凸凹玉手箱

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ドラマ『横山秀夫サスペンス 囚人のジレンマ』シリーズの集大成です!!

このドラマ『囚人のジレンマ』は、TBSの「横山秀夫サスペンス」シリーズ第5弾として、2004年に放映されました。

監督は、榎戸耕史が担当し、主演は刑事課長、田畑昭信役の橋爪功で、同時に起きた殺人事件と人間関係との間で苦悩する中間管理職の悲哀を全編にわたって表現しています。また本作はこれまでの集大成ともいえる作品で、伊武雅刀段田安則石橋凌金子賢と各シリーズの主人公たちが一堂に会し、田畑課長のもとで一癖も二癖もある刑事を演じています。

目次

 

 

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1.概要

1)状況

舞台は、山梨県警で、捜査一課強行犯係には3つの班があり、その全てがここ5年間の検挙率はほぼ百パーセントで「最強軍団」と呼ばれていました。3つの班にはそれぞれ特徴のある班長がいて、一班班長の朽木(渡辺謙カメオ出演)、二班班長の楠見(段田安則)、そして三班班長の村瀬(伊武雅刀)となっています。

山梨新聞の真木智広(立川三貴)に「下が弱ければ困るし、だからって強すぎてもやっかいだ。」と言わせるほどで、それぞれがお互いに強烈なライバル意識をもち、鎬を削っていた。そんな捜査一課強行犯係の3つの班をまとめるのが捜査一課課長の田畑(橋爪功)でした。


2)事件発生

立て続けに3件の殺人事件が起こり、捜査一課の全ての刑事が捜査に駆り出されました。最初に起こった主婦絞殺事件には一班、次いで起こった証券マン焼殺事件は三班が担当することになりました。しかし一班班長の朽木は、現在強盗殺人犯を追ってアメリカに飛んでいるため、以前に三班班長代理として事件を解決した東出(石橋凌)が異例の一班班長代理に就くことになりました。


3)一課長のジレンマ

進まない捜査と上司からのプレッシャー、部下たちの独善的な行動、記者との情報戦、先輩刑事の境遇、様々な要因から田畑は次第にジレンマに陥っていくのでした。


2.3つの事件

1)主婦殺人事件

2週間前、最初に起こった韮崎市内の嶺峰寺霊園敷地内で、木彫り人形師坂田の妻、留美(平山さとみ)が絞殺されました。

所轄は砂川警察署。順番から一班を当てたいのですが、引き続き朽木班長が国際捜査中のため、田畑課長は、班長代理として事件解決の実績を作っている、三班の東出裕文(石橋凌)を一班に出向させ班長代理とすることにしました。組織融和の狙いもあったのに、村瀬班長は、東出に応援を期待するなと因果を含めるのでした。

 

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現場に続く県道に設置されたNシステム(ナンバー自動読み取り装置)で捉(とら)えたレンタカーから、「イトイフーズ」経理担当の掛川守(伊藤洋三郎)を割り出すことができましたが、この容疑者は相当の魂(タマ)でした。

被害者の坂田留美も男性関係が派手で、出会い系サイト「伝言ダイヤル」に嵌(はま)っていたことまで掴(つか)めたけれど、如何せん人形師の夫が携帯電話を頑(かたく)なに持たせなかったため、公衆電話を使用していたと思われ、通話記録から接点を特定することは難航していました。


2)証券マン殺人事件

主婦殺人事件発生の2日後、甲府市内の山宮町マンション一室で、「山菱証券」の熊野悟(齊藤あきら)が灯油を掛けられ放火・焼殺されました。

 

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所轄は武田警察署。三班を当てて、手口が残忍なことから株取引損失の怨恨(えんこん)の線より捜査開始しました。しかし、現場は丸焼けになっている上に、灯油を販売しているガソリンスタンドからも遅々(ちち)として有力証言は得られず、また、株取引顧客を虱潰(しらみつぶ)しに当たっても容疑者らしき人物は出て来ませんでした。


