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映画『のぼうの城』は野村萬斎ならではのまことに面白い映画です!!

この映画『のぼうの城』は、和田竜による歴史小説を原作とした2012年の日本映画です。犬童一心樋口真嗣の共同監督で、2010年夏より製作開始し、東宝アスミック・エースの配給で2012年11月2日にTBS開局60周年記念作品として公開されました。

主演は野村萬斎で、他にベテラン・若手の有力俳優が多数出演しています。累計興行収入28.4億円を記録するヒット作となり、第36回日本アカデミー賞で多数の優秀賞を受賞するなどの評価を受けました。

目次

 

  

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1.あらすじ

1)前段

1582年、毛利輝元との戦に臨んでいた羽柴秀吉市村正親)は、備中に侵攻、水攻めで高松城を陥落させました。8年後、関白となった豊臣秀吉は、天下統一への最後の敵として、小田原城の北条氏を攻撃目標に定めました。


2)侵攻

秀吉は、北条勢の成田氏長(西村雅彦)を城主とした支城「忍城」に対し2万の軍勢を向け、家臣・石田三成上地雄輔)を総大将に任命し、大谷吉継山田孝之)、長束正家平岳大)らを副将につけました。


3)のぼう様

忍城の城主・成田氏長の従弟の長親(野村萬斎)は、誰にでも分け隔てなく接する優しい人柄で、領民達はでくのぼうを意味する「のぼう」と親しみを込めて呼んでいました。


4)覚悟

忍城には小田原城からの使者が到着し、北条家への加勢を命じました。長親の父である城代、成田泰季(平泉成)は心労から床に伏し、その後息を引き取りました。城主の氏長は、圧倒的に不利な戦力差を前に、北條氏の命に従って自らは半数の500騎の兵を率いて小田原城に入城しますが、秘かに豊臣方に内通の意思を伝え、関白軍が攻め入ってきたら「無抵抗のまま開城せよ」と命じました。


5)決意

やがて、2万の関白軍が忍城下を見下ろす丸墓山の山頂に到達し、忍城を包囲しました。忍城に残ったのはたった500騎。父に代わって城代となった長親は開城を決意し、三成が使者として送った長束正家を大広間に通しました。しかしながら、関白軍の威を借り、人を人とも思わぬような正家の態度で、あまつさえ、甲斐姫榮倉奈々)を秀吉の側女として差し出せと言ってきました。ここで、ついに長親は、「戦いまする」と発し、一座を驚愕させます。

 

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6)決起

正木丹波守利英(佐藤浩市)をはじめとする武将たちも一転、関白軍との無謀な戦いに挑む事を決意っしました。忍城軍は、丹波を囲んで軍議を開き、作戦を練ります。その夜、長親は城内に領民たちを集め、自らが戦を決断したことを涙ながらに詫びました。しかしながら、彼を慕う領民達は、のぼう様のために共に戦おうと鬨の声を上げるのでした。


7)開戦

日の出と同時に、佐間口には長束正家の勢4000、長野口には大谷吉継の勢6000が集結し、戦いの火ぶたが切って落とされました。佐間口で長東勢に相対した丹波は、騎馬鉄砲隊の奇襲攻撃で正家にひと泡吹かせました。また長野口の一本道では力自慢の柴崎和泉守(山口智充)が大槍で吉継の軍勢をなぎ倒します。

総大将の長親は、本丸にて刻々と報告される戦況にただただうろたえていました。長野口の和泉が石はじきによって攻め込まれると、すかさず酒巻靭負(成宮寛貴)が計画した油攻め、火矢攻めで大谷勢を撃退し、忍城軍は、緒戦に勝利しました。


8)水攻め

数で圧倒的優位と見られた忍城戦に敗退したことは、三成を大いに焦らせました。三成は忍城の周囲を巨大な人工の堤で取り囲み、忍城を水没させる水攻めに転じました。農民達が多額の金によって雇い入れられ、人工堤の建設が始まりました。堤が完成し、忍城周辺に濁流が押し寄せてきました。

 

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9)奇策

領民達は、高台にある忍城本丸に必死に逃げ込みましたが、このままではやがて本丸も水没することになってしまいます。案じた長親は船で堤の近くまで出て、三成軍の前で関白を馬鹿にした田楽を踊り、敵味方の兵士や農民を魅了ます。三成は、大谷吉嗣の諫めも聞かず長親を狙撃させました。長親は一命を取り留めましたが、それを見た味方の兵士や農民達が一時沈んだ空気が払われ意気が上がりました。場外にいた農民も意を決して、堤を破壊し、関白軍の水攻めは失敗します。

