映画『刑事マディガン』リチャード・ウィドマークが熱血刑事を好演しています!!
この映画『刑事マディガン(Madigan)』は、リチャード・ドハティの小説(原題:The Commissioner「本部長」「警察委員長」の意味)を原作に映画化された、1968年制作のアメリカ合衆国の刑事アクション・サスペンス映画です。
ドン・シーゲル監督で、リチャード・ウィドマーク、ヘンリー・フォンダの共演です。
目次
1.概略
原作は警察委員長そのものがタイトルになっていますが、本作のメインは、拳銃を奪われた刑事の捜査であり、それと並行に、様々な問題を抱える警察委員長の、考えを巡らせながらの実務と私生活を描く物語となっています。
何と言っても、『ダーティハリー』(1971年)へとつながるドン・シーゲルのキャリアの軌跡が、今となっては実に興味深い作品でもあります。
同年の7か月後に公開される『マンハッタン無宿』(1968年)でクリント・イーストウッドと組むことになるドン・シーゲルは、本作でも、タイプはやや違うものの、強引な捜査で事件を解決しようとする主人公を登場させていて、後の2作につながるキャラクターとして注意しながら見ていると面白く、その『マンハッタン無宿』や『ダーティハリー』にも出演するスターも要チェックです。
ドン・シーゲルの、各個性を生かしながらの切れのいい演出、豪華スター競演もファンには嬉しい見逃せない作品となっています。
撮影のラッセル・メティによる、当時の生活文化をリアルに映し出す映像、軽快なドン・コスタの音楽も印象的です。
妻を愛しながらも、命を懸けた仕事にを重視するしかない、哀歓を感じさせる生き様を見事に演ずるリチャード・ウィドマークと、彼らに指示を出す難しい立場の警察委員長として職務に徹しながらも人間味を感じさせる一面も見せる、存在感としては他を圧倒するヘンリー・フォンダも好演しています。
2.ストーリー
1)金曜日
ニューヨーク、スパニッシュ・ハーレムで、ダニエル・マディガン刑事(リチャード・ウィドマーク)と相棒のロッコ・ボナーロ(ハリー・ガーディノ)は、悪党のバーニー・ベネシュ(スティーヴ・イーナット)のアパートに押し入りました。
2人は、女といたベネシュを連行しようとしますが、隙を見た彼に銃を向けられ、マディガンとボナーロは、ベネシュに銃を奪われた上に逃げられてしまいました。
警察委員長のアンソニー・X・ラッセル(ヘンリー・フォンダ)は、本部長チャールズ・ケイン(ジェームズ・ホイットモア)から、マディガンとボナーロの失態を知らされました。
署に戻ったマディガンとボナーロは、ベネシュが殺人の容疑者だと知らされて驚きます。焦ったマディガンは、ベネシュに何度か金を奪われているノミ屋のミジェット・カスティグリオーネ(マイケル・ダン)から情報を得ようと考えました。
オフィスに着いたラッセルは、補佐のマーヴィン(ウッドロー・パーフリー)から、その日の予定を聞き副監察官の話を聞きました。盗聴により、本部長ケインが犯罪に関わっているという証拠を掴んだという報告でした。
マディガンは、妻ジュリア(インガー・スティーヴンス)に問題を起こしたことを電話で伝え、仕事のことばかり考える夫に彼女は不満を訴えるのでした。
ラッセルは、ケインが、マディガンの上司が彼らをかばわないでいることに疑問を持っているのに対し意見します。マディガンの服装や豪勢なランチなど、刑事の生活とは思えないことで、ラッセルは彼を疑いの目で見ていました。
しかし、マディガンを優秀な刑事だと言うケインは、彼を信じていることをラッセルに伝えるのでした。昼食会に出席するため移動中のラッセルは、旧知のケインと昔話に花を咲かせ、彼に隠し事がないかを確かめました。
72時間以内にベネシュを逮捕するよう警察委員長から命ぜられたマディガンとボナーロは、ミジェットの元に向かいました。不動産業を営んでいるミジェットのオフィスに向かったマディガンらは、本人がいなかったためにその場を引き上げ休息することにしました。
昼食会を済ませたラッセルは、その場にいた愛人で既婚者でもあるトリシア・ベントレー(スーザン・クラーク)と話をします。トリシアは、ラッセルとの二重生活に迷いがあることを伝えますが、彼から愛を告げられるのでした。
オフィスに戻ったラッセルは、息子が警官に差別的な暴力を受けたという黒人牧師の話を聞き、真実ならば処分することを約束しました。
一旦、自宅に戻ったマディガンは、普通の生活をしたいという口うるさいジュリアに苛立ちます。
ミジェットの居場所を突き止めたマディガンとボナーロは、ベネシュを恐れて身を隠したという彼を尋問して、街に戻るよう説得します。
署でボナーロと別れたマディガンは、馴染みのクラブに向かい歌手のジョーンジー(シェリー・ノース)とテーブルを共にして気を紛らします。前日寝ていないため疲れ切ったマディガンは、一線を超えないように気を使いながら、ジョーンジーの家で仮眠をとるのでした。
2)土曜日
ボナーロは、現れたマディガンと共に、情報を元にある場所に向かいました。
