凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『鳥』伝説のヒッチコック作品です!!

この映画『鳥(The Birds)』は、1963年のアメリカ合衆国アルフレッド・ヒッチコック監督の映画作品です。ダフニ・デュ・モーリエによる同タイトルの短編小説を原作として、生物パニックもののサスペンスです。1970年代に量産された動物パニック映画の原点になっています。

目次

 

 

f:id:mattyanp2016:20210125163217j:plain



1.制作

本作は、世界中でセンセーションを吹き荒らした『サイコ』(1960年)に続く新作ということもあり、ヒッチコックはこれまでになく産みの苦しみを味わいました。技術的にもストーリー的にもかつてないほどの執念と情熱を注ぎ込みました。

原作はダフニ・デュ・モーリエの短編小説です。この中でヒッチコックが何よりも魅了されたのは、一羽ならまだ可愛げもある鳥たちが、よりにもよって集団化して人間サマへ襲いかかってくるという黙示録的な発想でした。

彼は、「できる、できない」という尺度で企画を探すことはしないで、まずは心ときめくアイディアを追い求め、それらが見つかって初めて「どうやったら実現できるだろうか」とスタッフとともにじっくりと探っていきました。

彼はすぐさま美術監督のロバート・ボイルに「これが映画化できそうかどうか検討してくれ」と依頼しました。原作を読んだボイルの脳裏には自ずとムンクの名画「叫び」のイメージが浮かび上がってきたそうです。
おそらく、鳥に逃げ惑う主人公のみならず、前人未到の映像に取り組んだ技術スタッフの「叫び」も相当なものだったでしょう。


2.ストーリー

1)プロローグ

若きソーシャライトメラニー・ダニエルズ(ティッピ・ヘドレン)は、サンフランシスコのペットショップでミッチ・ブレナー(ロッド・テイラー)という弁護士に出会います。ミッチは、11歳になる妹の誕生日プレゼントにつがいのラブバードを探していましたが、ここの店内にはなく諦めていたところ、いあわせたメラニーは茶目っ気で店員を装い軽い会話をかわしました。

 

f:id:mattyanp2016:20210125164436j:plain



2)ボデガ・ベイ

ミッチに興味を持ったメラニーは、カリフォルニア州ボデガ・ベイの彼の住所を探し出し、彼を驚かそうとつがいのラブバードを購入します。何時間もかけて運転し、モーターボートで湾を渡り、ミッチの家の中に手紙とラブバードをこっそり置いていきました。しかしメラニーがボートで様子を覗っているところを、ミッチに見つかってしまいます。ミッチは彼女を追いかけますが、その途中、メラニーは突如カモメに攻撃され、額に怪我を負いました。メラニーを捕まえたミッチは、彼女を夕食まで残るように諭すのでした。


3)度重なる襲撃

メラニーはミッチと次第に仲良くなり、子離れしないミッチの母親リディア(ジェシカ・タンディ)や妹のキャシー(ヴェロニカ・カートライト)を紹介されました。
またメラニーは、地元の小学校の先生であるアニー・ヘイワース(スザンヌ・プレシェット)とも友達になりましたが、後にアニーはミッチの元彼女だと判明します。
その日の夜、メラニーがアニーの家に滞在中、カモメがドアに突撃してそのまま死んでしまう事件が起きました。さらに翌日のキャシーの誕生パーティで、子供たちがカモメの大群に攻撃され、夜には大量のスズメがブレナー家に侵攻しました。さらに次の日、リディアは、近所の住民が鳥に殺されたのを発見します。

 

f:id:mattyanp2016:20210125164608j:plain


リディアは連日続く鳥の脅威に怯え、メラニーに学校にいるキャシーの様子を見に行ってほしいと頼みます。メラニーが学校の外で授業が終わるのを待っていると、背後に膨大な数のアメリカガラスが集まっていることに気付きました。

恐怖を覚えた彼女は、教室にいるアニーに警告し、子供達を避難させるために外へ飛び出しました。鳥は逃げ惑う彼女らを攻撃し、何人かの子供が怪我を負いました。

 

f:id:mattyanp2016:20210125163732j:plain
f:id:mattyanp2016:20210125163901j:plain



4)激しくなる襲撃

その後メラニーは、地元のレストランでミッチと落ち合いましたた。何人かの客は、自分たちが遭遇した奇妙な鳥の様子を口々に語っていました。
ある酔っ払いは、世界の終わりだと信じ、巡回セールスマンはあらゆる鳥は全ていなくなればいいと言いました。アマチュアの鳥類学者は、「違う種類の鳥は一緒に集まらない。鳥が攻撃したという報告は何かの間違いだ」と主張しました。若い母親は、彼らの会話によって次第に不安を感じ、子供達を怖がらせるのをやめるように彼らを叱りました。

その時、レストランの外で車に給油をしていた男性が鳥に攻撃されて気絶し、ガソリンが道に流れ出し始めます。メラニーは、流れ出たガソリンに気づかずに近くでタバコを吸おうとしているセールスマンを発見しました。メラニーたちは店の中から必死に叫んで警告しますが、セールスマンに声は届かず、彼はタバコに火をつけマッチを地面を落としました。火はたちまちガソリンに引火し、セールスマンは炎に包まれ、ガソリンスタンドは大爆発します。
人々を鳥の大群が襲いパニックになる中、メラニーは電話ボックスに逃げ込みました。そこへ駆けつけたミッチが彼女を救助してからレストランに戻ると、先ほどの若い母親がメラニーに詰め寄り、メラニーを鳥の攻撃の元凶だと罵りました。メラニーとミッチがアニーの家に行くと、アニーがキャシーを鳥の攻撃からかばって亡くなっていました。


