この映画『007 ロシアより愛をこめて(From Russia with Love)』は、イアン・フレミングの長編小説第5作「007 ロシアから愛をこめて」を原作に、監督は前作に続きテレンス・ヤングで、1963年に製作された『007』シリーズ映画第2作となる、イギリス・アメリカのスパイ映画です。
目次
1.概様
低予算で作られた007映画第一作『ドクター・ノオ』の成功により、さらにアクション要素を強めた活劇大作になりました。屈強な殺し屋との格闘や、ヘリコプターによる追跡、ボートでの脱走と、見せ場が次から次に登場します。一方で、前作の後半で見られたSF色の強い展開は、リアリティを意識して抑えられています。
ダニエラ・ビアンキは、知性の中に色気とチャーミングさを覗かせ、その後のボンド・ガールの方向性を確立しました。ボンドのアクションでの強敵としてのグラントのキャラクター、支給品の秘密兵器、ここでは決まった手順であけないと催涙ガスが噴き出す仕組みのアタッシェケースがクライマックスで重要な伏線になること、何よりもオープニング・テーマの前に「プレタイトル・シークエンス」が入るようになったことなど、後続作品に踏襲されることになるパターンの多くが、本作で形作られました。
エンタテインメントの要素がフルにつまった、これぞ007の代表的傑作です。また、マット・モンローの歌う主題歌も大ヒットとなりました。
2.あらすじ
1)ブロフェルドの陰謀
国際テロ組織スペクターの首領であるプロフェルド(アンソニー・ドーソン)は、ソ連の暗号解読機であるレクターを奪うため、そしてドクター.ノオを殺したボンド(ショーン・コネリー)に復讐をするため、スペクターNo.3のローザ・クレップ( ロッテ・レーニャ)に対し、ソ連のトルコ駐在女性職員、タチアナ・ロマノバ(ダニエラ・ビアンキ)をボンドに接触させ、レクターを奪うようにと命令を下します。
クレップは、ボンドを殺す殺し屋を雇うため、スペクターの訓練施設に向かい、レッド・グラント(ロバート・ショウ)という殺し屋を調達し、トルコのイスタンブールへ向かい、タチアナへボンドに接触するよう命令を下します。
2)タチアナの誘い
ボンドの上司、M(バーナード・リー)は、タチアナのイギリス亡命がイスタンブール支局長より知らされたので、タチアナの護衛をするようにとボンドに言いました。ボンドは、武器開発担当のQ(デスモンド・リュウェリン)から特殊なアタッシュケースをもらうと、トルコのイスタンブールへ飛びました。
イスタンブールへ着くと、ボンドは支局長であるケリム ベイ(ペドロ・アルメンダリス)と会い、ジプシー達の集会へ行きます。そこでボンド達はある男に襲われましたが、なんとか彼を殺すことに成功します。ボンドがホテルの部屋に戻ると、タチアナが、ハニートラップをかけるべく、彼を待っていました。タチアナとボンドは、ソ連領事館に爆弾を仕掛けて、レクターを盗むことに成功します。
3)暗殺者の工作
その後、ケリムとともに3人でオリエント急行に乗り、トルコを後にしますが、その列車には暗殺者であるグラントが乗り込んでいました。
グラントはケリムを殺し、ボンドに接触すると、ボンドを殺そうとします。ボンドはアタッシュケースで催涙ガスを発生させ、グラントを殴り倒し、息の根を止めました。
4)ベニスでの終焉
ボンドとタチアナがベニスのホテルの部屋に着くと、レクターを奪おうとしてクレップが掃除人に扮装し待ち構えていました。以外にもクレップはボンドにおそいかかりました。からくも、タチアナがクレップを射殺し、すべてが終わったボンドとタチアナは、ベニスを楽しむのでした。
3.方向性
『007 ロシアより愛をこめて』はいわば、シリーズ初のシリアスな映画です。『007』が、ギャグかシリアスか模索の時代で「シリアス映画」は2作目『007 ロシアより愛をこめて』と6作目『女王陛下の007』の2本となり。残り5本は全部「ギャグ映画」となります。
映画ファンから『007 ロシアより愛をこめて』が「名作」と言われる理由には、初期の「『007』ギャグかシリアスかの模索時代で、初代ボンドのショーン・コネリー唯一の「シリアス映画」だからかもしれません。多くの人間を共感させるリアリズムへの方向性を本作に見えてきました。
