凸凹玉手箱

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映画『トレーニング デイ』デンゼル・ワシントンのオスカー作品です!!

この映画『トレーニング デイ(Training Day)』は、監督アントワーン・フークア、主演デンゼル・ワシントン、共演イーサン・ホークで、2001年に公開されたアメリカの犯罪アクション映画です。

目次

 

 

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1.紹介

正義感に燃えて、麻薬取締課に配属された新人刑事に、腐りきった警察内部の現実を知らせて誘惑するベテラン刑事と、その対立は修復されることなく、徐々にエスカレートしていくという、いまだかってないストーリー展開が実に新鮮です。

実際に、ストリート・ギャングなどの協力を得た、生々しい捜査現場の雰囲気や映像も手抜きがなく、アントワーン・フークアのリアリズムを追求した演出も注目です。

なんと言っても、悪役に近い役はあったものの、ここまで卑劣で容赦ない役はなかったデンゼル・ワシントンの、真に迫る体を張った迫力ある演技は見もので、全てを支配してきた男の凋落、クライマックスの彼の演技は圧巻です。

第74回アカデミー賞で黒人俳優では『野のユリ』(1963年)のシドニー・ポワチエ以来38年振りとなる主演賞を受賞したことで話題になりました。

悪党より恐ろしい、ベテラン刑事に圧倒されながらも正義を通す、イーサン・ホークの苦悩や感情表現は見事で、アカデミー助演賞にノミネートされています。


2.ストーリー

1)プロローグ

舞台は現代アメリカ、ロサンゼルス。交通課に勤務していた新米刑事ジェイク・ホイト(イーサン・ホーク)は、妻子のため出世を狙って麻薬取締課に転属しました。

初日の朝、上司になるアロンゾ・ハリス(デンゼル・ワシントン)刑事から電話でカフェに呼び出され、緊張しながら対面します。アロンゾはジェイクを車に乗せ、「今日は訓練日(トレーニング デイ)だ」と言いました。

まず麻薬の密売現場へ向かった2人。アロンゾは麻薬を買った学生達に銃を突きつけて怒鳴り散らします。あまりにも乱暴なその手法に驚くジェイク。更にアロンゾは取り上げた麻薬を、半ば強引にジェイクに吸引させました。


2)あやしい行動

次にアロンゾは情報屋ロジャー(スコット・グレン)の家へ向かいます。ロジャーはアロンゾを歓迎し、談笑し始めました。

ロジャーの家を出た2人は路地裏でレイプされそうになっていた少女レティー(サマンサ・エステバン)を見つけます。ジェイクは慌てて駆けつけ男2人組を拘束しますが、アロンゾは興味が無いらしく事件を放置してしまいます。落ちていたレティーの学生証をポケットに入れ、ジェイクはアロンゾに不満をぶつけました。

 

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アロンゾは善良な市民を守るために、麻薬取締官は狼にならなければならないと教えます。その後、車椅子の売人を追い詰めて無理やりボスの所在を吐かせたアロンゾは、令状も無しに家宅捜索を始めます。

彼の狙いは麻薬ではなく金品でした。金を奪ったアロンゾにジェイクは当然のこと抗議しますが聞き入れられません。それどころかこの程度で怯えるなら元の部署に戻れと脅される始末でした。


3)どこまで行く悪事

昼頃に、2人は非常に治安の悪い地域へやって来ます。アロンゾはこの地域の顔役でしたが、あまり好かれてはいない様子です。アロンゾの愛人と息子が住む家で昼食にした後、刑事2人と検事1人の3人組と会うためレストランへ行きました。

彼らと離れた席に座ったジェイク。アロンゾは3人と談笑していますが、会話の内容からどうやら全員が汚職に関わっているメンバーのようでした。少し前にラスベガスでロシア人と揉めたことに言及されたアロンゾは、金で解決すると余裕を見せました。

彼らに手を回して貰ったアロンゾはロジャーの逮捕令状を金で手に入れて、部下を呼び出し行動に移りました。ロジャーの家に踏み込んだアロンゾ達は床下に大金を発見します。それを当然のように着服するアロンゾ達にジェイクは目を丸くします。

 

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更にアロンゾはロジャーを射殺した上に、正当防衛でジェイクが殺害したのだと口裏合わせを要求してきました。怒りに震えたジェイクはアロンゾに銃を向けますが結局撃つことは出来ませんでした。


4)地獄からの脱出

夕闇が迫る中、アロンゾはジェイクを連れてスマイリー(クリフ・カーティス)というギャングの家へ向かいました。家には数人のギャング達が集まっています。異様な空気にジェイクはアロンゾを呼びましたが、彼は既に姿を消していました。アロンゾはギャングにジェイクの殺害を依頼していたのでした。

アロンゾはラスベガスでロシア人を殺害してしまい、その手打ちのために今夜金を払うことになっているそうです。そのためにロジャーを襲い、さらには邪魔なジェイクを消そうと目論んだのでした。

