映画『パニック・ルーム』デヴィッド・フィンチャー珠玉の労作サスペンス映画です!!
この映画『パニック・ルーム(Panic Room)』は、2002年公開のアメリカのサスペンス映画です。
監督は『セブン』『ファイト・クラブ』のデヴィッド・フィンチャー、主演は『羊たちの沈黙』『フライトプラン』のジョディ・フォスターで、フォレスト・ウィテカーが共演しています。
目次
1.紹介
隠し部屋”パニック・ルーム”が存在する4階建ての家の構造を活かした、デヴィッド・フィンチャーらしい、巧みなカメラワークで見せ、斬新な発想のストーリー展開も楽しめる一級のサスペンスに仕上がっています。
家の中だけで起きる事件、少ない登場人物それぞれの人間描写、生身の肉体で対抗する、か弱い女性の頭脳戦は緊迫感もあり、観る者を画面に引き込みます。
2.ストーリー
1)プロローグ
ニューヨーク、マンハッタンにて、離婚したメグ・アルトマン(ジョディ・フォスター)は、11歳の娘サラ(クリステン・スチュワート)と共に、動産物件を確かめるために、アッパー・ウエスト・サイドを訪れました。
メグは、前の所有者が遺産相続争いで、財産の半分の隠し場所が不明だということを、不動産業者のエヴァン・カーランダー(イアン・ブキャナン)に付き添ったリディア・リンチ(アン・マグナソン)から聞かされます。
建物の大きさの割に、部屋数が少ないのに気づいたメグは、換気装置や独立電話回線、監視カメラやモニター、鋼鉄製の開閉ドアが備わる非常時の隠し部屋”パニック・ルーム”があることを知らされました。
2)侵入した強盗
その後、物件を手に入れたメグは、新生活の準備を始めて、複雑な監視システムを作動させて眠りに着きました。
深夜、防犯装置を解除して、強盗のバーナム(フォレスト・ウィテカー)が家に侵入し、仲間のジュニア(ジャレッド・レト)を中に入れました。
バーナムは、家に人が住んでいることをジュニアに詰問しますが、彼は、情報では空き家のはずだったと言うばかりで、バーナムは焦ってしまいます。
ジュニアは、監視役のラウール(ドワイト・ヨアカム)をバーナムにことわることなしに仲間に引き入れました。
予定外の状況に、バーナムはこの件から降りようとしますが、隠されている300万ドルを奪うため、ジュニアは彼を説得しました。
眠れなかったメグは、監視モニターの異変に気づきサラを起こし、パニック・ルームに避難します。
3)籠城
メグは、別回線の電話で連絡をしようとしますが、警備会社に勤めるバーナムは、それが未接続だと知っていました。
屋内のマイクで、警察に通報したと言って犯人達に出て行くよう警告したメグでしたが、バーナムは電話が通じないはずだとカメラ越しに身振りで知らせます。
そしてメグは、犯人達が探しているものが、パニック・ルームにあること知らされるのでした。
バーナムは、経験を踏まえパニック・ルームには侵入できないことをジュニアに伝えます。
ガスボンベを用意したバーナムは、換気口から部屋にガスを送り込みますが、それに気づいたメグはガスに火をつけ爆破を起こし、犯人らにダメージを与えました。
その後、サラが懐中電灯を使い、小さな通気口から隣人にモールス信号でSOSを送ります。
隣人はそれに気づき目覚めるのだが、灯りを遮るためにカーテンを閉めてしまいました。
4)サラの病気
以前の家の持ち主の孫であるジュニアは、分け前のことでラウールと揉め、バーナムがそれに割って入ります。
その隙に、部屋を出たメグは寝室に行き携帯電話を持って戻りますが、通信電波が届きません。
そこで、電話線の主回線と、部屋の電話機をつないだメグは、警察に電話をしますが切れてしまいます。
メグは、別れた夫スティーブン(パトリック・ボーショウ)に電話して助けを求めますが、それに気づいたバーナムとラウールが回線を切ってしまいました。
その頃、1型糖尿病を患っているサラが、めまいがし始めていることを知ったメグは焦ってしまいます。
5)仲間割れ
ガス爆発で火傷を負ったジュニアは、結局は黙っていても遺産が入るために降りようとします。
その話を聞いたバーナムは、隠された財産が300万ドルをはるかに上回る額だと気づきました。
ジュニアは引き上げようとしますが、ラウールが彼を射殺してしまいます。
そこに、メグから電話を受けたスティーブンが現れ、バーナムはラウールに銃を突きつけられて対策を考させられました。
バーナムは、スティーブンが現れたことを監視カメラでメグに知らせ、彼を痛めつけてドアを開けさせようとします。
6)サラの発作
その時、サラが発作を起こしてしまい、メグはインスリンを取りに部屋を出ました。
それに気づいたバーナムは部屋に向かい、中で気を失っているサラを見つけますが、戻ったメグはラウールと揉み合いになり、彼らは部屋の中に閉じこもりました。
ラウールはドアに手が挟まれ、銃はメグが拾い、彼女はサラに注射を打つようバーナムに懇願します。
バーナムはサラに注射を打ち、床下の金庫を開けようとしますが、メグが痛めつけられたスティーブンの様子を見ている時に、玄関に彼が呼んだ警察官が現れます。
