映画『鍵泥棒のメソッド』二人の人生が入れ替わる悲喜劇だそうです！！

 

たまたま銭湯で、売れない役者と凄腕の殺し屋（？）とが入れ替わった人格交代劇に、ちょっと変わったヒロインを絡ませたラブコミック（？）でしょうか？

コミックスや海外で人気のでたものを原作とするドラマや映画が多い中、この映画は、監督内田けんじのオリジナル脚本となっていて、見事に日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞しています。

てんこ盛りの伏線やどんでん返しがよくねられたプロットと、思わず噴いてしまうユーモアが散りばめられていて、まことに面白い映画となっています。

　　

さて、物語は、前述の3人を中心に展開しますが、冒頭のつかみをそれぞれに衝撃的なエピソードで紹介して心憎い演出となっています。

水嶋香苗(広末涼子)は、弱小広告会社の編集長34才、「わたし、結婚することにしました」という唐突な結婚宣言で始まります。「お相手は？」、「まだ決まってません」などのトンチンカンなやり取りから早くも彼女の天然ぶりを発揮しています。水嶋香苗は常にクールで潔癖症、何事も予定緻密に立てて完璧に消化していきます。ほとんど表情を変えることなく、唯一のアクセントはメガネくらいで、これまでの広末涼子のイメージとは大きく異なる女性を演じています

広末涼子はこの役柄について、自身で次の様に語っています。

「今までのお芝居は感情を表現する、出す、形にしていくことが多かったけれど、今回は全部抑える作業でした。監督にはカット割はもちろん、お芝居のひとつひとつ、声のトーンやテンションまで事細かなイメージがあったので、それに毎回妥協せずに近づけていく感じです。自分でつくり出すというより、自分が思ったことを逆に抑えていくような新しい発見がありました。今までは役を演じているつもりでも、いかに素の自分が反映されてしまっていたのかと思い知った感じです」

桜井武史(堺雅人)は、仕事も無く彼女にも振られて自暴自棄になっているビンボー役者で、首吊り自殺に失敗して床に倒れているシーンから始まります。とりあえず自殺を諦めサイフを漁ると銭湯の入浴券を発見しました。汗だくにもなっているので、気持ちを落ち着かせようと夕暮れどきの銭湯に向かいます。

このあたりの無気力な気怠さの演技は、気分の緩急の対比では超一流の演技をみせる、堺雅人としては、得意技といったところでしょう。

山崎信一郎(香川照之)は、コンドウという二つ名で凄腕の殺し屋とみなされています。車の中でクラシック音楽を聞きながら精神を集中させ、やがてターゲットの岩城社長の姿を確認すると、ビニールのレインコートを羽織って無言で車を降り瞬く間にターゲットを刺し殺し、死体を後部トランクに押し込んでしまいます。そして運転席に戻って血まみれのレインコートを始末し、何事もなく車を発進させます。

この一連の行動が全てワンカットで撮られていて、演じた香川照之は、この長回しの撮影が一発で決まった時は、さすがに興奮したそうです。ちなみに、この時聞いているクラシック音楽ベートーベン弦楽四重奏曲No.14は記憶が甦る際のキーになっています。

桜井は出掛けた銭湯で、着替えをする隣のロッカーに、分厚い財布を持つ羽振りのいい山崎がきました。その後、風呂場で山崎が石鹸を踏んで足を滑らせ失神すると、桜井はそれに乗じてロッカーの鍵をすり替えました。

山崎は意識不明で病院に搬送されるが、頭を打ったショックで記憶を無くしており、所持品から自分を「桜井武史」だと思い込んでいました。

一方桜井は、山崎の車を乗り回し、思い付く事に財布の金を使い、山崎の家にまで上がり込みます。家を物色すると、偽造免許や拳銃など山崎の仕事道具が続々と出てきました。

　　

退院の日、記憶喪失に困惑する山崎は、同じ病院に入院している父を見舞った香苗と出会います。良心的な香苗はその日以降、山崎の世話を焼くようになりました。

自分を売れない俳優だと思い込んでいる山崎は、真剣に芝居に取り組みだします。香苗は山崎と接するにつれ、共通点の多さや真面目な性格、向上心や努力する人柄に触れ、遂には山崎に結婚を申し込みました。

そうこうする中、とうとう山崎に記憶の戻る時が訪れました。桜井だと思い込んでいた香川照之の山崎が記憶を取り戻し、山崎に戻って以後の表情の変化、見事というほかありません。

　　

ここから、話は急展開し、殺したはずの岩城社長の後始末で、依頼主の暴力団組長工藤純一（荒川良々）から追われることになります。ちょっとしたスプラッターやスペクタクルを織り込んで、ここまであかんたれだった桜井の開き直りと起死回生のアイデアで逆転するかのような展開になってきます。

かくて物語は一気に終息へ向かい、エンディングは、山崎の外車が電柱にぶつかって鳴るエマージェンシーの音、香苗の山崎を見つけて胸キュン、桜井の隣の猫好きの女性の胸キュンが符合してこのラブコメディーは終わります。