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映画『ハリーの災難』ヒッチコックのブラックでコメディなサスペンスです??

この映画『ハリーの災難(The Trouble with Harry)』は、ジャック・トレヴァー・ストーリーの1949年の同名小説を原作として、監督はアルフレッド・ヒッチコック、出演はエドマンド・グウェンとジョン・フォーサイスなどによる1955年のアメリカ合衆国のブラック・コメディ映画です。

目次

 

 

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1.紹介

「殺人」という事実(実は病死)のみが恐怖を連想させるだけで、4人の人の好い田舎の村人が、あたふたする姿をユーモラスに、また軽快なタッチでで描いています。ヒッチコックの演出は素晴しく、シンプルな中に捻りを効かせています。

ヒッチコック作品には、もともと、ユーモアは欠かせない要素
ですが、かねてから彼が提唱する”殺人は喜劇だ”の最たるものがこの作品となっています。


2.ストーリー

1)プロローグ

バーモント州の秋深まる小さな村で、森の中で奇妙な事件が起きました。

幼い男の子アーニー・ロジャース(ジェリー・メイザース)が森の中で遊んでいます。すると3発の銃声が鳴り響き、アーニーは恐怖から身をかがめます。

アーニーが銃声の聞こえたほうへ進んでみると、額から血を流した男の死体が横たわっていました。アーニーは驚いてその場を立ち去りました。

 

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2)見つかった死体

ウサギを撃つために森にいた元船長のアルバート・ワイルス(エドマンド・グウェン)は、空き缶や禁猟区域の看板に命中した自分の弾を確認しながら歩いていました。

そして、ワイルスは男の死体を見つけ、自分が誤って撃ち殺したものと思います。

死体を隠そうとしたワイルスでしたが、そこに、アイヴィ・グレイヴリー(ミルドレッド・ナトウィック)が現れます。

悪気はなかったと、動揺するワイルスに同情するアイヴィは、彼を午後のお茶に誘いその場を立ち去りました。

その直後、アーニーと母親のジェニファー(シャーリー・マクレーン)が現れて、彼女は、死体の男を知り合いの”ハリー”だと確認しました。

 

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ジェニファーは何も気にしていない様子で、アーニーにただ忘れるようにと言ってその場を引き上げるのでした。

次に、読書をしながら散歩をする、ハリーの死体に気づきもしないグリーンボウ医師(ドワイト・マーフィールド)、そして現れた浮浪者は死体の靴を盗んでいきました。


3)船長と画家の思惑

売れない青年画家サム・マーロウ(ジョン・フォーサイス)は、雑貨店を経営するウィグス夫人(ミルドレッド・ダノオック)の店先に、自分の絵を置いてもらっていました。

通りがかったある老紳士が、マーロウの絵に興味を持ちましたが、彼は、店に来ていたアイヴィやウィグス夫人との話しに夢中になっていたため、老紳士はその場を立ち去ってしまいます。

その後、マーロウは森でスケッチを始め、ハリーの死体を見つけました。

立ち去ろうとしたマーロウでしたが、死に顔のスケッチを始めて、現れたワイルスから事情を聞くことにしました。

 

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マーロウは、死体の発見を警察に届ける義務も考えますが、その場はワイルスとハリーを隠し、彼を知るジェニファーの様子を窺いに行こうとします。

