凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『グリーン・ゾーン』イラク戦争の闇をマット・デイモンが暴く戦争アクションです!!

 

この映画『グリーン・ゾーン(Green Zone)』は、、ポール・グリーングラス監督マット・デイモン主演の戦争アクション・サスペンス映画です。ジャーナリストのラジャフ・チャンドラセカランの著書『インペリアル・ライフ・イン・ザ・エメラルド・シティ』(2006年)を元にブライアン・ヘルゲランドが脚本を担当しています。

目次

 

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1.ストーリー

1)プロローグ

イラク戦争が開戦し、爆撃に見舞われるバグダッドで、イラク軍のアル・ラウィ将軍(イガル・ノール)は金庫で厳重に保管していた手帳に何かを書き込み、慌てて自宅を脱出しました。将軍は家族や仲間を隠れ家に移して、側近に自分からの連絡を待つように指示し、側近に手帳を託して車で走り去ってしまいました。


2)懐疑

イラク戦争開戦後、ロイ・ミラー准尉(マット・デイモン)は大量破壊兵器の行方を追って、MET隊(移動捜索班)を率い、イラクでの任務にあたっていました。ある日、米軍の大量破壊兵器が隠された倉庫の情報を得て、ミラーらは、情報通りの場所へと出動します。危険を伴う任務でしたが、到着するとそこは何もない廃工場でした。任務失敗はこれで3度目であり、ミラーは情報が誤っているのではないかと会議で訴えますが軍の上官はそれを聞き入れようとしませんでした。

 

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ミラーは不信感が残るまま会議室を後にします。一方、CIA局員のマーティ・ブラウンブレンダン・グリーソン)は政府が偽の情報で何かを隠蔽していると推測しており、会議でのミラーの発言を気にかけていました。ブラウンはミラーに名刺を渡し、何かあれば連絡するよう伝えました。


3)対立

別の会議で、ブラウンは無秩序状態のイラクを立て直すために、イラク軍を活用すべきだと主張します。一方でアメリカ国防総省のクラーク・パウンドストーン(グレッグ・キニア)は、30年前にイラクから亡命した反フセイン政権派のズバイディ(ラード・ラウィ)を擁立したイラク新政府の立ち上げを主張し、二人は対立しました。


4)情報源

ウォール・ストリート・ジャーナルの特派員記者ローリー・デイン(エイミー・ライアン)は、パウンドストーンから情報をもらい記事を執筆していました。ローリーはその情報源である「マゼラン」という人物との面会を求めますが、パウンドストーンはのらりくらりと拒否しました。


5)手帳

ミラーは米軍情報をもとに次の任務に赴きますが、今回もやはり手ごたえが感じられません。そんな時、現地民のフレディ(ハリド・アブダラ)が、旧イラク軍幹部らしき者たちが近くで会合を開いているという情報を提供しました。

 

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フレディの言動からミラーは彼の情報を信用し、隊を率いて会合場所へと突入します。そこには旧イラク軍の大物アル・ラウィ将軍がいました。銃撃戦の末、アル・ラウィ将軍は取り逃がしてしまうものの、将軍の側近を拘束することに成功しました。
ミラーは側近から将軍より託された手帳を押収し、更なる情報を聞き出そうとしているとアメリカ軍の特殊部隊が来て、側近を連行してしまいました。特殊部隊はミラーに入手した情報すべてを差し出すよう詰め寄りますが、ミラーはフレディに手帳を託して、手帳の存在を隠し通しました。


6)マゼラン

ミラーはブラウンに連絡を取り、手帳を彼に渡して、これまでの経緯を説明しました。二人の様子を見ていたローリーは何か新情報が得られるのではと思い、ミラーに名刺を渡して、何かあれば連絡するよう告げました。ローリーの発言が気になったミラーは大量破壊兵器にまつわる彼女の記事を読み、その記事から大量破壊兵器の情報源が「マゼラン」と呼ばれるイラク政府の高官であることを知りました。

 