4.みどころ
1)見せ方
列車の死闘からボートの大爆発まで本作は「見せ場の作り方」が現代のアクション映画と殆ど変わりません。50年前に完成してた「アクション映画の作り方」にまず驚き、また『007 ドクター・ノオ』と同じテレンス・ヤング監督の「ハニー・ライダー」から、一転したシリアスさにも驚愕します。
2)スパイグッズ
ボンドを恨む “スペクター” が刺客を送る発想に現実感があり、現代の殺陣と比べてスピードが遅い列車の死闘も、当時は衝撃的だった様子が伝わってきます。ロバート・ショウが「便利なケース」を開ける緊迫感は今みても迫力がありました。
3)シリアスタッチ
60年代当時、「ギャグ」がない1代目唯一の「シリアス映画」はかなり強烈に見えたでしょう。本作は2代目ジョージ・レーゼンビー以降の「シリアス映画」作風の「原点」となりました。1代目のショーン・コネリー全6作品のベスト1は間違いなく『007 ロシアより愛をこめて』。「シリアス映画」の「原点回帰」の意味において、『007 ロシアより愛をこめて』が『007 スカイフォール』まで影響を与えるシリーズの基礎を築きました。
4)秘密兵器
『007』シリーズ「伝統」の「秘密兵器」が2作目で初登場します。前述のように実にシンプルな「便利なケース」。秘密兵器が「ど派手」なギャグにエスカレートしてく以後とは大違いの「地味」さです。しかし「本当に作れそう」なこのケースには現実味がありました。
5)ヘリコプター爆発
『007 スカイフォール』『ダイ・ハード』『ランボー 怒りの脱出』『ミッションインポッシブル』等々。アクション映画はヘリコプターが爆発しなければならないのです。
アンディ・シダリス監督は「売れる映画の五箇条」の一つに「ヘリコプターを爆破せよ」と論じています。どの映画が初めてヘリコプターを爆発したかは不明ですが、50年前『007 ロシアより愛をこめて』でヘリコプターはすでに爆発していました。
これは現代の視点でも凄まじい。ダニエラ・ビアンキを抱きしめ、墜落したヘリコプターがもう一度大爆発する「間」はかなり芸術的で、ボートの大爆発も含め、50年前なのにかなりの大迫力でした。
6)オープニング・タイトル
『007』全23作品で一番美しい「オープニング・タイトル」は『007 ロシアより愛をこめて』です。“ロシアより愛をこめてのテーマ” と “ジェームズ・ボンドのテーマ” とが混ざり合うジョン・バリーの楽曲がとにかく素晴らしいのです。女性の体に字を映写するアイデアから色調、どエロ加減までもはや完璧で、この「オープニング・タイトル」の美しさは『007 スカイフォール』も超えられません。
5.はてさて
1)スピード
一般的には007シリーズ第2作目にして最高傑作と言われる本作は、映画自体、細部にわたっていろいろ魅力的な部分がありますが、いま観直すとこの頃のジェットコースター的息もつかせぬ映画たちに比べるとアクション映画としてはかなり間延びが感じられます。
しかしながら、いまのアクション映画の原型がいっぱい詰め込まれていて、そして、オリエント急行での007とロバート・ショーとのアクションシーンは、ロバート・ショーの凄味あってこそですが、当時としては出色のサスペンスで、ハラハラドキドキさせられます。
2)リアリティー
まぁ、でもこういうスパイものも冷戦が終わりを告げて以来どうもリアリティがなくて、闇の組織スペクターなんかもなんか失笑レベルになってしまします。もう仮面ライダーとかキカイダーと同じレベルの荒唐無稽さしか感じません。
1960年代〜70年代はこれでもある種のリアリティがあったと思うのですよ。これも時代、なのでしょう。
6.まとめ
最近のエンターテイメント映画は確かに息もつかせないのも一興ですが、どうにも馴染めない部分もあって、手作り感がないし「驚かそう」というケレン味ばかりを感じてしまいます。
本作は、なんといっても半世紀以上昔の映画です。そういう時代に物心ついた諸兄にとっては、つまりはそういう時代と、そういう時代のエンターテイメントがノスタルジックで、無性に好きなのです。そして、その白眉がこの映画です。