この映画『ダイ・ハード(Die Hard)』は、監督はジョン・マクティアナン、主演をブルース・ウィリス、共演がアラン・リックマンの1988年に公開されたアメリカのアクション映画です。
目次
1.紹介
ロデリック・ソープの小説『Nothing Lasts Forever』(1979年)を原作としており、タイトルの「Die Hard」は「なかなか死なない」の意味です。
第61回アカデミー賞(1989年)では、編集賞にノミネートされただけあり、多くのエピソードが、納得いく形で解決または進行していく痛快な展開は見事です。
前年の『プレデター』(1987年)をヒットさせて、勢いに乗ったジョン・マクティアナンの快心作となり、バブル期で絶頂の日本企業のアメリカ進出など、当時の世情をタイムリーに描いています。
主演のブルース・ウィリスは本作からハリウッドのトップスターに駆け上がり、カウンターヒーロー役のアラン・リックマンは世に知られることとなり、のちに『ハリー・ポッター』シリーズ(2001年~2011年)でセブルス・スネイプ先生役で大当たりしました。
2.ストーリー
1)プロローグ
クリスマスのロサンゼルスに、ニューヨーク市警のジョン・マクレーン(ブルース・ウィリス)は、単身赴任中の妻ホリー(ボニー・ベデリア)を訪ね、彼女の勤務先ナカトミ商事の社長の用意したアーガイル(デヴロー・ホワイト)の運転するリムジンでナカトミ・ビルに来ていました。
ホリーは仕事の都合でジョンと別居し、旧姓で働いています。めきめきと頭角を現し、会社のNo.2として個室とロレックスの腕時計を貰うまでになっていました。
今日はナカトミ商事の建設完了間近の高層ビルで、クリスマスパーティーが行われるのですが、久しぶりに会ったジョンとホリーの仲はぎくしゃくしていました。
2)襲撃・乗っ取り
ビルの入り口に男が2人現れます。彼らは受付の社員を射殺し、後からトラックに乗った武装集団が現れました。彼らは瞬く間に、ビルを占拠してしまいます。たまたま別室にいたジョンを除き、全員が人質として捕まってしまいました。
犯人グループの狙いは、ビルの金庫室に保管されている4億ドル以上の無記名債権でした。リーダーのハンス・グルーバー(アラン・リックマン)は社長を脅して金庫室のパスワードを聞き出そうとしますが、社長はこれを拒否し射殺されてしまいます。
金庫室は7つのロックが掛けられている上、最後の1つは発電所の電力を落とさなければ突破できません。ジョンはこの様子をこっそり見ていましたが、気配を悟られてしまいます。
ジョンは見張りの1人を倒し、爆弾の起爆装置が入った荷物を奪います。更にその死体に挑発するメッセージを書いて、犯人グループに送り返しました。ハンスはこれに怒り狂い、殺された見張りの兄・カール(アレクサンダー・ゴドノフ)での怒りはそれ以上でした。カールは数名でジョンを追いますが、銃撃戦で手下を失い逃げられてしまいます。
3)犯人グループvsロス市警
ジョンは奪った無線で消防署に通報し、何とか警察につたわります。しかしパトロール中の警察アル・パウエル(レジナルド・ヴェルジョンソン)が1人で見に来ただけでした。
業を煮やしたジョンは、アルのパトカーの上に犯人グループの手下の死体を落とし、更にビルの上から銃を乱射しました。アルは慌てて応援を要請しました。
ジョンはアルと無線で話し、犯人の特徴を伝えます。アルはジョンのことを信用したようだ。そこへ警察隊とテレビ局が到着しました。
アルの上司ロビンソン(ポール・グリーソン)が現場の指揮を執り始め、突入準備を始めてしまいます。彼は、ジョンである匿名の通報者の話を信じておらず、人質などいないと考えていたのです。
ビルの裏口に突入班が待機しますが、犯人グループの攻撃に身動きが取れず、突入しようとした装甲車はロケット砲で破壊され乗員を救うべくエレベーターシャフトから爆薬をを落として1階の犯人たちを爆破しました。
ロビンソンも事の重大さに気づきます。更に犯人グループのリーダーが、元西ドイツのテロリストだと判明してきました。
4)裏切り者・偽者
ホリーは犯人グループをてこずらせている謎の男がジョンだということに気付いていました。それを聞いた同僚のハリー・エリス(ハート・ボックナー)は、男の正体を知っていると言ってハンスと交渉しようとします。
