演し続けています。

また、「プライベート・ライアン」に出演したことがきっかけで、第二次大戦をさらに深く掘り下げたテレビシリーズ「バンド・オブ・ブラザース」をスピルバーグと共に製作し、ここ10年ほどは、俳優業と並行してプロデューサーとして作品に関わることが多くなっています。

 

2)トム・サイズモア

小太りで人が良い、ミラー大尉の右腕的存在だったマイケル・ホーヴァス軍曹を好演したトム・サイズモアは、のちに『ブラックホーク・ダウン』にて理想的な軍人を演じたとまで称賛を浴びました。

しかしながら、暴行や薬物所持で何度も逮捕されており、仕事よりもプライベートに注目が集まってしまっているようです。

 

3)エドワード・バーンズ

「なぜ1人の二等兵のために8人が命を懸けなければならないのか」この誰もが抱く疑問を、最も包み隠さずに不満顔で表現したリチャード・ライベン一等兵。彼を演じたエドワード・バーンズは、スーパーモデルのクリスティ・ターリントンと結婚し、2児父親です。スリラーからコメディまで、味のある脇役として活躍しています。

 

4)バリー・ペッパー

信心深い狙撃兵ダニエル・ジャクソン二等兵役を務めたバリー・ペッパーは、「プライベート・ライアン」の翌年に「グリーンマイル」の若手看守ディーン・スタントン役でハンクスと2度目の共演を果たしています。最近では「ローン・レンジャー」のキャプテン・フラーを演じました。1997年に結婚した妻との間に、娘がいます。

 

5)アダム・ゴールドバーグ

ユダヤ人兵士スタンリー・メリッシュ役のアダム・ゴールドバーグは、テレビドラマのゲストや、中規模映画の脇役として重宝されているようです。

 

5)ジョバンニ・リビシ

衛生兵のアーウィン・ウェイドを演じたジョバンニ・リビシは、主演作こそないものの、話題作に出続けている印象で、「コールド マウンテン」「アバター」「テッド」「L.A. ギャングストーリー」など、ヒット作にひっぱりだこです。

 

6)ヴィン・ディーゼル

この部隊の中で、エイドリアン・カパーゾ役のヴィン・ディーゼルトム・ハンクスを除けば、マット・デイモンに並ぶ最も出世頭と言えるでしょう。主演した「ワイルド・スピード」は、押しも押されもせぬ大ヒットシリーズに成長し、ディーゼルは大物俳優の仲間入りを果たしました。

 

7)ジェレミー・デイヴィス

通訳のティモシー・E・アパム伍長は、「プライベート・ライアン」の影の主役とも言うべき存在でした。線が細く、非力で、後方支援すらままならなず、観客はアパムを通して作品を見ることで、仲間たちの頼もしさ、そして戦争の凄惨さをよりリアルに感じることができました。

このキーパーソンを演じたジェレミー・デイヴィスは、映画の脇役を数作務めた後、「LOST」では物理学者のダニエル・ファラデー役でレギュラー出演しました。この役を演じるために物理学と数学を熱心に勉強し、劇中でファラデーが書く方程式はデイヴィスが自身で考案したものであったとそうです。

 

8)マット・デイモン

表題キャストのジェームズ・フランシス・ライアンを演じた、公開当時28歳のマット・デイモンは、2007年、『フォーブス』誌が選ぶアメリカ映画出演料当たり興収のランキングでトム・ハンクストム・クルーズの2倍以上の高収益俳優としてトップに輝きました。また、『ピープル』誌が選んだ、2007年の“最もセクシーな男”に輝いた。


9)デイル・ダイ

ジョージ・C・マーシャル将軍の側近役を演じたデイル・ダイは、1984年に海兵隊を退役後、ダイはカリフォルニアに戦争映画での現実的な兵士の描写のために、俳優の訓練を専門とする会社を設立しました。同時に自身の会社が関係する映画に出演もしています。1986年のオリバー・ストーン監督の映画『プラトーン』でハリス大尉役を演じて以降、ストーン監督作品を中心として多くの映画に主に軍人役で出演し、また、多くの映画の軍事技術顧問も務めています。

 

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5.エピソード

クランクイン直前にトム・ハンクスをはじめとした出演者たちは、リアルな演技をするために元海兵隊大尉のデイル・ダイの協力の下で、ブートキャンプ同等の訓練を10日間受けさせられています。

その内容ついては、教官がいきなり彼らに向かって発砲(空包)したり、当時の兵士達が携行していたものと同じ装備を背負って延々と行軍するといった厳しいものでした。

しかしながら、ライアン二等兵役のマット・デイモンはこの新兵訓練のメンバーから意図的に外されていました。これは10日間の過酷な訓練を通じて救出隊のメンバーにマット・デイモン=ライアン二等兵に対する反感を植えつけるためであったそうです。

訓練を終えたトム・ハンクスたちは、休む間もなく2週間にもおよぶ戦闘場面の撮影に臨んでいます。この過酷な進行によって撮影当初の和んだ空気が消えて荒んでいた彼らのところに、事情を知らないマット・デイモンが新兵よろしく颯爽と撮影現場に現れると、当初の意図通り険悪な雰囲気となりました。

これら一連の相乗効果によって演技はリアルで緊迫したものとなり、作品テーマの一部に組み込まれることになりました。


6.ナイランド兄弟

本作はフィクションでありますが、基になった「ナイランド兄弟」のエピソードが存在しています。

ライアン二等兵のモデルとなったフレデリック・ナイランド三等軍曹には、エドワード、プレストン、ロバートの三人の兄がいました。

フレデリックはDデイ初日に、輸送機パイロットのミスで予定の降下地点からかなり離れた内陸地点に降下してしまい、なんとか原隊に復帰したところ、部隊の従軍牧師から3人の兄全員が戦死したと告げられました。

国防省において、巡洋艦「ジュノー」に勤務していたサリヴァン兄弟が、ジュノー撃沈によって全員死亡したことを受けて制定されたルールの「ソール・サバイバー・ポリシー」に基づいてフレデリックは前線から引き抜かれ、本国に送還されることとなりました。

フレデリック本人はそれほど帰国したかったわけではなかったらしく、しばらくは部隊と行動を共にしていましたが、従軍牧師が書類を提出してしまったため、上層部に認可された後は帰国するしかなかったようです。帰国後、彼は終戦までニューヨーク州憲兵として勤務しています。

映画と違いフレデリックが原隊に自力で復帰した事からも分かるように、救出隊が組織されたという事実はありません。また、母親のナイランド夫人は実際には未亡人ではありませんでしたが、息子3人の死亡通知を同時に受け取ったというのは史実みたいです。

なお、長兄エドワードの戦死は誤報で(実際には作戦中行方不明)、ビルマの日本軍捕虜収容所に収監されていたところを英軍に救出され、帰国後に母親との再会を果たしています

 

7.まとめ

この映画は、誰の為の何の任務か彼らは答えを見つけられないまま戦火の中に身を投じ、そして死んでゆく。この切ない悲劇の中で、戦争批判や英雄賛美を超えて、それぞれが思う本当の闘う理由とは何なのか?を問い続けます。