凸凹玉手箱

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映画『プラトーン』間違いなく戦争映画の名作の1つです!!

この映画『プラトーン(Platoon)』は、1986年に公開されたアメリカの戦争映画です。監督・脚本はオリバー・ストーンで、出演はチャーリー・シーントム・ベレンジャーウィレム・デフォーでした。

第59回アカデミー賞で、作品賞、監督賞、編集賞、録音賞を受賞し、脚本賞助演男優賞ベレンジャー/デフォー)、撮影賞がノミネートされました。

目次

 

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1.背景

題名の意味するものは、30名~60名編成の小隊です。主人公の目を通じて、ベトナム戦争についてありのままに描いた傑作戦争映画として認知されています。

ベトナム戦争を描いた作品ですが、このジャンルの中でも最も評価されている作品の一つで、この作品がつくられる以前に作られていたベトナム戦争映画の中で映画史に残る有名な作品は、『ディア・ハンター』(1978年)と『地獄の黙示録』(1979年)の2本です。この2つのベトナム戦争映画のリアリティのなさに憤ったストーンは、従軍経験を活かしリアルな戦争映画を作り上げました。

 

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2.ストーリー

場所は、1967年のベトナム共和国(「南ベトナム」)です。クリス・テイラー(チャーリー・シーン)は、両親の反対を押し切って大学を中退し、アメリカ陸軍に志願して、ベトナム戦争の戦場へやってきました。

自分と同年代で、それも地域によっては依然として白人と比べて劣悪な扱いを受けている黒人やその他の少数民族、果ては誰も名前を知らないような小さな町で生まれ育った貧困層などの、アメリカ合衆国の底辺層である若者が、職業と現金を求めて、次々とアメリカ軍に入隊していく現実に憤りを覚えていました。

しかし、現地に配属された当日に、南ベトナム解放民族戦線(ベトコン)のゲリラ戦に悩まされ、鬱蒼とした密林のジャングルで対峙する戦場の過酷さは、彼の想像を遥かに超えるものであり、自身の正義ぶった決断に後悔することになりました。

クリスは、カンボジア国境付近に駐屯するアメリカ陸軍第25歩兵師団のある小隊に配属されます。そこは、まさに戦鬼と化したボブ・バーンズ2等軍曹(トム・ベレンジャー)と、まだ人間らしさを残したゴードン・エリアス3等軍曹(ウィレム・デフォー)が取り仕切る小社会でした。

 

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クリスはその中で黒人と白人の混成部隊が分け隔てなく時に敵と戦い、時に戦友たちと大麻に溺れ、徐々に小隊、兵隊生活、そして戦争になじんでいきました。

しかしながら、戦争はさらに過酷さを増し、ベトコンの罠ばかりか、味方の同士討ちまでもが小隊を襲います。戦友は次々と倒れ、生き残った戦友たちの中には、現地民間人に手を出すものまで現れて、彼らの処遇を巡ってバーンズとエリアスの対立は決定的な破局を迎えました。

 

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エリアスは民間人を殺害しようとしたバーンズを軍法会議に告発しようと考えていましたが、バーンズは戦場の混乱の中でエリアスを殺害して口を封じてしまいます。クリスは、バーンズの態度から彼がエリアスを殺したことを察知し、仲間たちに報復を呼びかけますが、彼らはバーンズに一喝されて尻込みしてしまいます。

それから数日後、ベトコンの大部隊が夜襲を仕掛け、クリスたちは戦場で敵に囲まれてしまいました。司令部もベトコンに攻撃を仕掛けられ、指揮官は司令部ごとベトコンを空爆するように指令を出し、クリスたちは味方の空爆に巻き込まれてしまいました。

 

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翌朝、負傷したものの空爆を生き延びたクリスは、同じように重傷を負っていたバーンズを見付け敵の銃を拾い上げて彼を射殺すます。クリスは味方の部隊に救出され、戦場を後にしました。


3.オリバー・ストーン

オリバー・ストーン監督は、本作と『7月4日に生まれて』(1989年)でアカデミー監督賞を2度受賞しています、『ニクソン』(1995年)や『ブッシュ』(2008年)、最近では『スノーデン』(2016年)など、政治について描いた社会派作品や、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)に代表される反体制的な作品を多く撮っています。

今では、ハリウッドの巨匠の1人である彼は、まだ二十歳になりたての頃、イェール大学を中退し小説家を目指していました。しかしほとんど相手にされず、父親からも見放されていました。

そして、自殺をしに行くような形で、1967年からアメリカ合衆国陸軍に従軍しました。そして、この従軍の記憶は彼の人生に大きな影響を与えることになりました。

除隊後はマーティン・スコセッシのもとで映画制作を学ぶことなります。つまりはストーン自身、スコセッシの代表作『タクシードライバー』(1976年)の主人公トラヴィスのようなベトナム帰還兵だったのです。実際ストーンは生活のためにタクシードライバーとして働いていました。