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7)転籍

ミラーはブラウンにオフィスへ呼ばれ、大量破壊兵器の謎を追うため、CIAとして働かないかとオファーを受けました。CIAに転籍し働くことになったミラーは、ブラウンから将軍の側近を買収するよう指示を受けました。

 

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そんな中、パウンドストーンは手帳の存在を知り、手帳に記された将軍の隠れ家の情報を入手すべく、CIAの本部を通してブラウンから手帳を奪い取ってしまいました。
一方、ミラーは拘束されている将軍の側近から情報を聞き出すことに成功するも、側近が死ぬ前に唯一聞き出せたキーワードは「ヨルダン」でした。肝心の大量破壊兵器については将軍しか知らないのでした。


8)ヨルダン

その後、ミラーはローリーに会いに行くと、彼女の記事のマゼランについて聞きました。すると実は記事の情報はアメリカ政府高官の証言を聞いただけで、裏付け調査を一切行わずに書かれたものであることが判明します。
また、大量破壊兵器の情報を得ることとなった会合が開かれた場所は証人保護のため口外できないと情報元であるアメリカ政府高官から言われていたのでした。
しかしミラーは、将軍の側近からの証言と重ね合わせることで、会合が開かれたのはヨルダンで、マゼランとはアル・ラウィ将軍であることを確信するのでした。
すぐさまその情報をブラウンに伝えると、アル・ラウィ将軍は確かに会合の日にヨルダンに行っており、またパウンドストーンも同日にヨルダンに行っていたことが判明しました。


9)隠蔽

パウンドストーンは押収した手帳の情報をもとに将軍の仲間幹部を次々と襲撃していきました。襲撃の情報を得たミラーは、アル・ラウィ将軍(=マゼラン)を暗殺することでパウンドストーンが真実を隠蔽しようとしていることに気づきます。
ミラーは先回りすることで暗殺される予定だった幹部を救い、将軍への伝言を託して直接の対話に持ち込むのでした。
ミラーの妨害を知ったパウンドストーンは、ミラーと将軍が会ったところをまとめて処分するよう特殊部隊に命じました。


10)イラク解体

それと並行してパウンドストーンは会見を開き、アル・ラウィ将軍含むイラク軍全体の解体を発表しました。
隠れ家で会見を見ていた将軍は、アメリカが取引には応じない姿勢であることを悟ります。将軍は待ち合わせ場所でミラーを拉致し、襲撃を避けるため、新たな隠れ家へと移動して、ミラーを尋問しました。

 

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尋問の中で将軍はミラーに実は大量破壊兵器はすでに処分されており現存していないことを告白します。実はパウンドストーンは大量破壊兵器が存在しないことを知りながら、さも存在するような情報を流し、戦争の理由にしていたのでした。
これもすべてはアメリカ側に都合のいいズバイディを使った傀儡政権を立ち上げるためでした。


11)決着

ミラーは将軍に真実を明らかにすべく、自分と同行するよう求めますが、将軍は情報提供の代わりに立場を保証するという約束が反故にされ、仲間を殺された怒りから、戦う姿勢であることを主張します。

 

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その時、パウンドストーンが差し向けた特殊部隊が隠れ家を襲撃しました。ミラーはなんとか脱出し、逃走する将軍を追います。それを更に特殊部隊が追いかけました。特殊部隊による将軍の暗殺を阻止し、将軍を確保する直前、ミラーを追ってきたフレディが将軍を射殺しました。
フレディは、この国の未来はイラク国民が決めるのであって、軍やアメリカの好きにさせたくないのだと言い立ち去りました。


12)暴露

結局、証人を失い、イラクの統治はパウンドストーンの目論見通りの結末となってしまいました。しかしながら、ミラーは真実をレポートにまとめ、今度は正しい記事を書いてくれとローリーに送信し、そしてローリーの他にも全米のマスコミ各社へとディストリビューションで送信しました。ミラーは新たな任務に向かうべく、自室を後にするのでした。

 

2.みどころ

1)迫真

アクション映画のスピードとリアリティを格段に向上させてきたグリーングラスは、さらに迫真の度合いを上げようとばかりにバクダッド陥落後のイラク戦争の現場へといざないます。空爆に逃げ惑うフセイン側の側近たちを手持ちカメラで追う幕開けから、戦時下体感アトラクションの様相を呈します。


