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映画『ハートロッカー』これも戦場の真実なのでしょうか?!

この映画『ハート・ロッカー(The Hurt Locker)』は、キャスリン・ビグロー監督による2008年のアメリカ戦争映画です。

目次

 

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1.紹介

イラク戦争の戦地の現実を緊迫感ある映像で映し出した出色のリアリズム映画で、キャスリン・ビグローが女性として史上初のアカデミー監督賞を受賞しました。

後の『ミッション:インポッシブル』シリーズや『アベンジャーズ』シリーズのジェレミー・レナーの主演で、本作でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされています。


2.ストーリー

1)プロローグ

2004年の夏、イラクバグダッドでは、アメリカ陸軍爆破物処理班(EOD)ブラボー中隊の爆破物処理中、リーダーの班長のマット・トンプソン軍曹(ガイ・ピアース)が、爆破の巻き添えに遭い死亡します。

部下のJ・T・サンボーン軍曹(アンソニー・マッキー)と技術兵オーウェン・エルドリッジ(ブライアン・ジェラティ)はショックを受けますが、その後も任務は続くのでした。

数日後、中隊に一等軍曹ウィリアム・ジェームズ(ジェレミー・レナー)が赴任しました。


2)ブラボー中隊 任務明けまで 38日 無謀な行動

早速、任務に向かったチームでしたが、防爆スーツに身を包んだジェームズは煙幕を張り、後方支援のサンボーンらの目をくらまします。

そこに1台の車が現れ、ジェームズは運転していた男に銃を向けて威嚇し、その場から追い払います。

ジェームズは、サンボーンの指示などを無視し、自分流の方法で、いきなり複数の即席爆発装置(IED)を見つけて処置しました。

 

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サンボーンは、ジェームズの無謀な行動を非難しますが、彼はそれを気にもしないのでした。


3)ブラボー中隊 任務明けまで 37日 またもや独断行動

次の任務で、ジェームズは狙撃によって炎上した車を消火し、防爆スーツを脱ぎ捨て、トランクの中の大量のIEDの処置を始めてしまいます。

ジェームズは、サンボーンの無線を無視してヘッドセットを取り、爆弾の配線を外し作業を終えました。

周囲の警戒から戻ったサンボーンは、チームワークを乱すジェームズの顔面を殴り、処置中の交信を続けるよう警告するのでした。

爆弾処理に成功したジェームズは、現れたリード大佐(デヴィッド・モース)に、その勇気を称えられます。

基地に戻ったジェームズは、前日、ピンボケのDVDを売りつけた少年ベッカム(クリストファー・セイフ)を摑まえ、気晴らしに彼をからかい、その後には、可愛がるようになりました。

 

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部隊の軍医ジョン・ケンブリッジ大佐(クリスチャン・カマルゴ)は、過酷な任務に耐える、エルドリッジの精神状態を常にチェックしていました。


4)ブラボー中隊 任務明けまで 23日間 銃撃戦から解放感へ

数日後、チームは砂漠で爆破物を処理していましたが、サンボーンは、ジェームズを事故死に見せかけることもできると同僚エルドリッジに言いました。

 

その後、移動中のチームは、ある不審な集団と遭遇して彼らを調べますが、それはお尋ね者相手の賞金稼ぎでした。

リーダー(レイフ・ファインズ)が味方だと確認したチームでしたが、近くの建物から攻撃を受けてしまいます。

銃撃戦が始まるが、リーダーはあえなく狙撃されて死亡し、ジェームズは、銃を構えるサンボーンに指示を出して、緊張する彼をリラックスさせながら、耐久戦の中で敵を次々と倒していきました。

 

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エルドリッジも敵らしき者を見つけて銃撃を加え、日没を前にチームは戦闘を終えることになりました。