しかしジョンはエリスの説得に応じて投降する訳にはいかず、結局エリスは殺されてしまいます。ジョンの名前が無線を通じてハンス、警察、テレビ局にばれてしまいました。
ハンスは金庫略奪という本当の狙いを隠すため、「全世界のテロリスト同志を解放せよ」との嘘の犯行声明を出します。更に罠として、「脱出用のヘリコプター」も要求しました。
仕掛けた爆薬をチェックしに来たハンスは、ジョンと対面し、逃げ出した人質を装いますがジョンは騙されず、再び銃撃戦となります。
5)覚悟と家族
FBIが現場に到着しました。犯人たちを追い詰めるため、セオリー通り建物の電気を落とそうとします。しかしこれこそハンスの思惑通りでした。地区一帯が停電となり、金庫の最後のロックが開いたのでした。犯人達は巨額の無記名債券を前に歓喜します。
ジョンは悪い予感がしていました。アルに、妻への謝罪メッセージを言付けると、ハンスが屋上にいた理由を探るため再び屋上へと行きます。
ヘリポートのある屋上には爆弾が仕掛けられていて、ヘリコプターごと吹き飛ばし犯人グループの死を擬装すつもりなのです。ジョンはアルにこのことを伝えようとしますが、その前にカールに見つかってしまいました。
テレビ局のリチャード・ソーンバーグ(ウィリアム・アザートン)は、スクープを手に入れるため、勝手にジョンとホリーの子供達を取材してしまいます。
この様子が放送されたせいで、ホリーがジョンの妻であることがハンスにばれてしまいました。ハンスは人質達を屋上に移動させ、ホリーだけをジョンとの交渉材料に連れていきます。
6)犯人と債券と腕時計
FBIが乗ったヘリコプターが、犯人達を奇襲しようと飛来します。カールを倒したジョンは屋上に駆け付け人質を屋上から逃がし、ホリーがハンスに連れて行かれたと知りました。ヘリコプターは爆発し、FBIは犠牲となりました。ジョンは屋上からロープを伝って爆発を逃れます。
ジョンはハンスに追いつきましいたが、ホリーを盾にされ、手に持っていた銃を手放すこととなります。しかしジョンは背中にもう1つ銃を隠し持っていて、隙をついて逆襲し、ハンスはビルの外に投げ出されました。
ハンスはホリーの腕時計に掴まり、ホリーまで巻き添えで落ちそうになります。ジョンは落ちそうなホリーを掴みながら、腕時計を彼女の手から外しました。ハンスは大量の無記名債券と腕時計と共に、ビルから落下しました。
7)エピローグ
事件は解決し、ジョンはアルと生きて会うことができたことを喜び合いますが、そこにまだ生きていたカールが、銃を乱射しながら起き上がりました。
その時、彼を仕留めたのは、人を撃つことにトラウマを持っていたアルの一撃でした。
そして、マクレーンとホリーは、互いへの愛情を再確認しアーガイルの運転するリムジンでビルを後にするのでした。
3.四方山話
1)キャスティング
本作は1968年の映画『刑事』の続編として映画化権を獲得していたために契約上はフランク・シナトラを主役にしなければならない義務がありました。しかしながら、当時70歳であったシナトラはこれを断りました。
そして、この役は、シルベスター・スタローン、リチャード・ギア、クリント・イーストウッド、ハリソン・フォード、バート・レイノルズ、ニック・ノルティ、メル・ギブソン、ドン・ジョンソン、リチャード・ディーン・アンダーソン、ポール・ニューマン、ジェームズ・カーン 、アル・パチーノなどの蒼々たるスターにオファーされました。
当時の有力なアクション映画の典型はアーノルド・シュワルツェネッガーのような筋肉隆々で暑苦しい無敵のマッチョマンであり、実際、シュワルツェネッガーにもオファーを出しましたが、コメディへの進出を希望していた彼は『ツインズ』(1988年)に出演するために辞退しています。
当時ブルース・ウィリスは、主にロマンティック・コメディのテレビシリーズ『こちらブルームーン探偵社』において、シビル・シェパードの相手役として、コメディタッチな役柄を演じていたことで知られていました。オファーを受けたウィリスは、当初『こちらブルームーン探偵社』出演のための契約義務からオファーを断りましたが、シェパードが妊娠したことで番組の製作が11週間中断することとなり、オファーを受けるのに十分な時間が生じました。
2)ギャランティー
ウィリスはこの役で500万ドルの出演料を受け取りました。これはダスティン・ホフマンやウォーレン・ビーティ、ロバート・レッドフォードなどの、既に成功を収めている映画俳優に匹敵する額でした。
