凸凹玉手箱

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映画『めまい』ヒッチコックの傑作サスペンス・スリラーです?!

この映画『めまい』(Vertigo)は、監督アルフレッド・ヒッチコック、出演はジェームズ・ステュアートとキム・ノヴァクなど、1958年のアメリカ合衆国のサスペンス映画です。

目次

 

 

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1.紹介

謎めいた美女キム・ノヴァクの美しさだけでなく、高所の恐怖を地面や床が落ちていく映像で見せたり、 幻覚のシーンなど、斬新で多彩な手法を満載しています。
バーナード・ハーマンの音楽と、ソウル・バスによるタイトルデザインのオープニング、イデス・ヘッドの衣装デザインは、キム・ノヴァクの美しさを素晴らしく際立たせています。
アルフレッド・ヒッチコックの巧みな演出も光り、サスペンス・スリラーの傑作です。
また、お馴染みのゴールデンゲートブリッジや、"Palace of Fine Arts"などサンフランシスコの観光名所の美しい映像も印象的です。

発表当時はヒッチコックの他の作品と同様、その女性蔑視のイデオロギーが批判されていましたが、徐々に評価を高め、近年ではヒッチコック作品の中でもトップクラスの傑作との評価を得ています。

2012年には英国映画協会が発表した『世界の批評家が選ぶ偉大な映画50選』の第1位に選ばれました。


2.ストーリー

1)プロローグ

夜のサンフランシスコ、逃走中の犯人を、警官たちは屋根伝いに追いかけていました。

警官のジョン・”スコティ”・ファーガスン(ジェームズ・ステュアート)は、足を滑らせ、屋根の雨どいに必死でぶら下がっています。

気がついた同僚の警官は、スコティを助けようと手を差し伸べますが、足を滑らせて地面に落ちて亡くなってしまいます。

スコティは、その出来事をきっかけに、同僚を助けられなかったショックとストレスから高所恐怖症になって、警官を辞めてしまいました。

 

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2)友人からの依頼

しばらくして、スコティは、女友達で下着のデザイナーのマージョリー・“ミッジ”・ウッド(バーバラ・ベル・ゲデス)と会います。彼女は、スコティを愛称ジョニーと呼ぶ学生時代の元婚約者で、2人は気兼ねなく話のできる関係でした。

スコティは、ミッジに精神科医に聞いた話をしました。「もう1度、高所恐怖症を体験することによって治る!」と言うので、一緒に試してみましたが、やはり恐怖を感じてしまいます。

 

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ある日のこと、学生時代の同級生ギャビン・エルスター(トム・ヘルモア)から、妻マデリン(キム・ノヴァク)が、何か死者にでも憑かれたように不審な行動するので、調査してほしいと頼まれます。

ギャビンの奇妙な願いに少し戸惑うスコティでしたが、マデリンを尾行し様子を見ることに決めました。


3)尾行

ギャビンは、レストラン“アーニー”で、尾行するマデリンを初めて見ました。優雅に緑と黒のドレスを着た完璧な女性に、一目で魅せられます。

次の日、マデリンは車に乗って花屋に向かい、ブーケの花束を買うと、今度はある墓地へと向かいました。

彼女が立ち止まった墓には、"カルロッタ・バルデス 1857年3月5日没"と名前がありました。

次にマデリンが立ち寄ったのはレジョンドヌール美術館で、彼女の見つめる絵画に描かれていたのは、美しい女性像です。マデリンの手にした同じブーケの花束、そしてまた同じ髪型をしていました。

尾行していたスコティは、そこにいた職員に絵画について尋ねると、"カルロッタの肖像"だと教えてくれました。

 

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その後も、マデリンは、スコティを導くかのように、マッキトリック・ホテルへ立ち寄ります。そこで2階の角部屋の窓を開けて姿を現しました。

スコティは、ホテルの女支配人に、彼女についての聞き取りを行うと、スペイン人のミス・カルロッタ・バルデスといって、2週間前に借りて2~3度来ると言いました。

女主人とスコティが、ホテルの2階に上がると忽然とマデリン(カルロッタ)の姿はなく、車も消えていました。


4)カルロッタ

カルロッタ・バルデスについて調べるため、スコティは、ミッジと共に、アーゴシー書店の主人ポップ・リーブルに聞き取りに向かいます。

 

