凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『マイノリティ・リポート』発想と設定の妙、さすがスピルバーグです!!

 

この映画『マイノリティ・リポート(Minority Report)』は、フィリップ・K・ディックの短編小説「マイノリティ・リポート」をスティーヴン・スピルバーグ監督が映画化し、トム・クルーズが主演の2002年に公開されたアメリカのSFサスペンス映画です。

目次

 

 

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1.紹介

スティーブン・スピルバーグと彼のファミリーとも言える製作スタッフと、スーパー・スターのトム・クルーズが組んだことで話題になった作品です。

1億ドルを超す巨費を投じた近未来の美しい映像やCG、さらには斬新なデザインのセットなど、最高峰の技術を大いに堪能でき、優秀ではあるが、精神的不安定な主人公を演ずるトム・クルーズの熱演の他、売り出し中の新鋭コリン・ファレルの、若さを感じさせない貫禄ある演技、陰謀の黒幕としてドラマを引き締める、大ベテランマックス・フォン・シドーの重厚な演技と存在感も圧倒的です。


2.ストーリー

1)プロローグ

2054年のワシントンD.C.、犯罪予防局、アメリカ政府は、多発する殺人事件への対抗政策として「プリコグ(予言者、precog:precognitive)」と呼ばれる3人の予知能力者を使い、未来に起こる犯罪を察知して、事件が起きる前に犯人を捕らえる、殺人予防システムを開発しました。

このシステムにより、わずか1ヶ月でワシントンD.C.の殺人発生率は90%減少し、6年の間に首都は犯罪が存在しない社会となっていました。


2)不審な「エコー」

犯罪予防局の刑事ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は、6年前に息子のショーンが誘拐され殺害されたのをきっかけに、犯罪予防にのめり込むようになっていました。息子を失ったトラウマから、その仕事に対する執着心は病的とも言えるもので、苦痛から逃れるために薬物に手を出しているほどでした。

ある日、システムの全国規模での導入に対する国民投票が行われることとなり、司法省調査官のダニー・ウィットワー(コリン・ファレル)が局を訪れ、システムの完全性の調査が始まりました。

 

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調査が行われる中、プリコグの1人アガサ(サマンサ・モートン)が突然ジョンに過去の事件の映像を見せてきます。プリコグは稀にこうした「エコー」と呼ばれる現象を起こすのですが、気になったジョンがその事件について調べると、アガサの予知の記録映像だけが削除されていました。

ラマー・バージェス局長(マックス・フォン・シドー)にそのことを報告しますが、結論は出ませんでした。

 

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3)マイノリティ・リポート

後日、新たに殺人事件が予知されますが、そこには見ず知らずの他人であるリオ・クロウ(マイク・ビンダー)なる男を殺すジョンの姿が映っていました。

何者かの罠だと感じたジョンはウィットワー達の追跡をかわし、システムの考案者であるアイリス・ハイネマン博士(ロイス・スミス)に助けを求めますが、彼女はシステムは偶然の発見から生まれたものであることを明かします。

ハイネマンは元々、麻薬「ニューロイン」の中毒患者から生まれた遺伝子疾患を持つ子供達の研究を行っていて、その子供たちはほとんどが12歳までに死亡してしまいましたが、生き延びたものは予知夢の能力を獲得しており、そこからシステムが開発されたのでした。

さらにシステムは完全なものではなくて、時に3人の予知が食い違うことがあり、システムの完全性を疑われないために少数意見(マイノリティ・リポート)になる予知は存在を秘匿され、なおかつ破棄されていました。そしてそれはプリコグ達の脳にのみ保存されているということでした。

 

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4)ショーンの写真

特に強い力を持ったアガサが鍵だと教えられたジョンは、局だけでなく街中に張り巡らされた網膜スキャナーを掻い潜るため、闇医者のエディ・ソロモン(ピーター・ストーメア)に依頼して他人の眼球を移植し、局内に潜り込んでアガサを誘拐します。

 

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そして、システムの操作系統を設計したルーファス・ライリー(ジェイソン・アントン)の手を借り、アガサの脳内を探りますが、マイノリティ・リポートは存在せず、アガサは代わりに再び過去の事件の映像を見せました。

そして最後の手がかりであるクロウの部屋へと向かいますが、そこには子供の写真が大量に散らばっており、その中には息子ショーンの写真がありました。

そこに現れたクロウがショーンを攫った犯人だと誤解し逆上したジョンは、クロウに銃を突きつけますが辛うじて思いとどまります。しかし、クロウは「殺されないと家族に金が渡らない」と、無理やり自分を撃たせました。クロウも何者かに利用されていたのでした。


5)エコーのカラク

ジョンが逃走した後、ウィットワーは現場を捜査しますが、現場の状況からこの事件が仕組まれたものであることに気づきます。さらに、アガサがジョンに見せたエコーの映像も調べてみると、エコーと実際の事件の映像の状況が僅かに異なることを発見し、仮説を立てました。

何者かが殺し屋を雇って女性を襲わせて、予知局が殺し屋を逮捕した後に、同じ現場で殺し屋と同じ姿で改めて女性を襲って殺害します。その事件も当然予知されますが、現場の状況が全く同じと判断した予知局はその事件をエコーと判断してしまい、事件は気付かれなくなってしまいます。

以上の仮説をウィットワーはバージェス局長に伝え、犯人はシステムを熟知しているものであると説明します。しかしウィットワーは突如、局長に撃たれ殺害されてしまいました。すべての黒幕はバージェス局長だったのです。


