ドラマ『横山秀夫サスペンス 第三の時効』傑作ハードボイルド・サスペンス刑事ドラマです!!
『横山秀夫サスペンス』は、2002年から2005年までTBS系「月曜ミステリー劇場」で放送された全6回のシリーズで、本作は2作目で、2003年2月24日に放映されたものです。
目次
1.背景
原作の『第三の時効』は、横山秀夫による連作警察小説で、作者が初めて事件を捜査する刑事を主人公にした「F県警強行犯シリーズ」の第1作目です。全6篇が収録されており、全篇とも集英社の『小説すばる』に掲載されたものです。第16回山本周五郎賞(2002年)の候補作となっています。
ドラマでは山梨県警捜査一課が舞台となっていて、緒形直人、段田安則、橋爪功、寺田農ら豪華なキャストで、久松真一脚本、榎戸耕史演出でした。
熱血人情刑事の森(緒形直人)に、法を守るためには手段を選ばない冷徹な刑事・楠見(段田安則)という正反対の二人が、時効成立阻止という目標に向かってひた走る様を描いていきます。「ギラギラした男の世界を表現した」という緒形と、ハードボイルドの極みで「ここまでクールな役は初めて」と語る段田の対決が見ものです。
2.あらすじ
15年前にタクシー運転手が殺害され、その妻・本間ゆき絵(余貴美子)がレイプされるという事件が起きました。捜査は捜査一課二班が担当しながらも、犯人と思われる武内利晴(寺島進)は逃亡し、何の手がかりも無いまま時効成立の時(注、2010年改正前)を迎えようとしていました。
捜査一課一班の森隆弘(緒形直人)は田畑昭信捜査一課長(橋爪功)から時効成立阻止のための助っ人として二班の捜査に参加するよう命じられました。普段はライバル関係にある二班への助っ人ということで、森は憮然としながらもこの事件に携わることとなりました。
この事件のカギを握っているのは、ゆき絵と犯人・武内との間に生まれた娘・ありさ(黒川芽以)でした。その事実を知っているはずの武内が第一時効の成立後に彼女との接触を試みるであろう、という予測の元に捜査は続けられました。
しかしながら、二班班長の楠見正俊(段田安則)は、森に事件とは全く関係のない判事の素行調査を命じました。森は不満を感じつつ判事の調査をするのでした。
楠見の真意を測りかねたまま、森は新たに任ぜられたありさへの張り込みを続けますが、変化のない日々が続き、とうとう第一時効成立の瞬間を迎えます。ここからが本当の勝負と刑事たちは息巻きますが、武内が現れる気配は全くありません。焦りと疲労が極値に達する中で、森は何もできずに第二時効の成立を迎えてしまいます。絶望感が漂う中に現れた楠見は、「第三の時効」の存在を明らかにします。
普通、「時効」といえば、「公訴時効」を指し、つまり裁判を起こせるリミットの期日です。その期日までに犯人を逮捕して送検・起訴となる訳ですが、逮捕という手続きを経なくても犯人が特定されてさえいれば裁判所に起訴できるのです。起訴から公判までは6日間。「第三の時効」が発生し、「第二の時効」から6日が過ぎれば、今度こそ本当に時効が完成するわけです。
「第二の時効」くらいまでは誰でも知っていますが、「第三の時効」のことなど警察関係者でも知る者は少なく、ましてや素人の武内が知っている訳もありません。はたして「第二の時効」が過ぎた翌日、武内から電話がかかって来ました。
そして、さらに事件は最後の最後まで、大どんでん返しが待っています。
3.みどころ
海外渡航による時効の延長は、刑事ドラマでもよく取り上げられる題材なので、多少推理小説を読んだりしていると、時効成立まで逃げ回っている武内だからこそ当然知っているだろう、という大前提の元に組み立てられた話なのですが、楠見班長が仕掛けた罠は権謀術数主義者も真っ青な冷血振りで、現代日本人にはまずいないタイプです。
森刑事は前述のように楠見とは対極的な人情派刑事で、私生活でもそれなりにアレコレあることもあって、楠見班長のあまりな冷血漢ぶりには視界が真っ赤になるほど憤りを覚えたりします。この二人の対峙シーンでは、エキサイトはあるものの基本的には言葉を交わしているだけなのですが、下手な戦闘シーンよりも緊張感がありました。
それにしても楠見班長段田安則の凄味。クライマックスの容赦のなさには、こんな人が職場にいたら部下はもちろん上司でも生きた心地がしないでしょう。一体普段何を考えているのか分からない、得体の知れない怖さがあります。さらにはその裏を見抜いて、森刑事を二班に応援配置した田畑捜査一課長、橋爪功は全部を飲み込んだ恐ろしいまでの洞察力を演じます。
4.参考
2020年4月27日、「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律」(平成22年法律第26号)が成立し、同日公布され、殺人罪など人を死亡させた犯罪であって死刑に当たるものについて公訴時効が廃止されるなどの改正が行われました。
公訴時効とは、犯罪が行われたとしても、法律の定めるところの期間が経過すれば、犯人を処罰することができなくなるものです。このドラマで例えば、強姦致死罪の公訴時効期間は、これまでは15年とされていましたので、たとえ凶悪な犯人であっても、15年間逃げ切れば、処罰されることはありませんでした。
法 定 刑 | 改正前 | 改正後 | |
1 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が死刑である犯罪(例:殺人罪) | 25年 | 公訴時効なし |
2 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が無期の懲役・禁錮である犯罪(例:強姦致死罪) | 15年 | 30年 |
3 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が20年の懲役・禁錮である犯罪(例:傷害致死罪、危険運転致死罪) | 10年 | 20年 |
4 | 「人を死亡させた罪」のうち、法定刑の上限が懲役・禁錮で、上の2・3以外の犯罪(例:自動車運転過失致死罪) |
5年又は 3年 |
10年 |
5.まとめ
優れた原作を、優れた俳優が紡ぎあげた、優れたサスペンスドラマです。最後のどんでん返しが視聴者にミステリーであったことを思い知らされます。