凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『見知らぬ乗客』ヒッチコックの交換殺人を扱った傑作サスペンスです!!

 

この映画『見知らぬ乗客(Strangers on a Train)』は、1951年の監督アルフレッド・ヒッチコック、出演はファーリー・グレンジャーロバート・ウォーカーなどによる、アメリカ合衆国のサイコ・サスペンス・スリラーです。

目次

 

 

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1.紹介

太陽がいっぱい」で知られるミステリー作家パトリシア・ハイスミスの同名小説をハードボイルド作家レイモンド・チャンドラーらが脚色して映画化した作品で、列車に乗り合わせた見知らぬ乗客から交換殺人を持ちかけられたテニスプレーヤーを描いています。

計算しつくされた場面展開に、ロバート・バークスの映像感覚の素晴らしさ、ヒッチコックとは不仲だと言われるレイモンド・チャンドラーも参加した脚本の妙、場面を盛り上げるディミトリ・ティオムキンの音楽、その調和のとれた仕上がりは、全編に渡り一時も目が離せません。

アルフレッド・ヒッチコック作品の中でも、かなり評価の高い一作とされています。


2.ストーリー

1)プロローグ

ガイ・ヘインズ(ファーリー・グレンジャー)は、アマチュアながらテニスプレーヤーとして名を知られるようになっていました。

しかしその私生活は、上院議員の娘アン・モートンルース・ローマン)と恋愛関係にあり、浮気相手の子を身ごもった妻のミリアム(ケイシー・ロジャース)との離婚協議中という悩ましい状況でした。


2)見知らぬ男

ミリアムとの離婚話のためワシントンから故郷メトカフへ向かうガイは、列車の中で見知らぬ男から話しかけられます。ブルーノ・アントニーロバート・ウォーカー)と名乗るその男は、ガイにとって邪魔な存在の妻と、自分にとって邪魔な存在の父親を、誰にも疑われることなく排除するために“交換殺人”をしよう、と持ちかけます。

ガイは取り合わずに列車を降りますが、そこにアンから贈られたイニシャル入りのライターを置き忘れてしまいました。

 

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3)殺意

メトカフに着きミリアムと対面したガイでしたが、ミリアムはガイが有名になったことで一転して離婚することを拒否、激しい言い争いとなりました。

 

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話が公になればスキャンダルになってアンとの仲も壊れると脅されたガイはアンへの電話で勢いミリアムへの殺意を口にしてしまいます。

その夜、男性2人を伴って遊園地で遊び歩くミリアムの近くにはブルーノの姿がありました。彼は人気の少ない場所でひとりになったミリアムを絞殺します。

 

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4)アリバイ

ワシントンの自宅に戻ったガイはミリアムが殺されたことを知り、アリバイの証明として帰りの列車の中で話しをしたコリンズ教授(ジョン・ブラウン)の存在を警察に話しますが、その教授は泥酔していたためガイを覚えていませんでした。動機がありアリバイが証明できずに、その日言い争っていたのを目撃されていたこともあってガイは容疑者として監視されることになりました。


5)対決の遊園地

一方でブルーノが「早く約束を守って父親を殺せ」とガイに執拗につきまとい、自宅の鍵と銃を送りつけてきました。事情を知ったアンと共にブルーノの親に彼の異常性を訴えようとしますが失敗に終わります。

ガイが父親殺害を実行する気がないと悟ったブルーノは、ミリアム殺しをガイの犯行に見せかけるために、ガイのライターを犯行現場に置いてくることを画策します。

そのことを知ったガイは遊園地までブルーノのあとを追って2人はもみ合いになり、ガイを追ってきた警察官もやってきました。そこで犯行当時、現場から去るブルーノを目撃していた遊園地の職員によって犯人はブルーノだったことが発覚するのでした。

もみ合いの末、事故によってブルーノは息絶えますが、その手からガイのライターが発見されて彼の企みが証明されました。

 

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6)エピローグ

ガイとアンは、ワシントンへの帰路の車中で見知らぬ乗客から声を掛けられ、互いに顔を見合わせ、黙ってその場を離れるのでした。

 

 

3.四方山話

1)ヒッチコック登場場面

本作では、非常に分かり易く、上映から約10分、ファーリー・グレンジャーが列車を降りる際に、コントラバスを持参して乗車しようとする小太りの男性として登場します。


2)ガイ役

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同性愛的描写もあるパトリシア・ハイスミスの原作と、ガイを演じたファーリー・グレンジャー自身もバイセクシャルだったことも興味深く、彼は、2007年に自伝を出版し、バイセクシュアルであることを明かすとともに、レナード・バーンスタインエヴァ・ガードナーパトリシア・ニールシェリー・ウィンタースらとの恋愛関係を赤裸々に告白しています。


3)ブルーノ役

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ブルーノ役のロバート・ウォーカーは、本作公開2か月後に急死します。

その生涯は劇的なもので、1918年10月13日、アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティに4人兄弟の末っ子として生まれ、幼い時に両親が離婚したことで精神的に不安定で攻撃的な性格となり、学校に上がっても何度も放校されました。

そんなロバートの問題行動を抑えるのに効果を見せたのが演技でした。カリフォルニア州サンディエゴ郡カールスバッドにある Army and Navy Academy の学芸会で主演を務めた後、Pasadena Playhouse の演技コンテストに出場して最優秀賞を受賞しました。

アカデミー同期の学生フィリス・リー・イスリー(後の大女優ジェニファー・ジョーンズ)、ジョン・フォード監督の娘で映画編集技師のバーバラ・フォードなどとの結婚、離婚を繰り返すも、仕事は順調で、本作の演技が絶賛され、これをきっかけにキャリアは上昇に向かいました。

しかしながら、次作の撮影終了直前に、異常な興奮状態(飲酒が原因と見られる)にあった彼に主治医の精神科医が投与した鎮静剤により、体内のアルコールとの相助作用で急性のアレルギー反応を起こしたためで、32歳の急死でした。


4)バーバラ役

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ヒッチコックの一人娘パトリシアが、ヒロインの妹バーバラ役でそのいまいちな容姿と眼鏡が重要な意味を持たせてあるのもなかなか見物でした。

 

4.まとめ

ヒッチコック作品は幾つかのタイプに分けられ、トリックや犯行手口や語り口が斬新なものと、登場人物がエキセントリックなもの、そしてクライマックスにあっというようなスペクタクルが用意されているものと言えるでしょう。

もちろん、時代もあって、それぞれが小粒になるのは否めないにしても、その全てを兼ね備えたものが本作であり、後に続くヒッチコックの名作に繋がるエンタメ作品となっています。