 

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10)終結

三成軍は、水の引が引いて、ぬかるんだ土地に土俵を敷いて進行しますが、丹波が決戦に出た時に、反関白軍の本城小田原城が落城した知らせが来ました。長親は忍城を明け渡すことを決め、三成が自ら忍城に入場して城を受け取りますが、長束正家の強硬な態度で場内の宝物や兵糧まで差し出せという条件に、長親は、勝敗は決っしていない最後まで抵抗すると言い切りました。

長親の気迫に光成は折れ、逆にこの忍城の攻防戦の負けを認め、永代まで言い伝えられられるであろうと賞賛しました。

 

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2.みどころ

1)田楽踊り

狂言師野村萬斎が演じたのは、「天才」かただの「でくのぼう」かよくわからず、また強くもなく統治能力もないのに農民たちの人気だけはあり、なぜか人の心を一つにまとめていく力を持つ男「のぼう様」でした。

彼は『陰陽師Ⅱ』(2003年)では端正でカッコいい安倍晴明役を演じましたが、本作では姿かたちからしゃべり方までのぼう様に徹する「怪演」をみせています。本作のハイライトは忍城の水攻め大スペクタクルですが、その「水攻めを破る」と宣言したのぼう様がみせる舟上での田楽踊りは圧巻で、これはまさに当代随一の狂言師野村萬斎でなければできない芸だけでしょう。


2)緩急

本作は良くも悪くも野村萬斎演ずる「のぼう様」こと成田長親のキャラが最大のポイントだから、時代劇とは言いつつマンガ的なおかしさが随所にあふれています。さらに、成田家の武将・柴崎和泉守役の山口智充も、甲斐姫役の榮倉奈々に一目惚れしたらしい酒巻靭負役の成宮寛貴もかなりマンガ的です。

その対極としてあくまで真面目型の武将・正木丹波守利英を演ずる佐藤浩市の存在によって本作はある程度引き締まっていますが、

一方、秀吉方の武将・石田三成役の上地雄輔のキャスティングそのものや、長束正家役の平岳大の怪演、がマンガ的なら、こちらの対局には大谷吉継役の山田孝之が締めています。


3)交渉シーン

本作には2度の外交交渉シーンが登場します。石田三成は1度目の秀吉方の「全権大使」に大谷吉継の反対を押し切って長束正家を任命します。成田方の降伏、忍城の開城まちがいなしと双方とも踏んでいたにもかかわらず、ここでのぼう様が「戦いまする」と宣言することになったのは、天下軍の威を借り、なめきった態度を取った長束正家が原因でした。

そこで2度目の全権大使は大谷吉継長束正家を従えて石田三成自身が忍城へ赴きましたが、そこでの外交交渉シーンも見応えがありました。ここでも長束正家がありもしない兵糧没収の条件提示をして、城代成田長親の逆鱗に触れ飢え死にするくらいなら戦って死ぬとの決意を突き付けました。

  
4)脇役

本作には尾野真千子がキーマンとなる農民・かぞう(中尾明慶)の妻・ちよ役で出演していますが、2012年NHK朝ドラ『カーネーション』で大ブレークする以前の撮影だったため、その出番は少ないのですが、ちよは武士に強姦されたときの騒動で長親が収めたが故に人望を得ることになった逸話の役どころでした。

そして、前田吟演ずるかぞうの父親・たへえの活躍の場も大きいのですが、かぞうも水攻めの堤防を破って大逆転の重要な役どころでした。

いずれにしてもこの3人が「農民パワー」を代表しています。

 

3.評価

第36回日本アカデミー賞において、以下の10部門で優秀賞を受賞し、そのうち美術賞で最優秀賞を受賞しました。

優秀作品賞
優秀監督賞 犬童一心樋口真嗣
優秀主演男優賞 野村萬斎
優秀助演男優賞 佐藤浩市
優秀音楽賞 上野耕路
優秀撮影賞 清久素延・江原祥二
優秀照明賞 杉本崇
優秀美術賞 磯田典宏・近藤成之
優秀録音賞 志満順一
優秀編集賞 上野聡一

なお、第34回ヨコハマ映画祭において、本作と『その夜の侍』『悪の教典』の3作品での演技により、山田孝之助演男優賞を受賞しています。

 

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4.まとめ

歴史上、なんの取り柄もなかった「成田長親」に野村萬斎という稀代の狂言師をはめることによって、まことに面白い映画が出来上がりました。