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そこで、マッキトリック・ホテルは、元々はカルロッタのために建てられた家であることを聞きました。

また、カルロッタは、キャバレーの踊り子をしていた時に、ある男に見初められて一緒になったが、その後、捨てられてしまい、子どもは男に取りあげられ、彼女は悲運に若くして亡くなったことを知ります。

スコティは、これらの調査報告をエルスターに伝えると、妻のマデリンは、鏡の前でカルロッタの形見の宝石のネックレスを身に着けては、時折、別世界を見つめた様子だと言いました。

エルスターとの話に合点がいったスコティは、曾祖母のカルロッタの霊に取り憑かれた信じるようになっていきます。

マデリンの奇妙な行動はその後も続き、"カルロッタの肖像"を見つめていました。


5)マデリンの入水

ある日、彼女は、ゴールデン・ブリッジに向かうと、ブーケの花束を儀式のようにちぎり海へと流しました。

スコティは、その様子を注意深く見つめていましたが、マデリンは、突然海に身投げをします。慌てたスコティは、海に飛び込んでマデリンを助けました。

スコティの部屋のベットでマデリンは、悪夢に寝言を言いました。
電話の呼びベルに目を覚まし、スコティと彼女は、会話を交わしますが、彼女は行ったのは覚えているけど、それ以外の記憶は分からないと言いました。

2人は互いに自己紹介をして、マデリンは、命の恩人をジョンと呼ぶことを決めます。

 

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すると、再びマデリンの夫エルスターからの電話にスコッティが応対している隙に、彼女は車で帰ってしまいました。

それを偶然にも、車で通りかかったミッジが目撃します。


6)マデリンの錯乱

次の日、スコティは、マデリンがサンフランシスコ市内をグルグルとの運転する車を尾行しました。

マデリンの車を見失いかけましたが、やがてスコティの自宅に車を着けたマデリンは、スコティにお礼の手紙を届けようとしていました。

スコティは、尾行していた車を降りてマデリンに近寄り、ドライブに誘いました。

2人は国立公園に行き、樹齢2000年は経つであろうセコイヤメスギを前にして、マデリンは、2000年の間に生き死にした人のことを考えるとスコティに言います。

切り株の年輪を眺めると、マデリンはカルロッタが憑依したような言葉を呟き、暗い森の奥へと独り歩いて入ってしまいました。

 

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スコティは、後を追ってマデリンを海辺に連れ出すと、錯乱に怯えるマデリンは、「死にたくない、でも私の中の誰かが…、抱いて」と叫びます。

弱気なマデリンを、スコティは強く抱きめて熱い抱擁のキスをするのでした。


7)マデリンの投身

一方、ミッジは、スコティを自宅に招き、模倣してい描いた"カルロッタの肖像"に自分の顔をコラージュした絵画を、スコティに見せ、彼を激怒させてしまいます。

ある日、マデリンは、夢で見たとスコティの自宅を訪ねると、夢に出てきた場所へ一緒に行ってみることしました。

 

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2人が訪れたのは、古いスペインの遺跡の残る博物館と修道院です。愛し合う2人は抱擁し唇を何度も重ねました。

しかし、マデリンは、「もう手遅れよ…私を失えば、私が愛した事が分かるわ…教会に行かせて…」と言い残し教会へ駆け出します。

スコティは、マデリンを必死で追い掛けました。マンデリンは、教会の塔の鐘楼に駆け上がり、スコティも階段上り口まで来ましたが、高所恐怖症のため登れません。

その後階段を登りつめたマデリンは、鐘楼から悲鳴とともに、飛び降りてしまいました。

またも、落ちて行く人を救えなかったスコティ。しかも、今回は愛するマデリンを救えなかったことに苦しみます。


8)裁判

やがて、スコティは、マデリン殺しの容疑者として裁判が行われましたが、マデリンの精神異常からの自死が認定されます。

事の顛末に消沈した夫のエルスターは、スコティを巻き込んでしまった事を詫びると、サンフランシスコから立ち去りヨーロッパへ行く決意を告げました。

スコティは悪夢に悩んで、診療医院に入院し、彼を心配するミッジは、健気に看病しました。

ミッジの看護の甲斐もあって退院するスコティでしたが、それでもマデリンの面影を探し歩き回りました。


9)似た女

やがて、町でマデリンに良く似た女性を見かけたスコティは、その後を追って、彼女の泊まるホテルへ行きます。しかし、女性はカンザスから来た、ジュディ・バートン(キム・ノヴァクの二役)だと名乗りました。