5)防御から逃避へ

メラニーとブレナー一家は、窓やドアに板を打ちつけて家に立てこもりました。次から次へと鳥が家を攻撃し、ドアや窓を突き破ろうとします。夜になり攻撃が収束し一同が眠る中、メラニーは上階から物音がすることに気付きます。彼女が一人で上階のキャシーのベッドルームに行くと、大量の鳥が屋根を壊して入り込んでいるのを発見しました。

 

f:id:mattyanp2016:20210125164318j:plain


鳥の激しい攻撃にメラニーは気絶してしまいますが、騒ぎに気付いたミッチが彼女を部屋から助け出しました。酷い怪我を負ったメラニーを見て、ミッチは彼女を病院に連れて行くことを決意します。鳥が家の周りをびっしりと取り囲んでいましたが、ミッチはなんとか車を車庫から出しました。
カーラジオは鳥の攻撃は近隣に拡大していると報告し、市民レベルではこの怪奇な攻撃に対抗することが不可能なため、州兵の出動を提案していました。何種類もの、何千羽もの鳥がブレナー家のまわりに密集する中、メラニー、ブレナー一家、ラブバードを乗せた車はゆっくりと進んでいくのでした。

 

f:id:mattyanp2016:20210125163538j:plain


3.四方山話

1)理由

本作には一つだけ大きな空白があります。「鳥たちが襲ってくる理由」が一向に描かれないのです。

実際この「理由」については、人間への復讐なのか、それとも疫病、はたまたオカルトっぽい顛末に至るまでの様々な可能性が検討されました。そして最終的に導き出されたのは「理由はいらない」という結論でした。

人は誰もが結論や理由に飛びつきがちで、答えが得られないと心に不安が生じ、それらは映画が終わってもいつまでも観客の体に留まり続けます。もしかするとヒッチコックはそうやって映画の恐怖や衝撃がずっと続いていく効果を狙ったのかもしれません。


2)撮影

本作はユニバーサル製作の映画ですが、ディズニーの伝説的な特殊効果エンジニア、アブ・アイワークス(1901〜71年)が特別顧問としてクレジットされるなど、スタジオの垣根を越えた協力があったことは映画史的にも重要です。

ディズニー・スタジオが開発したナトリウム・プロセス(Sodium Vapor Process)と呼ばれるもので、これには黄色いナトリウム・ライトと光信号の分配器が不可欠となって、これらを使って撮影することで従来の青い光が生じるのを抑え、従来に比べて違和感の少ない合成が可能になるわけです。

ちなみにディズニーは『鳥』の翌年に『メリー・ポピンズ』(1964年)を公開し、当然ながらアイワークスはこちらでも大きな尽力を果たしています。


3)音

本作は、最初から最後までいわゆる「映画音楽」がまったく登場しません。その代わりに用いられるのが、当時としては最先端の電子楽器が奏でる鳴き声、羽音、ノイズなどの「音響効果」です。

ヒッチコックはドイツで「トラウトニウム」なる電子楽器が開発されていることを知っていました。音を取り込んだり、さらに、新たな音を作り出し、なおかつそれらに強弱をつけたり、増幅させるなどの変化を加えることもできる機材です。
まさにシンセサイザーの祖先です。

これならかつてない音響演出が可能となるかもしれない。そんな希望を胸に、ヒッチコックは『サイコ』の鮮烈な音楽で知られた作曲家バーナード・ハーマン(『鳥』ではサウンドトラックの監修を務めた)とともに西ベルリンへと飛びました。

そしていざ電子楽器と対面し「いける!」と判断し、オスカル・ザラやレミ・ガスマンといった専門家たちと共にチームを組み、本作にふさわしい音を構築していきました。


4)ティッピ・ヘドレン

テレビコマーシャルに出演していたところをアルフレッド・ヒッチコック監督に見出されて本作に出演。ゴールデングローブ賞有望若手女優賞を受賞し一躍スターとなりました。
翌年もヒッチコックの『マーニー』(1964年)に出演。ヒッチコックは更に彼女主演の映画製作を望んでいましたが、彼女のキャリアをコントロールしようとするヒッチコックとティッピは相容れず、1967年に女優業を一時中断し、その後は動物のための施設を運営しながら、テレビ中心に活躍しました。
後年、発表された彼女の自伝によると、執拗なセクハラがあったようです。

 

f:id:mattyanp2016:20210125165022j:plain



5)スザンヌ・プレシェット

もう一人のヒロインは、スザンヌ・プレシェットです。映画界にデビューした当時、エリザベス・テイラーを彷彿とさせる美貌に恵まれ、舞台女優としても成功していたために将来を嘱望されましたが、現実にはそれほど振るわずに終わりました。 映画界にデビューした後、1962年に『恋愛専科』でトロイ・ドナヒューと共演しました。この作品の制作中に交際していたわけで、1964年には結婚しました。当時話題をさらいましたが数か月後に離婚しました。

 

f:id:mattyanp2016:20210125163303j:plain

 

4.まとめ

「鳥たちが人間に襲い掛かる。」たったこの一行で映画の概要を大方説明できてしまえる作品も他にないでしょう。食いつく人はこれだけでグッと食いつきます。それは一見、「シンブル・イズ・ベスト」の極致であるようにも思えますが、単純に見えるものほどその裏側では周到な作り込みが成されていたのです。