2)疑念

本作が目指すもの、それは大量破壊兵器の在り処です。確かなはずの情報に基づき探索を繰り返すデイモン扮する部隊長は任務に疑問を抱き始め、国家権力の闇に突き当たります。


3)カオス

かつてのフセイン宮殿に陣取って米国が司令塔を置くグリーン・ゾーンは、腹に一物ある魑魅魍魎が集う安全な社交場でした。何かをひた隠す国防総省情報局、蚊帳の外に置かれるCIA、陰謀を察知しつつ公表しないジャーナリスト、権力に付き従う軍部。企て、煽り立て、実行する戦争の縮図がここにありました。


4)サスペンス

茶番劇を土台に始めた戦争を揶揄し、それでも真実を追求する孤高のヒーローは不滅と謳い上げ、自治を願うイラク人の心情にまで寄り添います。欺瞞に満ちた戦争が歴史と化す前に物語化した、実にしたたかな戦争アクション・サスペンスです。

 

3.考察

1)構造的問題

ミラーが英語に堪能なイラク人男性に出逢って真相ににじり寄る展開は、かなりフィクショナルとなっていて、組織上層部こそ真の敵だったことを暴く構造は『ボーン』シリーズを彷彿とさせますが、それまでの緊迫に比してカタルシスは弱すぎて、それは、大量破壊兵器の保持が大嘘だったという末路へと向かう馬鹿馬鹿しさを、もはや誰もが知っているからです。


2)矮小化

イラク戦争大義だった「大量破壊兵器」が実在せず、プロパガンダだったことは今では常識となっています。ところがこの映画は、この世紀の大嘘は一人の悪い小役人の政府への忖度せいで、国民もいたいけな米軍兵たちも、それにだまされた被害者だといっているようです。危ないのは、タブーを暴いたふりをして責任を矮小化し、自分たちの大多数を正当化してしまいます。


3)プロパガンダ

ブッシュ政権のころにやってればもっとよかったのに」などという人がいますが、政権交代したあとに公開するからプロパガンダの意味があるのです。悪いことは前政権のせい。政権交代してみそぎを済ませたので、今の米軍はきれいな米軍というわけです。
アカデミー賞を取った『ハート・ロッカー』も本作も、言っていることは同じで、前の政権は悪いやつで、それに操られてひどいことをやったけど、米軍ひとりひとりは心の通った私たちと同じ市民であり、命がけで正義にまい進する立派な集団ということになります。

要するに本作の政治映画としての欠陥は、「大量破壊兵器」の嘘をついた理由に言及していない点でしょう。確かに大量破壊兵器の嘘じたいは認めましたが、その嘘がどんな国益に沿ったものなのか、それを伝えなくては何の意味もありません。それをあえて語らないから、本作が 100%プロパガンダ品となりかねないのです。


4)キャンペーン

うがった見方は、イラク統治失敗に伴う罪悪感からくる国民の厭戦感情を抑える事で、その役割を担わされるのが、世界最大のコンテンツ制作集団ハリウッドということになって、アカデミー賞受賞作や、本作のような一流のスタッフ・キャストによる作品が、絶え間なく同じこの価値観を米国民、および世界のハリウッド映画ファンに押し付け続けるのは、そういう事情にあるのでしょう。
つまり、この映画は傷ついた米国民のリハビリ回復剤であり、『ハート・ロッカー』も本作も、米軍の信頼回復キャンペーンの一環といえなくもありません。

 

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4.まとめ

ポール・グリーングラス監督とマット・デイモンは、『ボーン』シリーズでおなじみの黄金コンビで、アクションシーンのキレのよさや、大作感を感じさせる本格的な映像作りのうまさには定評があります。

本作でも、実銃や本物軍人のエキストラを多数利用するなどして、見ごたえある軍事アクションを作り上げ、単なるアクション映画、戦争映画としても、抜群に面白いレベルになっています。