3)調理師殺人事件

3日前に高見川河川敷で、居酒屋「安寿」の調理師: 永井克也(宮本大誠)の殺害溺死事件が起こり、前の事件が解決したばかりだった二班を当てました。

この死体遺棄事件の容疑者として、被害者の妻、永井貴代美(前川麻子)を任意同行で取り調べるとの報告が上がって来ました。確たる物的証拠もないまま見込み捜査で妻を引っ張って、徹底的に絞って自白に追い込もうとする二班の楠見は、7年前に被害者の夫が自分から進んで入った1億円の生命保険にも拘わらず、妻を真犯人と睨んでいると言い切りました。

 

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公安畑上がりの冷徹な楠見よりもむしろ、長く仕えている田畑を慕う若手刑事の矢代勲(金子賢)がハラハラする中、田畑は止めるよう命じるが、楠見は無視して強引に突っ走るのでした。


3.2人のやり方

1)伴内刑事

三班に返り咲いた伴内孝(上田耕一)は、中堅刑事の松田秀行(田中哲司)らから、動きが丁寧過ぎてスローなため相棒として足手まといだとさげすまれていることを知るのでした。

 

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伴内は、かつて田畑にとって刑事のイロハを教えてくれ、亡き妻と3人で休日を大いに楽しんだ先輩刑事であり、退官を1年余りに控えた或る日に、所轄に居る彼が手紙を寄越し、最後にもう一度、本部の強行犯捜査に戻って頑張りたいとの情熱にほだされ、手を尽くして捜査一課に戻ってもらっていたのでした。

 

2)東出班長代理

一班に出向したばかりの東出は、任意同行し取り調べを繰り返しても、限りなく疑わしい掛川のノラリクラリに手を焼いていました。そんな新しい班長代理の姿に、部下となった刑事達はあせりを隠せず、浮き上がった感が出て来ていました。
突破口を得るために三班の村瀬に相談を持ち掛け、捜査協力を得るのでした。

 

4.楠見班長の筋書

1)深慮遠謀

東出に主婦殺人事件の犯人は2人組なのではと相談され、記者真木に流し、それを課長に聞かせば、村瀬にヒントを与えることになり、伴内に持ち込ませることになると踏みました。


2)メンツ

東出が単独で動けば一班の手柄になる、といって、二人組説を村瀬に伝えれば、三班のメンツが立たなくなる、では伴内に直接言うか、それでは40年デカを続けてきた男のプライドを傷つける、という訳でした。


3)真木記者の真意

伴内を、もう二度と現れないのなではないような、あんなに情が深くて、苦労人の刑事と認めていて、あえて利用されることにしたのでしょう。

 

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5.囚人のジレンマとは

囚人のジレンマの説明としてよく用いられるのはこのような例です。

同一の事件において逮捕された2人の囚人が、互いに意思疎通をできない牢獄にいる。そこで2人に対して、個別に提案を出される。「自白すれば司法取引により釈放されるが、もう1人も自白した場合は2人に懲役3年が科せられる。1人が自白し、もう1人が黙秘した場合には、自白した者は釈放され、黙秘した者は懲役5年が科せられる。一方、両方が黙秘した場合は、懲役1年が科せられる。」

司法取引とは、他人の犯罪を明かす見返りに、容疑者や被告の刑事処分を軽くすること。アメリカでは一般的ですが、日本においては2018年6月から施行されたばかりの制度です。

懲役の年数に関しては大した意味合いは無いので、大小関係が分かれば多少変わった例が出ていても問題ありません。5年でも10年でも50年でも同じ結論に達することになります。

となりますが、本作においては、共犯の他方が自白したので、一気に解決しました。村瀬が楠見に、調理師殺人事件で子供じみた方法となじりましたが、結局主婦殺人事件で、伴内にこの方法をとらせています。横にいた田畑課長にハニカンダ笑みをみせながら。

1)調理師殺人事件

被害者の妻永井貴代美とその友人の鵜崎徹(吉田慎之介)を、1億円の保険金目当てで殺害したとし、任意で引っ張った喜代美に宇崎が吐いたとひっかけて自供させました。


2)主婦殺人事件・証券マン殺人事件

被害者坂田留美の交際相手、家田和夫(山下真広)と掛川守(伊藤洋三郎)を尋問し、家田に掛川が喋ったとカマをかけて自白に導きました。

 

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6.まとめ

一見いがみ合う面々が、お互いの立場、能力、メンツを認め、踏まえて動きました。自負があるからいがみ合い、認めているから手を差し伸べる。みごとに男の世界を描いています。