6)局長のジレンマ

その後、ジョンは捕まり投獄され、システムが全国で導入されることとなりました。しかし、バージェス局長の行動を不審に思ったジョンの妻のララ(キャサリン・モリス)は、ジョンの眼球を使って監獄へと潜入しジョンを脱獄させました。

 

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そしてシステムの全国導入を祝うパーティ会場で、ジョンは事件の真相を暴きました。殺された女性アン・ライブリー(ジェシカ・ハーパー)はアガサの母親であり、薬物中毒から更生したアンは娘を取り返しに来ていたのでした。しかしシステムにはアガサが不可欠なため、局長はシステムの盲点を利用して彼女を殺害したのでした。

過去の犯行を暴露されたことによって追い詰められたバージェスは、プリコグたちに「バージェスがジョンを射殺する」という突発的殺人を予知されてしまいます。これによって、「予知通りに殺人を犯すと投獄されるが、殺人を犯さなければシステムは完璧でないため廃止される」というジレンマに陥ったバージェスは、自殺を選んだのでした。


7)エピローグ

その後システムは廃止され、解放されたプリコグの3人は人里離れた土地で静かに暮らすこととなり、これまでに捕らえられた犯罪者は特赦が与えられ釈放されました。そして別居していたジョンとララは復縁し、ララは新しい子供を身篭っていました。

 

 

3.四方山話

1)スピルバーグの自己言及

スピルバーグらが70年代半ば以降のアメリカ映画で達成したのは、テクノロジーの進展を背景にした可視性の拡大です。E.T.A.I.、恐竜と、対象は様々で、ともかく全てをリアルに見えるようにすることでした。

本作では、予知した未来を映像に置き換える能力を備えたミュータントの存在があってこそ犯罪予防局は成立し、超能力者は未来を巡る可視性を拡大し、未来を僕たちの眼に見えるようにします。

一方で、映像はいつも嘘を生む可能性を孕み、映像の可能性の拡大は映像の改ざん可能性の拡大でもあります。これはスピルバーグ自身が開拓した“映像の現在”における困難を巡る自己言及的な作品となしました。


2)スピルバーグの「引用」

この映画には、名作映画や小説の引用が多数登場、それらが映画の雰囲気作りに貢献しています。その一部はスピルバーグの仕込みらしく、インタビューで、フィルム・ノワールヒッチコックを意識したことを告白しています。


①ミステリー

予知能力者プリコグ3人の名前アガサ、アーサー、ダシールは、みなミステリー&ハードボイルド作家の名です。
探偵エルキュール・ポアロでおなじみのアガサ・クリスティや、『シャーロック・ホームズ』のアーサー・コナン・ドイル、『マルタの鷹』のダシール・ハメットからとなります。


フィルム・ノワール

その『マルタの鷹』は映画化作も古典名作で、スピルバーグは本作で、そのジョン・ヒューストン監督『マルタの鷹』(1941年)と、ハワード・ホークス監督『三つ数えろ』(1946年)にオマージュを捧げたかったと語っています。どちらもフィルム・ノワールの名作です。

闇医者ソロモン医師がアパートのTVで見ている映画はサミュエル・フラー監督の『東京暗黒街・竹の家』(1955年)、勘違いされた日本が舞台の異色フィルム・ノワールです。


キューブリック

クルーズはキューブリックの遺作となった『アイズ・ワイズ・シャット』に主演、スピルバーグは次にキューブリックが着手していた『A.I.』を引継ぎました。

そのキューブリックの代表作の『時計じかけのオレンジ』の主人公アレックスと本作の主人公は、ドラッグ中毒とクラシック愛好が共通です。。

時計じかけのオレンジ』の原作者はアンソニー・バージェスで、本作の犯罪予防局の局長の名もバージェスです。


ヒッチコック

最初の犯罪シーン、凶器がハサミなのは『ダイアルMを廻せ!』と同じです。

逃亡中、眼鏡で変装するのは『見知らぬ乗客』と同じです。

眼のアップは『サイコ』と同じです。

傘の中の逃走は『海外特派員』と同じです。

スピルバーグ自身いわく「『北北西に進路を取れ』や『知りすぎていた男』のような映画が作りたかった」そうです。


⑤カメオ

a)キャメロン・クロウキャメロン・ディアス

クルーズ主演『バニラ・スカイ』にスピルバーグカメオ出演、そのお礼に本作には『バニラ~』の監督と共演女優がカメオで登場し、地下鉄の中で新聞越しにクルーズを見る男がクロウ監督、その後に立っているのがディアスでした。

 

b)ポール・トーマス・アンダーソン

クルーズが出演した『マグノリア』の監督が地下鉄の車内にいると言われています。

 

c)ウィリアム・メイポサー

クルーズのいとこ。主人公が息子の誘拐犯を追っていくホテルのクラーク役です。

 

 

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4.まとめ

本作では未来的に映っていた網膜や虹彩といった瞳を使った生体認証は、スマートフォンのロックシステムにも取り入れられるような身近な存在になり、個人に向けて展開される広告はインターネットを開くたびに常に味わえるようになりました。

犯罪予知システムに関しては、過去の犯罪履歴などのデータを基に危険人物を予測するソフトウェアをロンドン警視庁マイクロソフト社が開発中と報じられています。『マイノリティ・リポート』の“預言者”ぶりには、今だからこそ衝撃を受ける部分もありますね。