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映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』鉄道ファンでなくても感動します?!

この映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』は、中井貴一主演の2010年の日本映画です。

目次

 

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1.紹介

錦織良成監督の島根3部作の最終作で、50歳を目前に電車の運転士になる決意をした男と、家族の再生を描いたドラマです。

本作は、一畑電気鉄道京王電鉄の全面的な協力や、島根県松江市出雲市など沿線の自治体・団体の支援を得てロケが実施されました。

鉄道好きのプロデューサーの阿部秀司による制作総指揮で、3年近くを掛けて、部外者が立ち入れない運転台などで撮影する許可を監督官庁から取り付けて、細部まで鉄道の描写にこだわって制作されました。


2.ストーリー

1)プロローグ

東京の大手電機メーカーである京陽電器で、経営企画室長を務める筒井肇(中井貴一)はある日専務から呼ばれ、工場部門の閉鎖と跡地の売却交渉、人員のリストラを頼まれます。

専務は筒井を先々取締役に推薦しようとしており、そのための実績作りでもあると説明されました。人員のリストラという言葉に一瞬躊躇したもののお礼を言った筒井は、早速同期入社で親友の川平吉樹(遠藤憲一)のもとを訪れました。


川平はもの作りがしたくてこの会社に入社した男でした。本社に戻って来て残りの会社生活を俺と一緒に頑張ろうという筒井でしたが、残りの人生は自分の好きに使わせてもらうと応える川平でした。

そしてお守りにと川平が差し出したものは、20歳まで生きられるかどうかわからない中学生の息子が、病床で彫った木彫りの人形でした。その後、川平は筒井の立場も理解してくれて、迅速に滞りなく工場閉鎖のめどをつけてくれました。

筒井は都内のマンションで妻由紀子(高島礼子)と、娘で大学3年生になる倖(本仮屋ユイカ)と3人暮らしでしたが、最近は由紀子がハーブの店を開店させたため、家族はすれ違いが多かったのです。特に倖は、仕事を最優先させる両親には不満を持っていました。

 

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2)母倒れる

そんなある日、筒井に母親の絹代(奈良岡朋子)が倒れたとの連絡が入ります。

筒井の実家は島根県出雲市で、一人暮らしの絹代は未だに行商をやっていました。荷物を抱えローカル線で移動している途中に心筋梗塞で倒れたのでした。

筒井と倖は二人で出雲に向かいます。病院に就くと、容態は落ち着いていますが、担当医は、年齢のこともあり精密検査をしておきと言いました。

病院の廊下で会社に電話を入れて、明日には帰りますと言って切る筒井に倖は「会社がそんなに大事?」と不満げに詰め寄るのでした。

その日は実家に戻り、倖の手料理で夕食を終えたころ由紀子がやってきたが、倖には会社を優先させおばあちゃんを疎かにしているように見える両親に、お休みと言って寝に行ってしまうのでした。

そこに川原が交通事故で死んだという連絡が入ります。翌日意識が戻った絹代を見届けた筒井と由紀子は、倖を一人残して東京へ帰って行きました。


3)親友の死と母の病気

川平の告別式が終わった日、出雲の病院から筒井に電話が入り、再び出雲へ戻った筒井は担当医から絹代が悪性の胃がんにかかっていることを伝えられまし。

筒井は絹代に東京の病院で診てもらい、一緒に暮らすことを提案するが、絹代は東京の空気はここより奇麗か? 東京の水はここよりうまいのか? と聞き返し、自分はこの地を離れたくはないと言うのでした。

実家で筒井が子供のころの古いアルバムを見ていると、倖が何これと手に取ったものは缶にため込んだ電車の古い切符でした。筒井は、ずっと忘れていたのですが子供のころの夢は、畑電の運転士になることだったと思い出しました。

そんな時、筒井は一畑電車株式会社が運転士を募集していることを知ります。ずっとこれまで自分の夢に挑戦してこなかったような気がして、会社を辞めてこれに応募してみようと思うと倖に語りました。


4)運転手の求人への応募

東京に戻った筒井は会社に辞表を出し、また一畑電車に履歴書を送りました。

一畑電車では社長の大沢五郎(橋爪功)が、筒井の履歴書を見てその経歴に驚いていました。50歳という年齢に引っ掛かりはしましたが、会うだけ会ってみようと営業部長の石川伸生(佐野史郎)に言いました。