再び読書するグリーンボウ医師が現れますが、彼は死体に躓くものの、ハリーが死んでいるとは気づかずに立ち去ってしまい、マーロウとワイルスは死体を隠しました。


4)ワイルスの潔白

ジェニファーの家に向かったマーロウは、彼女の夫がハリーで、アーニーが持っていたウサギは、ワイルスが撃ったものだということを知ることになりました。

ハリーはジェニファーの2度目の夫で、最初の夫はハリーの弟ロバートで、ロバートが亡くなったために、ジェニファーを気の毒に思ったハリーは彼女と結婚したのでした。

しかし、ハリーは星占いでジェニファーを捨てることを決めてしまいます。

ジェニファーはショックを受け、名前まで変えて田舎に潜んでいたのですが、今朝、ハリーが突然現れ家に入ろうとしたのです。

咄嗟にジェニファーは牛乳ビンでハリーを殴りましたが、彼は”死んでも妻を連れ帰る”と言いながら、ふらついて森の中に消えて行ったというのでした。

その日の午後、ワイルスは、約束の時間にアイヴィの家を訪ねてお茶を楽しむが、そこにアーニーがウサギを持って現れます。

アーニーは、そのウサギはワイルスが撃ったものだと言いました。

その後、マーロウとワイルスは、ハリーを埋めるために森に行き穴を掘り始めます。

死体を苦労して埋めた2人でしたが、ワイルスは自分が撃った弾の数から、ハリーを殺していないことに気づきました。

仕方なく2人は死体を掘り起こし、ハリーに銃弾の傷ではなく、額に何かで殴られた痕があることを確認するのでした。

マーロウは、誰が犯人かをワイルスと考えながら再び死体を埋めることになりました。

 

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5)新しい犯人

その後、ワイルスとアイヴィは親密になっていきますが、彼女は、ハリーに森の中で襲われ、ハイ・ヒールのかかとで彼を殴り殺したと告白しました。

彼女の正統防衛を証明するためには、死体を確認する必要があり、ワイルスは、アイヴィが死体を掘り起こすのを手伝います。

その頃、ジェニファーの家にいたマーロウでしたが、二人はお互いを意識し始めていました。

 

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そこに、ワイルスとアイヴィが、死体を掘り起こした結果の報告に現われます。

アイヴィは、自分がハリーを殺したことを2人に話して覚悟を決め、ウィグス夫人の息子で保安官補のカルヴィン(ローヤル・ダノ)に連絡して欲しいと言いました。

しかし、ハリーの事件が公になると、彼とジェニファーとの結婚が公になることに4人は気づいて森に向い、再び死体を埋めることにしました。

森から帰る途中、ウィグス夫人がマーロウの絵が売れたことを知らせにきました。


6)ハリーの死とは

マーロウは、絵の買主の富豪に現金を請求せず、今回の事件に関わる人々に好きなものをプレゼントして、彼自身はそれを内緒にしてジェニファーに求婚しました。

ジェニファーは少し考えようとするが、そこにカルヴィンが現れ、捕まえた浮浪者が死体から靴を盗んだという話をします。

州警察に連絡していたカルヴィンは、マーロウの書いた死体の人相に似たスケッチを見つけてしまいました。

家に帰ったジェニファーは、マーロウの求婚を受け入れ、彼が富豪に何を頼んだのかを耳打ちされます。

ジェニファーはそれが役に立ちそうだと納得し、2人はワイルスとアイヴィに祝福されるのでした。

しかし、今度はジェニファーの夫ハリーの死を証明する必要があり、4人は再び死体を掘り起こすことになりました。

同居はしていなかったとはいえ、ハリーはジェニファーの夫であり、彼女に好意を寄せるマーロウも彼を殺す動機があることに、4人は死体を掘り起こしながら気づきます。

4人は相談した結果、泥だらけの死体と衣服をきれいに洗い、元通りにすることを考えました。

 

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そこにグリーンボウ医師が現れ、死体を見て驚きますが、自分の夫が事故に遭って死んだことをジェニファーは伝え、彼女の家で死体の検死することになりました。


7)打開工作

ハリーの体を洗い衣服を洗濯した4人でしたが、カルヴィンがマーロウのスケッチを持って事情を聞きに来ました。

 

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マーロウは言い逃れをしてカルヴィンを追い払おうとしますが、そこにグリーンボウ医師が現れます。

ジェニファーの機転でグリーンボウ医師を浴室に向かわせ、カルヴィンの気をそらしました。

カルビンの車をいじっていたワイルスが部屋に戻って、怯えて出て行ったと思われた彼は、実は世界の海を航海したことなどない、イーストリバーの引き船の船長だったと告白するのでした。

