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映画『ラストサムライ』トム・クルーズのサムライが見ものです!!

この映画『ラスト サムライThe Last Samurai)』は、2003年のアメリカ映画で、監督は『戦火の勇気』『マーシャル・ロー』のエドワード・ズウィック、脚本を『グラディエーター』『アビエイター』のジョン・ローガンが担当して、主演がトム・クルーズ渡辺謙が共演しています。

目次

 

 

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1.紹介

本作『ラストサムライ』はノンフィクションやドキュメンタリー映画ではなく、歴史映画でも伝記映画でもありません。まさしくエンターテインメント作品です。

従って、日本人なら普通に湧き上がってくる「史実と違う!」とか「時代考証がなってない!」とかいう考えは、鑑賞する前から心の隅に置いて封印しておくのが賢明です。

純粋に娯楽として見たときに、私たちは海外で「サムライ」という存在がどういう風に映っているのか。またはどんな人物であることが望まれているのかが分かってきます。

ラストサムライ』はそんな映画です。


2.モデル

1)人物・事象

さて、本作は当然ながら実話ではありません。実話ではありませんが、1877年の西南戦争がモデルとなっています。

渡辺謙が演じたところの勝元盛次は、西郷隆盛をモデルにしているようですし、真田広之が演じた氏尾は、さしずめ桐野利秋といったところでしょうか。

ネイサン・オールグレンのモデルについては、江戸幕府フランス軍事顧問団として来日し、榎本武揚率いる旧幕府軍に参加して箱館戦争を戦ったジュール・ブリュネのようです。


2)武士の描かれ方

本作は、日本を舞台にして、日本人と武士道を偏見なく描こうとした、ほぼ初めての映画といわれています。

多くの日本人俳優が起用されたことも、違和感をなくすためでしょう。ただ、やはり、日本人が描く武士道や侍像とは違うようで、日本人監督の場合、侍は主家(藩)や家族のために身を粉にして我慢する辛抱するものだと描いていることが多いようです。

一方、この映画では、侍には独特のスピリットである武士道があって、武士道によって殉ずるという描き方をしています。

葉隠」の「武士道と云ふは死ぬ事と見つけたり」を極解したものが、映画化されてしまったかのような印象です。

また、日本の俳優陣が反対したにもかかわらず、ニンジャを登場させたことにもかの国の抱くサムライ像の違和感を持ってしまいます。ただ、忍者の持つ刀がちゃんとした忍者刀だったことには感心しました。


3)俳優の明暗

「勝元」役を演じた渡辺謙が、ゴールデングローブ賞、ならびにアカデミー助演男優賞にノミネートされ、対して、主演のトム・クルーズは、ゴールデングローブ賞 主演男優賞ノミネートのみでした。

残念ながら、主役が食われる典型的な映画になってしまいましたのでは、仕方がありません。

クライマックスの合戦シーンも流石ハリウッド、真田広之は勿論、トム・クルーズの殺陣も迫力満点です。欲を言えば、真田広之の殺陣をもっと堪能したかったのですが、「トム・クルーズがわざとシーンを削った」との逸話も伝わっています。


3.ストーリー

1)プロローグ

北軍側で参加し、酒浸りになった1人の男がいて、彼の名前はネイサン・オールグレン大尉(トム・クルーズ)でした。
戦時中、インディアンの村を襲い、無力な女性や子供をその手にかけていました。良心の呵責から心に傷を負った彼は、銃器販売のパフォーマーを演じながら酒浸りの生活を送っていました。


2)日本からのオファー

時代は、明治初期の日本。欧米各国に追いつき追い越せと、日本が変わろうとしている時代になります。新しい文化や技術を取り入れ、古いものを捨て去ろうとしている、そんな移り変わりの時でした。

戦場での実績から、オールグレンは、日本で軍隊の教官というオファーを受けました。日本側の大臣 大村(原田眞人)との窓口を務めるのは、かつての上官であるバグリー大佐(トニー・ゴールドウィン)でした。インディアンの村々を襲った時の上官は彼だったのです。

日本側より、近代国家建設のために急速な軍備の増強が必須と説明を受け、大金のオファーを提示され、大金に魅せられたオールグレンは、日本に行くことを決意します。


3)初陣

政府軍で教官を始めた彼は、敵勢力となる「サムライ」について調べを始めました。ある日の訓練中、サムライたちが鉄道を襲ったという知らせが入ります。
サムライたちの首領の名前は勝元(渡辺謙)です。

 

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練度が不十分なため、この軍隊では戦えないとオールグレンは訴えますが、抗議もやむなく、出陣が決まりました。

静かな森の中で両軍が相対しますが、オールグレンの予想どおりに一方的な展開となり、サムライたちに押された政府軍は、逃げるように撤退します。


4)死闘そして捕縛

サムライたちに囲まれたオールグレンは、彼らの武器を奪い、必死に抵抗しますが、徐々に傷を増やし、動けなくなった彼に赤い甲冑を着たサムライがトドメを刺そうとしました。しかし一瞬のスキをついて、オールグレンは赤い甲冑を着たサムライを刺殺しました。