面接が終わり石井は筒井の採用を渋ったが、社長の大沢が採用を決めました。

実は、筒井は、まだ由紀子にはこの話はしていませんでした。採用通知が届いたその夜、筒井は由紀子に会社を辞めて電車の運転士になることを告げると、由紀子は夢だったんでしょ? やってみたらと言ってくれるのでした。

若者たちに交じって東京の京王電鉄での筒井の研修が無事終わり、研修の最終試験にも合格した筒井は、出雲に戻って一畑電車の運転士で指導係の福島昇(甲本雅裕)から車両の説明を受け、車両課長の高橋晴男(渡辺哲)にも挨拶をしました。

車両課では何十年も大都市で働いてきた車両を修理していました。古い車両のため設計図もマニュアルも何もない状態で直しているのだと高橋は笑うのでした。

 

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5)夢の仕事とは

筒井と同期で入社したのは宮田大吾(三浦貴大)という若者です。筒井が話しかけてもどこか冷めた様子の宮田でした。

筒井と宮田の運転士としての仕事が福島の指導を受けながら始まります。そんな時、島根新報の内藤楓がやってきて新人二人に密着取材させてくださいといいました。この時筒井は宮田は高校球児でプロ入りも決まっていたのだが、肘を故障しその夢をあきらめざるを得なかったということを知りました。

筒井は一人で休んでいる宮田の横に腰掛けると、すねている宮田に自分がどうして一畑電車の運転士になったのかを話しました。

 

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「これから先の人生をどうやって行くかを考えた時、今が自分の夢に向き合う最初で最後のチャンスだと思った。君にとってはやりたくない仕事かもしれないけど僕にとってはここが最高の夢の場所なんだ。自分の限界は自分自身が決めてしまうもので、いくつになっても努力さえ続ければかなう夢もあるんだ」と。

指導係も付かなくなって一人前の仕事をこなすようになっていた筒井のもとに、大学4年になった倖が夏休みで訪ねてきました。

東京にいる頃は、会社人間でいつも仕事に追われていた父でしたが、こっちでの運転士の仕事は楽しいといい、就活もあせらずゆっくりと考えればいいと言う言葉に、倖は驚きながらも素直にはいと頷くのでした。


6)母の急変と電車事故

由紀子は離れて暮らす夫との生活にこれでいいのだろうかと悩んでいましたが、電話した筒井が楽しそうで声に張りもあることに少し安心するのでした。

筒井は、お客さんをとても大事にする運転士でした。線路でこけたおばあちゃんを助け乗車させたり、終電で乗り過ごした酔客を介抱したり、発車時間に遅れそうなお客さんを待って発車時間を遅らせてしまったりして、時にはルールを逸脱して注意することはあるものの、すべて乗客のために誠心誠意行動しました。

そんなある日、絹代の容態が急変します。倖は父が運転する電車の停車する駅に駆け込み、そのことを伝えると、宮田が心に動揺がある人は運転しないほうがいいと言い、筒井は宮田と運転を代わりました。

次の駅で乗客が落とした荷物を、線路から筒井が拾い上げているのを気にして宮田が運転席を離れた時、以前宮田が運転席に入れて機械を触らせていた子供が、運転席に入り込み電車を動かしてしまいます。そしてこの様子を高校生が録画していたのです。

宮田からまた運転を代わった筒井は、駅に着くと運転を福島に代わり倖と病院に急ぎました。

高校生が撮った動画はネット上に出回り、マスコミが一畑電車に押しかけ、大沢と石川を問い詰めていました。事情を把握していない二人はマスコミに時間の猶予をもらいました。


7)退職願いと母親の死

筒井は社長室に入ると大沢に退職願を差し出しました。事情は宮田から聞いていた石川は、宮田の責任だからやめる必要はないと言いましが、筒井は、夢は叶いましたと社長室を出ました。

真摯に仕事に取り組む筒井の姿に影響され、自らも変わり始めていた宮田もやめないでくださいと筒井を止めますが、がんばれよと去ろうとすると目の前に運転した子供を連れた母親が立ち何度も頭を下げました。

いつの間にか筒井に親切にされたお客さんたちが、辞めないでくれと立ちふさがります。働く仲間たちもやってきて、社長はみんなで責任を取ろうといい、筒井は辞めないで済みました。

絹代は毎日病院の窓から自分の息子が運転する電車を嬉しそうに見ています。

ある日、倖は、見舞いに来た父の友人西田了(中本賢)から、絹代の命があと3か月だと聞かされます。

その後、介護士の森山亜紀子(宮崎美子)に付き添われた絹代は、筒井が運転する電車に乗り自宅へ帰ってきました。

縁側で夕涼みをしながら絹代はしみじみと、あんたほんとに運転士になったんだねと筒井につぶやきます。

そしてその後、また病院に戻った絹代は、静かに息を引き取りました。

 