メグは、サラを守るために機転を利かせ、リック・キーニー巡査(ポール・シュルツェ)に誤報だったことを説明しました。
不審に思ったキーニーは、さらにメグの様子を窺いますが、彼女は心配のないことを伝えるしかありませんでした。
7)反撃開始
その後メグは、ハンマーで監視カメラを壊して、動けないスティーブンに銃を持たせ、犯人達が出てくるのを待ち構えました。
バーナムは金庫を開けて、中に銀行債が2200万ドル分あることを確認します。
サラを連れて部屋から出たバーナムとラウールでしたが、スティーブンに銃を向けられました。
メグが隙をみて、ラウールをハンマーで殴り倒し、バーナムは家から逃亡します。
ラウールは、メグに襲い掛かり彼女を殺そうとしますが、そこにバーナムが立ち返り、拳銃を拾って彼を射殺しました。
その時、キーニーが警官隊を連れて引き返してきたため、逃げようとしたバーナムは捕らえられてしまいました。
8)エピローグ
その後、平穏な生活に戻ったメグとサラは、ニューヨークの不動産物件を楽し気に調べ、新しい家を探すのでした。
3.四方山話
1)エンディング
ソニー・ピクチャーズはエンディングの撮り直しを要求しましたがフィンチャーに拒否された、の真偽について。
「いや、オレは拒否してないよ。ソニーはフォレスト・ウィテカーをハッピーエンドにしてやって欲しいと言って来た。彼は悪い人間じゃないからって。オレが『別にいいけど、今から撮り直すとまた100万ドル以上かかるよ』と言ったら、『だったらいいや』って諦めた(笑)」(インタビュー 映画.com)
2)ヒロイン交代について
ヒロインは当初の、ニコール・キッドマンからジョディ・フォスターへの変更について
「撮影も始めてたけど、『ムーラン・ルージュ』で痛めた膝をまた痛めて中断。しばらく治るのを待ったけど、無理だとわかった。でも、すでにセットは組んでるし、何百万ドルも突っ込んでるから中止できない。あわてて代役を探したら、ジョディ・フォスターがOKしてくれた。で、スタッフとキャストをもういちど集めて撮影を始めたら……」
今度はジョディが妊娠してることが判明した(笑)。
「たった数時間の出来事なのに、ジョディのお腹はどんどん大きくなるんだぜ(笑)」(インタビュー 映画.com)
おまけに、クリステン・スチュワートは成長期です。撮影間中にぐんぐん背が伸び、撮影当初にはジョディ・フォスターよりも小柄だった彼女は、3インチも身長が高くなって、撮影終盤にはジョディを見下ろすほどに。わずか一晩の出来事なのにこれでは整合性がつかず、フィンチャーは二人が並ぶシーンは特に苦慮しながら撮影を進めました。
3)撮影
前半の映像は凄まじく、特にフォレスト・ウィテカーたち強盗3人組が部屋に入ってくる場面の2分以上のワンショット。カメラが鍵穴に入ったり、ポットのハンドルの中をくぐり抜けたりしています。
「あれは実際はワンショットじゃなくてCGでつないでるけどね。面倒だったのは、パニック・ルームにある防犯モニターの映像だ。防犯カメラは超広角レンズなので部屋の隅々まで写ってしまう。だから、いったん普通のカメラで強盗たちの演技を撮影した後、カメラや照明を全部片付けて、もう1回防犯カメラの前で同じシーンを通しで演じなきゃならない。何倍も手間と時間がかかったよ。それは最初から予定していたことだからいいけど (インタビュー 映画.com)
4)犯罪者たち
①その1バーナム
強盗団の一人バーナム役には、フォレスト・ウィテカーです。元々のデヴィッド・コープの脚本では、威圧的な白人男性として書かれていましたが、フィンチャーが「金銭的に追い詰められた、心優しい黒人労働者の方がリアリティがでる」と判断して、のちのアカデミー主演男優賞俳優である彼が選ばれました。
②その2ラウール
凶暴な性格のラウール役には、ドワイト・ヨアカムです。彼はカントリー歌手として2度のグラミー賞受賞に輝くミュージシャンですが、独特な風貌を活かして映画にも多数出演しています。
ビリー・ボブ・ソーントンが監督した『スリング・ブレイド』(1996年)で粗暴な男を圧倒的な存在感で演じきり、デヴィッド・フィンチャーのお眼鏡に叶うこととなりました。
③その3ジュニア
計画の立案者であるジュニア役には、後年『ダラス・バイヤーズクラブ』(2013年)でアカデミー助演男優賞に輝くことになるジャレッド・レトです。
この役は最後まで難航していて、エージェントの勧めでジャレッド・レトをオーディションすることになりましたが、彼はラッパー風の出で立ちと金歯というぶっ飛んだ格好で現れ、フィンチャーを辟易させてしまいました。
しかし2度目のオーディションでは、役を完全に理解した上で髪型を細かい三つ編みに変更して、見事ジュニア役をゲットします。フィンチャーとは、『ファイト・クラブ』に続いて2度目のコラボレーション作品となりました。
4.まとめ
縦横無尽なカメラワーク、的確な空間処理、達者なキャスティング、骨太なサスペンス演出。全てが一級品です。
フィンチャーの代表作とは言えないかもしれませんが、再評価に値する一本ではないでしょうか。