フォックスの社長であるレナード・ゴールドバーグは本作にはウィリスのような可能性のある俳優が必要だったと語り、プロデューサーのゴードンは主人公が失敗するかもしれないという可能性を見せるには、ウィリスのような普通の人であることが重要だったと述べています。フォックス以外の関係者の情報によれば、多くの人気俳優に断られたために、スタジオは必死にスターを探していたといっています。
ウィリスは「彼らはこの映画と彼らのために価値があると思った額を支払ってくれた」と述べています。また、シュワルツェネッガーやスタローンが描くような大物キャラクターとは違うとし、「ヒーローと言っても彼は普通の男なんだ。異常な状況に放り込まれただけの普通の男にすぎない」と述べています。
ウィリスは、サウス・ジャージーで育った労働者階級の人物を参考にして、「その態度や権威への軽蔑、悪辣なユーモアのセンス、不本意なヒーロー」などを表現しました。
3)影響
①ヒーローに
本作『ダイ・ハード』以前のアクション映画は、アーノルド・シュワルツェネッガーやシルベスター・スタローンに代表される筋肉隆々の男たちを主役として、非現実的な設定の中で、無敵かつ完璧で印象的な軽口を叩くヒーローとして描かれることが一般的でした。
一方で、本作においてブルース・ウィリスが演じたジョン・マクレーンは、アクションというジャンルを再定義し、それまでのフォーマットに反する平均的な体格の普通の人間として表現されています。マクレーンは仕事でもプライベートでも失敗しており、公然とすすり泣き、死への恐怖を隠さず、治らないダメージを抱え、脆弱で親しみのあるヒーローという役割を与えられています。
重用なのは彼の気の利いた軽口は、敵に対して優位に立つことを示すものではなく、自分が置かれた極限状態に対する神経質な反応から出たものという点であり、その状況で苦しみに耐え、自身のイニシアチブを発揮することによってのみ危機を克服できることを意味しているのです。
②悪役に
同様にアラン・リックマンが演じたグルーバーもまた、それまでの無個性あるいはエキセントリックな狂人であったアクション作品の悪役を再定義しました。グルーバーは賢い宿敵の先駆けであり、教育を受けた知的な悪役であって、ヒーローのアンチテーゼとしての役割も果たしています。
このため、グルーバーは、このジャンルにおけるもっとも印象的な悪役の一人として挙げられ、一部で、グルーバーをダース・ベイダー以来の最高の悪役の一人と評されました。
④アクション映画への影響
1980年代の最も影響力のある映画の1作となった本作は、その後のアクション映画、特に1990年代のアクション映画のフォーマットとなり、「Die Hard on/in a...(~のダイ・ハード)」という言葉は、限定的な状況で圧倒的な敵に打ち勝たなければならない孤高の主人公を表す略語になっています。
例としては、『沈黙の戦艦』(1992年)は「戦艦のダイ・ハード(Die Hard on a battleship)」、『クリフハンガー』(1993年)は「山のダイ・ハード(Die Hard on a mountain)」、『スピード』(1994年)は「バスのダイ・ハード(Die Hard on a bus)」、『エアフォース・ワン』(1997年)は「飛行機のダイ・ハード(Die Hard on a plane)」と呼ばれました。
アクション映画のトーンが大きく変わったのは、これも「アルカトラズ島のダイ・ハード」と呼ばれた1996年のアクション・スリラー映画『ザ・ロック』以降で、これはCGIエフェクトの使用が増えたことで、実際の場所の制限や実用的なスタントの限界を超えることができるようになったためでした。
本作は、2017年にアメリカ議会図書館によって、アメリカ国立フィルム登録簿に「文化的、歴史的、または美術的に重要」として保存されることが決定しました。
4.まとめ
若かりし頃のブルース・ウィルスの映画です。ビルという一つの建物を舞台にした設定で、屋上、エレベーター、通気口など余すところなく設備を使い倒しています。
今みたいにCGではなくて、ハラハラドキドキさせられるスリリングなアクションがあり、インパクトと展開の速さがこの映画の魅力の1つでもあります。
名作と言われるアクション映画のお手本であることに違いありません。