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8)エピローグ

それからしばらくたち、もう筒井は現地の祭りでも役割を担うようになっており、倖は介護士の森山とともに出雲で介護の現場で働いていました。

ある日、電車の運転席から筒井がホームに降り立つと、由紀子が立っていました。由紀子は夫である筒井と、こうやって離れて暮らす生活についてずっと悩んでいたのです。

しかし、運転士の筒井の姿を見て、二人の関係について「これでいいんだよね」と聞くと、筒井は「ずっと終点まで乗ってってくれよな」と返しました。

由紀子はその言葉に微笑んで「はい」と応えるのでした。

 

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3.四方山話

1)もうひとつの主役

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中井貴一と並んだもうひとつの「主役」であるバタデンのデハニ52・53は、お座敷列車に改装された状態で2009年3月29日をもって営業運転を終了していましたが、本作の撮影に当たってロングシートへの改装が行われました。

お座敷の構造物の撤去までを一畑電車が手がけ、ロングシートの再設置は映画の美術スタッフが行い、吊り手は沿線の保育園に保存されているデハ3・6のものを借用しました。

その上で2009年8月に撮影のための本線走行が実施されているのですが、中井ら俳優たちは、電車運転士の免許である甲種電気車運転免許を取得していないため実際に運転するわけにはいかないので、美術スタッフが作ったマスコンハンドルやブレーキハンドルを俳優が握った上で、巧妙にカットをつなぎ合わせ運転シーンを作っています。


2)デハニ52・53のほかに登場する電車

一畑電気鉄道2100系電車

京王5000系電車 (初代)。筒井が初めて営業運転した電車です。オリジナルの京王5000系(保存車)も鉄道教習所のシーンで登場しました。

一畑電気鉄道3000系電車

元南海21000系電車。最終電車で寝過ごした酔客を、筒井が介抱するシーンなどに登場します。

一畑電気鉄道5000系電車

京王5000系電車 (初代)この車両は筒井が運転するシーンはありません。

京王7000系電車

筒井が京王電鉄での乗務訓練の際に運転した電車です。

JR東海・西日本新幹線N700系電車

筒井の出張シーンで走行風景、および普通車車内が登場。前述の大崎駅付近を俯瞰したカットにも登場します。

JR西日本285系電車サンライズ出雲

筒井が映画中で最初に帰省するシーンに登場しました。


3)ロケ地

ソニーティー大崎

筒井の勤務先として冒頭のシーンで用いられ、大崎駅周辺の俯瞰シーンもこのオフィス内から撮影されたものです。

伊野灘駅

筒井の実家の最寄り駅として頻繁に登場します。縁側から一畑電車北松江線宍道湖が望める民家を実家のロケに使用しました。

雲州平田駅

車庫やホームが頻繁に登場します。ただし、実際の一畑電車本社や運転指令室所在駅ではありますが、映画中のこれらの場所におけるシーンは別の場所で撮影されています。
運転指令室は布崎変電所内にセットが組まれました。

一畑口駅

オープニングやラストシーンで用いられました。

出雲大社前駅

筒井が初めて運転した電車の切符を同僚から記念に貰うシーンなどで用いられました。また、映画公開期間の前後に島根県立古代出雲歴史博物館で行われた特別展に合わせて、この駅の構内でデハニ52が展示されました。

京王電鉄平山研修センター

道教習所で研修を受けるシーンに使用されましたが、。ここに映画のカメラが入ったのは初めてだそうです。

島根県立出雲高等学校

筒井の母が入院していた病院の病室として教室が使われました。一畑電車の線路沿いにあり、主人公の運転する電車に向かって手を振るシーンなどで登場します。


4)RAILWAYSシリーズ

地方鉄道を焦点にしたRAILWAYSシリーズとして、第2作『RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ』(2011年)、第3作『かぞくいろ RAILWAYS わたしたちの出発』(2018年)が制作されました。

第2作では、本作の宮田大吾役で映画デビューした三浦貴大の実父である三浦友和が主演しています。


4.まとめ

運転手への転職前の苦悩や決断、49歳での新人教育、母親の癌、電車事故未遂、等々かなり重い事象をわりと淡白に描いていて、あっそ、と感じなくも無きにしもあらずですが、鉄道ファンに阿るでもなく、全体的にはよくできた作品でした。