 

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ジェイクは暴行を受け殺害されそうになりますが、レティーの学生証が命を救ってくれました。彼女はスマイリーの従妹だったのです。レティーを助けた礼として見逃して貰ったジェイクは、怒りを燃やしながらアロンゾの愛人宅へ向かいます。


5)悪事の果てに

家に入り、ジェイクはアロンゾに銃を向けました。しかし隙を突いてアロンゾが窓から屋根に逃走します。追いかけたジェイクでしたが腕っ節ではアロンゾに敵うはずもなく、殴り倒されてしまいます。

アロンゾは金を詰めたバッグを持って、車に乗り込みました。しかしそこへ、ジェイクがボンネットの上に飛び降りて来ます。ジェイクを振り落とそうとするアロンゾは誤って別の車に衝突し、脳震盪を起こします。ジェイクはアロンゾを車外に引きずり出して、バッグを奪いました。

 

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6)エピローグ

集まってきたギャング達に促されてその場を去るジェイク。アロンゾは金を返せと叫びますが、誰もが嫌われ者の彼に味方しませんでした。アロンゾは仕方なく車で逃げようとしましたが、赤信号で止まった際に殺し屋に囲まれ蜂の巣にされてしまいました。

 

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ジェイクが家に帰ると、アロンゾの死が伝えられたニュースが流れていました。

 

3.四方山話

1)ランパート・スキャンダル

本作の脚本執筆時より後に、ロサンゼルス市警察(LAPD)の捜査部隊「CRASH」における汚職事件(ランパート・スキャンダル)が発覚しました。監督は、この事件が映画の制作を推し進めるきっかけとなったと語っています。

デンゼル・ワシントンは、事件の中心人物であり、押収されたコカインの盗難・転売など、数多くの犯罪に関与していたラファエル・ペレス巡査を演技の参考にしました。


2)テクニカル・アドバイザー

ロサンゼルスと言えば、ギャングです。全米で勢力を伸ばすギャング、ブラッズとクリップスも、ロサンゼルスで生まれました。

映画『カラーズ/天使の消えた街』(1988年)でも分かるように、彼らは色分けされています。ブラッズはその名前を意味する血の色の赤、そしてクリップスは青になります。本作に出演するギャングはほぼ赤、つまりブラッズのメンバーであることを意味しています。

本作でブラッズのメンバーが占めたことには理由があって、実際のギャングのアジトがある地域で撮影する場合、地元の本物のギャングにおぜん立てをしてもらわないとスムーズに撮影が出来ません。今回は、クレ・”ボーン”・スローンという男が撮影の協力をして、本編ではセリフまである役も貰っています。そのスローンが、ブラッズ出身なのでした。

スローンのようなテクニカル・アドバイザーを雇うようになったのは本作からで、それだけ本作がリアルさにこだわった証拠です。


3)アドリブ

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本作では、なんといっても「俺はキングコングにだって勝てる!」というアロンゾの名言です。ゲットーを食い物にしていた男が、四面楚歌となって放った精一杯の強がりであり、悪に満ちた麻薬取締課を生き抜くための処世訓なのです。

実はこれ、デンゼル・ワシントンのアドリブが生んだもので、実際の脚本とデンゼル・ワシントンが放ったセリフを比べてみると、アドリブや言い回しを変えている部分が多く、より生のゲットーを感じる言葉遣いになっています。


4)キャスティング

忘れてはならないのは、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされたイーサン・ホークです。本作で一番大事な「正義」を貫いたホイトを演じています。

子役時代からハリウッドで活躍していますが、イノセント(無垢)という言葉が似合う俳優です。それでいて、どことなく何もかも知り尽くした影があり、そんな彼には、ホイトという役がピッタリでした。

そしてデンゼル・ワシントンと互角にやれる演技力も持ち合わせていました。また、スコット・グレンやトム・ベレンジャーというベテラン勢の存在感も、本作のハードボイルドをより際立たせています。


5)監督

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アントワーン・フークワは、黒澤明に憧れてエンジニアから映画監督への道へと進み、プリンスやスティーヴィー・ワンダー、珍しいところで松田聖子のミュージックビデオを手掛けました。

長編映画監督としてはまだ駆け出しでしたが、そんな若手監督だったからこそ、ベテランのデンゼル・ワシントンは自由にアドリブして、アロンゾというキャラクターを組み立てることが出来たのでしょう。

こうして、デンゼル・ワシントンとアントワン・フークアの新しい名コンビが誕生し、その後は、『イコライザー』(2014年)と、続編の『イコライザー2』(2018年)、そして『マグニフィセント・セブン』(2016年)と、計4作も組むことになりました。

 


4.まとめ

映画製作のプロ集団と本物のギャングが集結し、よりリアルに正真正銘のロサンゼルスを映し出そうとした作品です。そこには、私たちがイメージするロサンゼルスの燦々と輝く太陽も、そびえ立つヤシの木も、地平線に続く青い海など、全くありませんでした。