映画『容疑者室井慎次』伝説の大人気シリーズ『踊る大捜査線』のスピンオフ作品です!
言わずと知れた『踊る大捜査線』シリーズのスピンオフ作品です。このシリーズの脚本家君塚良一がメガホンを取った2005年の映画です。
このシリーズの大きな魅力は「緩⇔緊」「笑⇔涙」「ストレス⇔カタルシス」と過激で爽快な変化です。ニヤニヤ、ダラダラ、してこんなにだらけた組織があるものか、と危惧していると、突然変化して緊迫した状況を作り出します。
そのメリハリがすごく、さんざん笑わされることで生まれる感情の高ぶりは、ふとした展開ですぐに怒りや涙に変わってしまうのです。
そして、それを生み出すのが、愛すべき湾岸署の面々で、キャラクターがしっかり確立されているから、たとえどんなに事件の内容がつまらなくても、毎回泣きどころや笑いどころが用意されています。とりわけ、キャリアである室井と、現場の所轄の青島を始めとするメンバーが心を通わせるシーンなどが特出するものとなっています。
物語の設定とはじまりは、警視庁新宿北警察署管内で発生した殺人事件の捜査過程で事情聴取を受けていた新宿北署員の神村誠一郎巡査(山崎樹範)は捜査員達を振り切って逃走し、車にはねられ即死してしまいます。
これにより、事件は神村巡査による金品奪取目的の犯行という形で捜査が打ち切られ、神村巡査は被疑者死亡のまま書類送検されようとしていました。被疑者が警察官であったため、警察上層部は早く決着をつけたかったためでした。
捜査本部長として指揮を執っていた室井慎次警視正は、被疑者の証言が得られないままで死亡したとはいえ、捜査打ち切りに納得のいかないまま、押収物の整理をしていました。その際に室井は、被疑者と被害者が共通の「ある物」を持っていることに気付きます。
そこで捜査続行を決定し、再度捜査会議を始めようと刑事たちを招集しますが、そこへ東京地検から窪園行雄検事(佐野史郎)が現れ、室井を「特別公務員暴行陵虐罪」の共謀共同正犯の容疑で逮捕してしまいました。理由は、弁護士の灰島秀樹(八嶋智人)の陰謀により、神村巡査の母親が告訴していたためでした。
しかしながら、この逮捕劇の裏には池神警察庁次長(津嘉山正種)と安住警視庁副総監(大和田伸也)の間での次期警察庁長官の座を巡る醜い派閥争いが隠されていて、事件の真相を探ろうとする室井の前に身内の権力闘争が立ちふさがり、彼の勇気は消え去ろうとしていました。
そこに、期待された津田法律事務所長(柄本明)は負けを見込んで新米弁護士の小原久美子(田中麗奈)に担当を押し付けて、鼻から絶望的な空気が漂っていました。
そもそも、キャリアの警視正が逮捕され刑事訴追されるというとんでもない設定で、ここからして奇を衒っています。神経質に不具合を気にすると前へ進めなくちっとも面白くなくなるので、適当に納得して楽しみましょう。
しかしながら、今回は、キャリアの室井と現場の工藤(哀川翔)、それにキャリアの新城(筧利夫)沖田(真矢みき)が絡んで、面白い様相を呈しています。シリーズの室井と青島(織田裕二)の関係にとって代わってあまりある人間関係となっています。
もちろん主人公の柳葉敏郎をはじめ哀川翔・筧利夫の熱演は役者としての力量を十分に感じさせ印象的なシーンを残しています。一つは、室井の学生時代の悲恋を語るところで、静寂の中で訥々と語られ、一言も漏らすまいと、観客全員が耳をじっと傾けざるを得ないような緊張感を漂わせました。
今一つは、筧利夫が室井に転勤を言い渡すところで、後日のインタビューで柳葉がこれについて語っています。
「印象に残っているのは、当初、台本で頂いたときに感じなかったものを撮影の時に初めて感じた瞬間があったんです。それは新城(筧利夫)が室井にある通達をするシーンなんですが、脚本を読んだ時はいつもの新城がいつもの室井に事務的に渡すシーンだと思っていたんです。でも、いざ撮影に入って筧君が新城として登場したとき、彼の瞳の奥に新城の室井を思う気持ちが見えてしまったんです。新城の気持ちが痛いほど伝わってきて、そうだったのか……と。役者として経験したことがない出来事だったので、とても新鮮でした。だからあのシーンで僕は芝居してないんです。ほんとうに感動的な瞬間でした。」
2005年8月28日 シネマトゥデイ
こんな事ってあるんですね。
この映画、ヒットした割に、あまり世間の評価が芳しくないのは、突拍子もない大胆な設定にもかかわらず、高校の教頭の娘が起こした事件を主人公と現場の何十人もの刑事が動いて解決できず、公安警察まで動いて電撃的に解決してしまいます。
これでは、事件の重さと原因のバランスが全く取れていなっくて観客は拍子抜けしてしまいます。この辺のストーリーの展開への期待外れ、裏切りが物語のデキとしては重く受け取られない処でしょう。