基地に帰ったチームの3人は、過酷な任務を忘れて酒を酌み交わし、久し振りに開放感を味わうのでした。


5)ブラボー中隊 任務明けまで 16日 それぞれの死と仲間の怪我

エルドリッジに、現場を知るように言われていたケンブリッジ軍医が任務に同行し、チームはある倉庫の捜査に向かいます。

チームは、テロリストのアジトの部屋を見つけ、ジェームズはそこで、傷ついた少年の遺体を見つけます。

ジェームズは、その少年が基地内にいたベッカムだと思い込み、遺体に爆薬を仕掛けて倉庫を爆破しようとしましたが、ジェームズは少年の腹部に埋め込まれていた爆薬を見つけ、それを摘出して遺体を運び出すのでした。

ケンブリッジが、民間人をその場から避難させ、仲間達の車に戻ろうとした時、彼は隠されていた路上の爆弾の爆発で死亡します。

エルドリッジは、自分を気にかけてくれていたケンブリッジの死を目撃して取り乱してしまうが、ジェームズがそれをなだめるのでした。

基地に戻ったジェームズは、妻コニー(エヴァンジェリン・リリー)に電話をするものの、何も語らずに切ってしまいます。

その後ジェームズは、基地内でDVDを売っていた男を脅しベッカムの家に案内させます。しかしながら、ジェームズはその家がベッカムとは関係ないことを知り、規則を破り外出した基地に戻りました。

その後、タンクローリー爆破の現場に向かったチームは、自爆テロではなく、遠隔操作の可能性を指摘するジェームズの考えで、周辺捜査を始めようとします。

サンボーンは、後方で控える歩兵小隊にそれを任せるべきだと意見しますが、ジェームズは捜査を強行させます。

路地に入り別行動を取ったチームでしたが、エルドリッジが捕らえられてしまいます。

それに気づいたジェームズとサンボーンは、エルドリッジを救出して基地に戻りました。

翌朝ジェームズは、生きていたベッカムに声をかけられるが彼はそれを無視しました。

エルドリッジは、大腿骨が砕けて帰国することになったのですが、彼は、ジェームズの無謀な行動を非難し、自分の負傷も彼のせいだと罵りました。

そして、サンボーンに再会を約束したエルドリッジは、ヘリコプターで搬送されていくのでした。


6)ブラボー中隊 任務明けまで 2日 最後の任務から帰国へ

ジェームスに取って、次の任務は、失敗に終わります。罪のない現地のイラク人に非情にセットされた爆弾を、時間切れで解除出来ず爆死させたのです。

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ジェームズは吹き飛ばされましたが、幸いジェームズは助かりましたが、任務の後、精神的ダメージを受けたサンボーンは、このままでは人生に何も求められないことを語り、ジェームズの精神状態を探るのですが、自分が何も考えずに行動し、なぜそうなのかわからないと彼は淡々と答えるのでした。

これが、ブラボー中隊の最後の任務となり、任務が明けたジェームズは、妻コニーと息子の待つ自宅に戻ります。

アメリカに帰国したジェームスは、家族との穏やかな日々を過ごす中で、平凡な生活、日常の買い物などに喜びを感じることができないジェームズは、幼い息子に向き合い、自分の本当の気持ちをはっきり知るのでした。


7)エピローグ

EODチーム、デルタ中隊、任務明けまで365日

そして、ジェームスは戦地に戻り、こここそが、自分が生を感じる唯一の場所なのだとあらためて実感するのでした。

 

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3.四方山話

1)制作

カメラは、製作費の約16億円と低予算のため、スーパー16ミリカメラが使用されて、同時に4台以上のカメラで撮影するスタイルを取りました。その結果、撮影されたフィルムは200時間に及びました。

俳優達は、実際にアメリカ軍の軍事訓練を受けて撮影に臨みました。また、通常のハリウッドの撮影条件とは違い、誰一人個人用のバスルームや空調の整ったトレーラーは与えられなかったそうです。


2)ロケ地

撮影は2007年に、クウェートとヨルダンのアンマンで行われました。治安面から当初はモロッコで撮影する段取りもされていましたが、監督の判断で物語の舞台に近い中東で撮影されました。