トリシアと一夜を共にしたラッセルは、ケインに裏切られたことを伝えますが、彼女は話し合うべきだと助言します。職務を果たす義務があることを強調するラッセルは、夜まで自分を待っていられないというトリシアを抱きしめました。
朝から飲んでいる男から、ベネシュの居場所を知らされたマディガンとボナーロでしたが、それは人違いでした。
ベネシュの件で、ケインから進展がないことを知らされたラッセルは、副監視官からの報告書を彼に見せました。汚職の件を認めたケインは、辞職することをラッセルに伝えて席を外そうとします。
しかしラッセルは、事に至った理由の説明を求めました。ケインは、息子が原因だとラッセルが知っていたため、悪党に借金をした見返りに手入れをしないことで話をつけたことを伝えました。
それを責めるラッセルだったが、子供のいない彼は、息子に対する親の気持ちが分かるかと問われるのでした。ラッセルはそれを否定しますが、副監視官は間違いなく糾弾すると言ってケインに警告しました。
ケインは、ラッセルにバッジを渡して、後の処分は任せると伝えて立ち去るのでした。
その後マディガンとボナーロは、ミジェットの情報で、ベネシュに女を紹介した男ヒューイ(ドン・ストラウド)がいる映画館に向かいました。ヒューイを尋問したマディガンは、ある場所を聞き出しました。
荷物をまとめていたケインは、現れたラッセルからバッジを返されました。
ジュリアの元に向かったマディガンは、その夜のパーティーにまともに付き合えないと言ったため彼女と口論になってしまいます。
マディガンはジュリアを伴いパーティー会場に向かい、同僚のベン・ウィリアムズ(ウォーレン・スティーヴンス)に彼女を任せてその場を離れました。
電話をしようとしたマディガンはラッセルと出くわし、捜査が進展していないために動揺してしまいます。
その頃、パトロール警官がベネシュらしき男を尋問しようとしますが、彼らはベネシュにその場で銃撃されました。
マディガンとボナーロは、ベネシュが女と会うことをヒューイから知らされました。
ベネシュの銃撃現場に駆け付けたラッセルとケインは、二人の警官のうち一人が死亡し、もう一人は重傷であることを知りました。
ラッセルは、発見されたベネシュが捨てた拳銃を確認し、その場に現れたマディガンは、その拳銃が自分の物であることをラッセルに伝えました。
酔ったジュリアはベンといい雰囲気になるのですが、正気に戻った彼女は夫を裏切ろうとしたことを後悔し、ホテルに送ってもらいました。
3)日曜日
ヒューイからの連絡で、ベネシュの居場所をほぼ突き止めたマディガンとボナーロは現場に向かいました。
警察はその場を包囲し、ラッセルとケインも駆けつけ、武装したベネシュとの銃撃戦が始まりました。
到着したマディガンは、ケインに建物の見取り図を渡し、マディガンとボナーロは建物に入り、女を人質に立て籠もるベネシュを説得します。
2人は部屋に突入するが、マディガンは銃弾を受けてしまい、ボナーロがベネシュを射殺しました。
瀕死のマディガンは、ラッセルとケインに見守られながら、ボナーロが付き添って病院に運ばれました。
マディガンは、ジュリアと二度と会えないことを覚悟しながら病院に到着します。
ジュリアは病院に到着するもののマディガンは死亡し、話しかけてきたラッセルを彼女は人殺しだと言って罵倒し、ボナーロに支えられながらその場を去るのでした。
ケインと共に建物を出たラッセルは、翌日、副監視官と話し合うことを約束してオフィスに向かうのでした。
3.本筋
悪党バーニー・ベネシュを逃がし拳銃を奪われ、捜査して隠れ家を探し出しましたが、銃撃戦となって、ダニエル・マディガン刑事は死亡する。
4.伏線のあつかい
1)本部長ケインの汚職
警察委員長ラッセルの温情で即決せず後日に持ち越し未回収。
2)妻ジュリアの不満
妻を愛していたが、仕事優先のマディガンが殉職したことで消滅。
3)警察委員長の不倫
既婚者トリシア・ベントレーへのラッセル委員長の不倫恋慕の決着未回収。
4)警官の差別的暴力問題
黒人牧師の息子が警官に差別的な暴力を受けたとのクレームを対処後日に先送りで未回収。
5)もてるマディガン
歌手ジョーンジーのマディガンへの思い、マディガン死亡により消滅。
5.エピソード過多?
前項のように面白そうな未回収の伏線が多数あり、魅力的なキャラクターの委員長(ヘンリー・フォンダ)をはじめ、本部長ケイン(ジェームズ・ホイットモア)、相棒のロッコ・ボナーロ(ハリー・ガーディノ)、、情報屋ミジェット(マイケル・ダン)、歌手のジョーンジー(シェリー・ノース)と多士済々で、伏線とキャスティングでテレビドラマ1クールは作れそうです。
実際、1972年には、主人公だけを拝借する形でテレビドラマ化されたそうです。
6.まとめ
マディガンと警察委員長のストーリーが並行して描かれていて、一見してハードボイルドな刑事物ではなく群像ドラマになっていて、影は影として捉える映像ではなくどのショットでも照明はフラットに当てられているので、間延びした感じになってしまっています。
このへんが、ドン・シーゲル作品ではありますが、60年代ハリウッドの映画である証でしょう。しかしながら、ラストの銃撃戦の熾烈さは60年代の穏当さを突破しています。