その様子を見ていた勝元は、彼を殺さずに捕えるように命令します。捕まったオールグレンは、サムライたちの村に連れられていきました。その村は勝元の息子である信忠(小山田真)のものでした。
瀕死の彼は、夜ごと南北戦争時代のトラウマにうなされました。


5)村での生活

彼はその村で勝元の妹である、たか(小雪)から手厚い介護を受けました。

回復後、村を巡る中でサムライの静かな生活を目の当たりにし、日々の生活や鍛錬を誠心誠意、こなしていく彼らにオールグレンは敬意を抱いてゆきます。
同時にサムライ達や勝元も、オールグレンとの交流や鍛錬を通じて、彼に対する信頼を抱くようになりました。

 

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村に馴染みつつある彼だが、世話をしてくれるたかだけは心を開くことはありませんでした。彼女の夫は、オールグレンに殺された赤い甲冑のサムライだったのです。
しかし、村の生活に敬意を表すようになったオールグレンに対し、次第にたかは心を開き始め、オールグレンを許すようになりました。

 

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6)村への襲撃と召喚

月日が経ち、村で祭りが行われ、首領である勝元が道化を演じる舞台に、村の人々が注目している中で忍者の一団が村に侵入します。
舞台が盛り上がる中、襲撃を受けることになり、忍者やサムライたちの双方に犠牲が出る中、オールグレンと勝元たちは協力して戦い、忍者の一団を退けました。

季節が巡り、春を迎えた頃、政府に呼び出された勝元たちとオールグレンは東京へ向かいます。東京でオールグレンが見たものは装備が充実し、よく訓練された政府軍の姿でした。

大村は、生還したオールグレンに対し、共に過ごしたサムライたちの何かに魅せられたのではないかと疑いの目を持ちました。

一方の勝元は、廃刀令にしたがって刀を捨てるよう大村に迫られ、勝元は明治天皇中村七之助)に判断を仰ぐが、天皇はどちらとも判断が下せません。
刀を捨てない勝元は、東京で謹慎処分となりました。


7)帰国か残留か

オールグレンは大村から、サムライを討伐する指揮官就任への打診を受けますが、彼はそれを断り、アメリカに帰ることを決めました。しかしながら、オールグレンと勝元との間を疑う大村の刺客に襲われました。

何とか退けたオールグレンは、信忠ら村の一軍と共に勝元を脱出させることになりましたが、勝元たちは村へ帰還できたものの、負傷し殿を務めた信忠は犠牲となりました。

もはや、政府軍と勝元達反乱軍との対決は免れぬものとなり、意を決したオールグレンは反乱軍の一員として、戦うことを決めるのでした。



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8)決戦

両軍相対する中、政府軍の攻撃から戦いは始まりました。武力で上回る政府軍に対して、勝元たちは工夫を凝らして戦います。しかし徐々に劣勢となり、突撃での正面突破を選択することになりました。

 

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突撃により、因縁のあったバグリー大佐を討ち取るも、激しい銃撃を受け、徐々にサムライたちの数が減っていく中、オールグレンは被弾し、勝元は致命傷を受けました。

傷ついた勝元はオールグレンに名誉ある死、すなわち彼の手でとどめを刺すように頼みます。オールグレンは勝元のそばにより、彼の自害を手伝う形で、とどめを刺しました。

 

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勝元はオールグレンの背後に咲く桜を見ながら、「すべてパーフェクトだ」という言葉をつぶやき、息を引き取りました。

政府軍の兵士たちは、彼らの戦いぶりに敬意を表し、跪いて頭を垂れ、ひとり、またひとりと勇ましく散っていった彼らに対して、敬意を表するのでした。


9)エピローグ

生き残ったオールグレンは明治天皇に謁見し、勝元の刀を渡します。
それを受け取った明治天皇は、勝元の死に様を問いましたが、オールグレンは「生き様」を語ると伝え、勝元が託した、日本人として忘れていたことを思い出させます。そしてこの国をより良くしていこうと決意するのでした。

そしてオールグレンは消息不明としていますが、一冬を過ごし、心の平穏を取り戻すきっかけとなった、たかの居る村に帰還したことを暗示させます。

 

 

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4.まとめ

本作『ラストサムライ』はエンターテインメント作品です。この映画で描かれるサムライは、厳密にいって「侍・武士」とは違います。

たとえば我々日本人が西洋の騎士に憧れと敬意を抱くように、映画を制作したスタッフの思い描く理想のサムライの姿。それが『ラストサムライ』という映画のなかに集約され表現されていると考えられます。

それは、我々日本人が想像できないほどの美をサムライに感じている、アメリカ人の気持ちを見せつけられるからです。

本作は、むしろ私達日本人のなかの「侍」像を解体し、アメリカ人が創造した圧倒的に美しい「サムライ」の姿に感動させられてしまう映画といえるでしょう。