半世紀以上も前の映画でありますが、いまもって名作という評価の高いこの映画、突出した何か、いわゆるストーリーが素晴らしいとか、感動的とか、芸術性が高いとか、話題性とかがあるわけではないのですが、すごくよくできた映画でどこにも減点箇所が見つからないというのもその評価の要因でしょうか。
とにかく面白く観れる映画で、テンポ、キャスティング、アイテムのバランス、タイミングがよく飽きさせません。約3時間の長丁場をドキドキしながら見させてくれます。


戦争映画らしからぬ明るい雰囲気で映画は始まります。収容所に護送されてきた捕虜たちも一様に元気であり、恐怖に怯えているような様子はありません。
もっとも舞台の捕虜収容所とは刑務所・監獄ではなく、捕虜は囚人とは違うので強制労働などの義務もなく、収容所内でもある程度の自由が許されています。例えば脱走して捕まっても、軍人であることが証明できれば処刑されるようなことはありません。もちろん、時代、国、責任者によって、大きく事情が異なっては来るでしょうが。
捕虜のまとめ役であるラムゼイ大佐(ジェームズ・ドナルド)も収容所のフォン・ルーゲル所長(ハンネス・メッセマー)に対して“捕虜は脱走が任務だ”とはっきり言っており、所長もそれを否定しません。
ドイツの収容所と聞けば、どうしても多くのユダヤ人が虐殺された強制収容所の悲惨な光景を思い浮かべてしますが、捕虜の収容所は全く別物だと考えていいでしょう。さらに捕虜の脱走は囚人の脱獄とは違うということも、認識しておくべきですね。
綿密な計画と見事な連携プレーで進んで行く脱走劇そのものの面白さもさることながら、この映画が名作と呼ばれ映画ファンに愛され続けるのは、キャスティングが非常に秀逸で、かなりの数に上る一癖ある登場人物たちがそれぞれに個性と見せ場を持っているからでしょう。
後半は脱走後にそれぞれがどうなったかが描かれていて、列車、自転車、ボート、飛行機、バイクと逃亡手段も様々で、そこら中に親衛隊が出張っていてとにかくずっとハラハラさせられます。


ヒルツ(スティーブ・マックイーン)がバイクで逃げ回るアクションは単純にかっこいいのですが、こんなに長くなくても...、とはバイク好きには叱られそうですが。
一方、ヘンドリー(ジェームズ・ガーナー)とコリン(ドナルド・プレザンス)の飛行機による逃避行は飛行機好きにはたまらないものがありました。
最もドキドキさせられたのは何度もSSやゲシュタポの検問を受けるバートレット(リチャード・アッテンボロー)とマクドナルド(ゴードン・ジャクソン)の逃亡劇です。バートレットはもともとゲシュタポにマークされており、いつ脱走者の偽装がばれないかハラハラ・ドキドキの連続でした。
案の定、ゲシュタポに見つかったときは、アシュレー=ピット(デヴィッド・マッカラム)の身をていした犠牲によって助けられました。


大脱走とはいうものの、計画が250人に対し76人が捕虜収容所を脱出し、元の収容所に収監されたのが12人、捕まり銃殺されたのが50名、成功したのが3人でこれでも脱走としては成功したのでしょうか?
実話が元になっているそうですが、当時、この捕虜収容所の空気は、実際どのようなものであったのでしょう?
収容所生活を脱走という目的において、大儀には敵の後方攪乱、目先では、トンネル掘り、服や書類の偽装、逃亡計画、などの行為での達成感と希望を持ち、仲間と作業する連帯感で映画の様に明るい空気であったに違いありませんね。