撮影場所によっては、イラク国境からわずか3マイルの場所だった時もあったそうです。


3)評価

ポール・リークホフ(全米イラクアフガニスタン帰還兵協会会長)は、「戦争を分かりやすく伝えようとしているが、経験者の私たちはあまりの不正確さにうんざりしてしまう。調査不足というだけでなく、端的に言えば米軍への敬意に欠けている」と、この映画に対して不満を述べています。

ゲイツ元国防長官は好評しましたが、2010年時点で現役のEODチーム兵士の意見は異なっています。また、国防総省は当初、撮影に協力し現場にトッド・ブレスシール中佐(Todd Breasseale)を送ることになっていたが問題が発覚したため中止になったそうです。


4)EODとは

爆発物処理(Explosive Ordnance Disposal)とは、現代において特定の目的を持って設置され、または、過去の戦争において使用されたり遺棄されたりした不発弾などの爆発性危険物を、解体、爆破、溶解、海洋投棄等の手段をもって無害化する行為のことです。

日本においては、第二次世界大戦後、サルベージ会社等の民間企業が旧軍の遺棄された爆弾等を解体することもありましたが、その後は自衛隊および各都道府県警察(機動隊の爆発物処理班)や海上保安庁の特殊警備隊の爆発物処理の専門隊員が担当しています。

上記の日本でのEODと海外でのEODは少し意味合いが違って、海外に(主に紛争地帯)おいてはEOD=不発弾/地雷の識別・信管除去・不活性化・爆破処理などを表します。


5)IEDとは

即席爆発装置(Improvised Explosive Device, IED)とは、あり合せの爆発物と起爆装置から作られた、規格化されて製造されているものではない簡易手製爆弾の総称です。日本の防衛省では即製爆発装置あるいは即製爆弾と訳していて、通常は、IED(アイ・イー・ディー)の略称で呼ばれるのが一般的です。

道路脇などに仕掛けられたIEDを一般に路肩爆弾、道路脇爆弾、路上爆弾 (Roadside bomb) などと呼んでいて、基本的には正規の軍隊が使用する爆弾と異なり、材料は砲弾や地雷などの炸薬と筐体を流用して独自に作成する爆弾でもあることから「自家製爆弾(home made explosives, HME)」とも表現されます。

 

6)防爆スーツとは

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①概要

防爆スーツ(Bomb Suit, Bomb Disposal Suit, Explosive Ordinance Disposal, EOD)は、爆発物などの爆風、破片などから身体を防護する為に開発された特殊作業服です。主に軍隊と警察の爆発物処理作業者が着用します。対爆スーツ(ぼうばくスーツ)ともいいます。

アメリカ軍では2000年頃から従来のMK4をMK5へ更新しており、現在ではMK5が使用されています。

MK5の場合は最大装備で44.7kgの重量があって、ヘルメット4.7kg、スーツ本体25kg、プレート15kgとなります。


②身体防護性能

基本的に装着者を爆傷から守ることを主眼において設計されていて、頭部と胸部を守ることに重点を置いた構造であり、実際に爆発に晒されれば無傷というわけにはいきません。

一般的に、爆発物解体作業を行う場合には指先を拘束するような分厚い手袋を着用できないため、手首から先がそのまま露出していることが普通であるため指を失うことになりやすくなります。

現実に防御できるのは555 m/s ~ 630 m/sの爆風であり、4~5kgf/cm2ぐらいまでの入射爆風の圧力までとなっています。20kgf/cm2を超える爆風に晒されれば死亡する確率が高くなります。

100g以下のトリニトロトルエンぐらいなら10フィート(約3メートル)の距離で爆発しても命は助かる事がMIL規格とNIJ規格で定められていますが、爆薬量が数十キロを超えるような爆発物に対しては気休め程度にしかなりません。

 


4.まとめ

ハート・ロッカー」とは米国軍隊の兵隊用語で、行きたくない場所、棺桶を意味します。爆発の瞬間を恐れながらその重圧が快楽となった人間のヒロイズムとその代償を、ドライなタッチで描いた本作は、間違いなしに傑作と言えるでしょう。