 

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マデリンを諦め切れないスコティは、ジュディを食事に誘いました。

ジュディは、クローゼットの奥にあるマデリンとして着ていた服を見ると、過去を思い出します。

エクスターの妻マデリン殺しの計画に関わってしまった事実と、その替え玉の妻マデリンを演じながらも、ジョン(スコティ)を愛してしまった事を手紙に書きますが、破り捨ててしまいます。

スコティは、ジュディに生前のマンデリンと同じ化粧で、髪の色、髪型、服装になるように要求します。困惑するジュディでしたが、愛するジョンのために従いました。

やがて、ジュディはジョンの前に亡きマデリンの姿となりました。熱く抱擁する2人、すると、スコティはスペイン博物館の馬車場にいるような幻覚を見ました。

その後、完璧なマデリンになるために、鏡の前であのマデリンのネックレスを着けました。

その時スコティは、ジュディがマデリンを演じていたことを確信しました。


10)予期せぬ結末

スコティは、ジュディを連れて、マデリンが転落死した教会へと向かいます。教会の鐘楼にあがることを嫌がるジュディでしたが、スコティは彼女を強引に犯行現場に連れて行きます。

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2人は塔の最上部まで行きました。スコティの高所恐怖症は消えています。その時、ジュディは、鐘楼の薄暗い奥に揺れ動く人影を見ます。

恐怖におののいたジュディは、悲鳴をあげてあの時のマデリンのように落ちていきます。人影は修道女でした、彼女の死を悼むように鐘を鳴らしました。

そして再び落ちていった愛する人にスコティは呆然するのでした。

 

 

3.四方山話

1)撮影方法

床が落ちるような「めまいショット」は有名で、ズームレンズを用い、ズームアウトしながらカメラを前方へ動かすことで、被写体のサイズが変わらずに広角になり、鐘楼のシーンでは、ミニチュアを作成して横倒しに置き、レールに置いたズームレンズ付きカメラを移動させて撮影しています。

 

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被写体にレンズを向けたままカメラが被写体の周りを回る、陶酔感あふれる撮影法も印象的で、この撮影法は、今も幾多の映像で見かけられ、いかに魅力的な撮影方法かわかります。


2)タイトル映像

タイトル映像は、「CGの父」と呼ばれる実験映像作家のジョン・ホイットニー・シニアが、刻々と変化する光のパターンを製作しました。『2001年宇宙の旅』の10年も前の作品ですが、映画で見られる螺旋状の映像を連続して露光させるため、撮影手順をアナログ・コンピュータでプログラムした初期のモーション・コントロール・カメラが使われています。


3)ヒロイン

当初ヒロイン役にと構想していたヴェラ・マイルズが妊娠のため降板し、キム・ノヴァクを起用しましたが、監督はノヴァクのキャラクターや態度(演出面に関する口出し)に非常に不満を感じていました。

ヒッチコックはヒロインの女性像を、ノヴァクのような魅惑的なものではなく、清楚で健全な女性に求めていたようでで、泳げない彼女をサンフランシスコ湾に飛び込ませたり、彼女が大嫌いであったグレー色を主要な衣装に使用したりとその仕打ちは苛烈なものでした。

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しかしながら、結果的に、ノヴァクはそういうプレッシャーをはねのけ、作品の鍵となる“危うげな優雅さ”のようなものを見事に表現してみせました。

彼女の残した存在感は、主演のジェームズ・スチュワートを凌ぐほどだったと言っても過言ではありません。


4.まとめ

本作は、細部を知れば知るほど味わいが増し、咀嚼するたびに理解が深まっていきます。ストーリー的にも決して一筋縄ではいかず、かなりアブノーマルな側面すら併せ持っています。

はまる人はこの香りに危険なほどはまってしまうでしょう。まだ体感したことがないなら、ぜひ一度、この幻想的な迷宮へ足を踏み入れてみてはいかがでしょう、もちろん好き嫌いはあるでしょうが。