アイヴィは、そんな正直なワイルスに益々惹かれていきます。

そしてワイルスは、カルヴィンの車からハリーの靴を盗み出したことを知らせました。

その後、グリーンボウ医師は、ハリーの死因が心臓発作だったと判断します。

グリーンボウ医師は、ジェニファーからハリーの身に起きた一日の出来事を知らされて、それが理解できずに、動転してその場を去りました。

4人は、昨日も今日も区別のつかない幼いアーニーに、ハリーを見つけさせようと考えました。


8)エピローグ

翌日、それに成功し、一件落着した4人に笑顔が戻りました。

ようやく安堵したワイルスは、マーロウが絵の買主に注文した物が何かを尋ねましたところ、それはなんとダブルベッドだったのです。

そして、ようやくハリーの災難は終わりました。

 

 

3.四方山話

1)シャーリー・マクレーン

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バレエ学校で学び、16歳でブロードウェイにダンサーとしてデビューしました。本作が映画デビューで、コケティッシュな魅力で人気を博しました。

1983年には『愛と追憶の日々』でアカデミー主演女優賞を受賞し、ヴェネツィア国際映画祭ベルリン国際映画祭でもそれぞれ2回、女優賞を受賞しています。

俳優のウォーレン・ベイティは弟、サチ・パーカーは娘です。

1959年、日本を襲った伊勢湾台風の際には、義援金を基に日本の福祉団体を通して東海地区の小学校にピアノを寄付した逸話が残っています。


2)バーナード・ハーマン

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バーナード・ハーマンは本作で初めてヒッチコック作品に音楽を提供し、以降、1966年の『引き裂かれたカーテン』の音楽を巡って対立するまで、10年弱、映画史に残る名作を含む8本の映画で、その協力関係は続きました。

ハリーの災難(1955年)
知りすぎていた男(1956年)
間違えられた男(1956年)
めまい(1958年)
北北西に進路を取れ(1959年)
サイコ(1960年)
鳥(1963年)
マーニー(1964年)


3)カメオ出演

後姿やシルエットだけのこともあるりますが、自分の作品のどこかにほんの一瞬だけ必ず姿を出すことで知られています。

もともとこれは、初期の頃予算不足のためエキストラを満足に雇えず、やむなく出演していたという単純な理由でした。しかし恰幅(かっぷく)の良い容貌で目立つためファンが探すようになってしまい、いつの間にか恒例になったものだそうです。

理由はともかく、そのおかげでファンは作品がどんなにスリリングで手に汗握るものであっても、監督がいつ画面に登場するかを心待ちにするという稀有(けう)な楽しみを与えられました。

しかし後年はこの「お遊び」があまりに有名になってしまったため、観客が映画に集中できるよう、ヒッチコックはなるべく映画の冒頭に近いところで顔を見せるように心がけていました。

本作では、上映から約22分、青年画家マーロウの絵を見ている、老紳士のリムジンの後ろを歩いていく、コートを着た男性がヒッチコックでした。


4)ハリーのつぶやき

"カルヴェロ1952llさん"が、 2020年7月7日に「映画.com」に投稿しています。傑作ですので、引用させて頂きます。

やっと見つけたんだよ
まさか私のことをそんなふうに思っていたとは知らなかった
私はただただ彼女のことを思ってやって来ただけなのに
殴らなくたっていいじゃないか
頭はクラクラしてきてどうにも焦点が定まらない
どうにもまともに歩くことさえできないではないか

もう一度彼女に言おう、戻ってほしいと
力尽くでも連れて帰ろう、きっと彼女は悲しくて辛い生活をしているはずなのだから
なのに今度は靴で殴られてしまった
どうも胸まで苦しくなってきた、あぁ〜息をするのも辛い
苦しい、痛い、胸が痛い……

子供が居る…
誰かが私の足を持って引っ張ろうとしているぞ

まったくとんでもない一日だった、一日か?
昨日の明日は明後日じゃなくて今日のはずなのに
とにかくもうゆっくりとさせておくれ
とんだ災難だ

 

 

4.まとめ

まさに、ブラック・コメディです。人が森で死んでいたて、船長は自分の流れ弾にあたったと思い死体を隠そうとしますが、何人も人がやってきて誰も死体を見て驚かないばかりか、それぞれの思惑のままに埋めたり掘り起こしたり忙しいこと。

知らなければヒッチコックの映画だとわかりません。コメディということだけど声を出して笑うところがある訳でもありません。ばかりか、人を喰ったヒッチコック作品ならばこその映画ですね。