そんなこんなでベトナムから帰還して8年後、本作『プラトーン』のシナリオをかきあげたストーンは、いろいろな映画会社にシナリオを送りますが、なかなか相手にされません。アメリカの負の歴史を取り扱った映画を撮影しようと考える者がいなかったことに加え、80年代に入ったらレーガンが右翼的な政治を推し進めていたため、なかなか映画化したがらなかったようです。

そんな中イギリスの会社が資金提供し、600万ドルという破格の安さで作られたこの作品が世界中で大ヒットし、アカデミー作品賞までも受賞し、一躍注目の監督にのし上がりました。


4.みどころ

1)役作り

撮影が始まる2週間前、ベトナム戦争の退役海兵隊員であり軍事専門アドバイザーのデイル・ダイが俳優達に14日間の訓練を施しました。その間は俳優達はお互いを役名や階級で呼び合ったり、兵隊が実際に持つ道具一式を運んだり、兵隊の日々の職務を果たさなければなりませんでした。

また、食事も配給の缶に限定し、無論シャワーを浴びることも許可しませんでした。オリバー・ストーンが体験した戦争の記憶を再現するために、徹底的にキャストを追い込んだのです。

 

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なお、デイル・ダイは本作でハリス大尉としてキャストに参加し、ジャングルでの戦いのクライマックスで、敵の攻勢に窮地に立たされ、空軍に、敵味方が入り乱れた自分たちのいる陣地を爆撃するように命じて、「これが戦争だ」と叫んでいます。


2)徹底的なリアリズム

オープニングで、基地にヘリコプターが到着し、黒い死体袋が運ばれる様を何事もないかのようにスルーする様に、主人公たちは呆然とします。

ヘリから地上に降り立つクリスは言わずもがなですが、これはストーン本人なのです。愛国心のために大学をドロップアウトし戦争に赴くクリスは、イェール大学を中退して戦争に赴いたストーン自身に重ね合わせられています。

この作品の魅力はなんといっても、監督の従軍経験をもとに、徹底的なこだわりを持って描かれる戦場のリアルです。元従軍者であるストーンの実体験が反映されていて、主人公が目にする、スクリーン上で行われることのほとんどが、その体験をもとにして作られました。

そのため、慈悲もなにもないシーンが続きます。新兵は何も教えられないまま戦場に赴きかします。新兵とともに行動することは自分の命を危険にさらすリスクを高める行為だからです。また味方同士の汚い罪のなすりつけなども見せつけられました。

そんななかで撮影されたこの作品の銃撃戦はスタイリッシュなものではなく、ドロドロとしたむごたらしさを感じさせるように作られています。そのドロドロさは、画面越しに伝わるリアリティだけでなく、ストーリーにもあてはまってきます。

 

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3)ソンミ村の虐殺

この作品の一番のみどころのひとつに、ベトナム民間人に暴虐の限りをつくすシーンがあります。もうこれは最早ホラー映画的なトラウマシーンなのですが、ベトナム戦争中に起きた凄惨な事件、ソンミ村の虐殺で起こったことをありのままに描いています。

村に武器があることを知ったバーンズ曹長は、住民たちに暴虐の限りをつくし、子供を人質に取ったりなどして、村長を脅迫します。民間のベトナム人に暴虐的に振る舞うバーンズ曹長を止めようとするエリアスはバーンズと対立することになりました。

このシーンは、米兵の視点から描いているとは思えないほど、恐怖を感じさせるつくりになっています。言葉の伝わらない彼らは何を考えているかわからないから、腹いせにとりあえず殴り、撃ってしまうのです。

 

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4)フラギング

エリアスの理想主義的な考えが煩わしかったバーンズは、エリアスを殺害しようとします。ベトコンにやられたかのようにするため、クリスに死んだと伝えますが、銃で撃たれ死んだかのように思っていたエリアスはまだ生きていたのでした。

撤収するヘリの仲間に合図を送りますが間に合わずそのままベトナム兵にやられて死んでしまう、このときに見せるのがあの有名なポーズです。ネタにされまくっていますが、割と衝撃的なシーンなのです。

前項のように、ソンミ村の虐殺では、レイシズムをむき出しにしたような殺人が凄惨に描かれていましたが、意見の食い違った味方をも殺してしまいます。

本作になかなか出資が集まらなかったのは、この「フラギング」と呼ばれる米兵による米兵殺しという事実を描いたため、と言われています。

つまりは、メンタルが崩壊してしまっているのです。一度殺人を経験してしまえばもとには戻れない。良心が麻痺し、無感情になってしまいます。しかし、その状態にまで堕ちないとこの地から生きて帰るのは難しいという悲しい事実を突き付けられてします。

仲間すら殺しても何も感じないということ。これがベトナム戦争の現実なのでしょう。

 

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5.まとめ

オリバー・ストーン監督が感情と実体験とをぶちまけたかのような映像の連続に、観客は度肝を抜かれ、見終わった後には戦争や殺しについて考えざるを得なくなってしまいます。

戦争のリアルを伝える作品として、間違いなく成功した。そんな作品でした。