凸凹玉手箱

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映画『クロッシング』悲惨なアメリカン・コップを描いています?!

この映画『クロッシング(Brooklyn's Finest)』は、2009年に公開されたアメリカ映画で、監督は、『トレーニングデイ』のアントワーン・フークアリチャード・ギアイーサン・ホークドン・チードルが扮する3人の警察官が交差する群像劇を描いたクライムサスペンスです。

目次

 

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1.紹介

ニューヨーク、ブルックリンの犯罪多発地域であるブラウンズヴィルを舞台に、それぞれ違った苦悩を抱える、立場が違う3人の警官の生き様を描く犯罪ドラマです。

死と隣り合わせの中で、苦悩しながら厳しい現実と向き合う警官の生活を生々しく描いています。

アントワーン・フークアの骨太な演出が見所の作品であり、真実や正義を追求する男達と、アメリカの抱える様々な問題を描く、見応えある社会派ドラマでもあります。


2.ストーリー

本作は3人のニューヨーク警官の生き様を描いていますが、それぞれに繋がりはなく、ただ同じ分署に所属というだけでストーリー上の絡みはありません。
それぞれが1本の作品として成立しているので、ここでは個別に紹介することにします。

 

1)サルの焦燥

ニューヨークはブルックリンで、市警の刑事サルヴァトーレ”サル”プロシーダイーサン・ホーク)は、車内で情報屋のボビー”カルロ”パワーズヴィンセント・ドノフリオ)と話をしています。
突然カルロを射殺したサルは、彼が持っていた金を奪い、車を降りてその場から逃げました。


教会で懺悔したサルは、以前から何度も主に助けを求めていますが、状況は全くよくならないと神父に話します。
許しを請うようにと言われたサルは、助けが欲しいと伝えて、聖マリアに祈りを捧げてその場を立ち去るのでした。

署に向かったサルは、同僚のロニー・ロザリオ(ブライアン・F・オバーン)に、カルロのことについて尋ね、車内で殺されていて犯人は解らないと言われました。


帰宅したサルは子供達に迎えられ、カルロから奪った金を地下室で確認するものの、思っていたよりも少なかったために苛立ちました。
現金を隠したサルは手に着いた血を洗い落とし、妻アンジェラ(リリ・テイラー)が来たために焦ります。

サルは、家のカビが原因で喘息を患い、双子を妊娠しているアンジェラや子供達のために引っ越しを考えていましたが、その頭金を工面できずに悩んでいます。

引っ越し先の家主ヴィンセント夫人から電話があったことを、アンジェラから知らされたサルは、心配いらないと言って必ず引っ越すことを約束しました。

 

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翌日、ドラッグ・ディーラーの拠点である公営団地の一室を同僚達とガサ入れしたサルは、バッグを持って逃げた男を追いましたが、男を捕えたものの、金を持っていないことでサルはまた焦ります。


同僚らと自宅でカードを楽しんでいたサルは、パトリック・レアリー(ワス・スティーヴンス)と揉めて騒ぎになり、それを鎮めたロニーは、サルと話したところ、悩みがあると言われるのでした。

双子が生まれるために部屋がないと言うサルに、赤ん坊くらい育てられるはずだと伝えたロニーは、自分には子供がいないために贅沢な話だと言うのです。

その後、ヴィンセント夫人に電話をしたサルは、資金は用意できると伝えるものの、その方法が考えられないために悩むのでした。


アンジェラが入院したためにロニーと共に病院に向かったサルは、ヴィンセント夫人からの電話を受けて、期限である明日の約束は守ることを伝える。

医師から、アンジェラの肺に木材のカビが入っていることを知らされたサルは、彼女と子供達が危険だと言われ、引っ越しを提案される。


翌日、ロニーらとある場所をガサ入れしたサルは、金の在りかを聞き出し、大金を目の前にしますが、ロニーに見とがめられたところで、ロニーを襲おうとしたギャングを撃ちました。

ヴィンセント夫人からの、頭金を催促するメッセージ聴いていたサルは、上司からお手柄だと言われます。

ロニーに感謝されたサルは、咄嗟に撃っただけで、それをやめて金に手を出していたかもしれないと言って、感謝される義理はないと伝えてその場を去るのでした。

 

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携帯電話をデスクに置いて出て行ったサルの電話出たロニーは、相手のアンジェラと話し、最近、彼の様子がおかしいことを伝えながら、今夜の中止になったガサ入れ場所の公営団地345にサルが向かったことを知りました。

ロニーが追ってきたことに気づいたサルは、車を止めて言い合いになり、金を奪っても解決にならないと言われたサルは、子供がいない者に分かるかとロニーに反論します。

子供のためなら何でもやると言うサルにロニーは、その覚悟があるなら今の幸せに感謝し、家に帰ってアンジェラと子供達にキスするようにと諭します。

ロニーに謝罪したサルたが、子供達を失望させるので、今は家に帰れないと。

失望などさせていない立派な親だと伝えたロニーは、酒でも飲みに行こうと言ってサルを誘い納得させようとするのですが、ロニーの車のタイヤを撃ち、サルはその場を去り団地に向かってしまいます。


そのとき、サルは別の棟のレッドの元に向かうタンゴとすれ違いました。


銃を手にしたサルは、345棟に入り、ある部屋のドアを開けて押し入り男達を射殺したサルは、隠してあった現金を奪うものの、背後から何者かに撃たれ、紙幣を掴みながら倒れたサルは、息を引き取りました。


ロニーは、建物から飛びだした男を確認しながら部屋に向かっい、射殺されたサルを見つけて悲しむのでした。

 


2)エディの諦観

22年間、警官を務め退職まで1週間となったたエドワード”エディ”デューガン(リチャード・ギア)は、波風を立てないように平凡な日々を送り、妻とも別居して空虚さを感じながら苦しんでいました。


犯罪多発地帯であるブラウンズヴィルの公営住宅で、警官による射殺事件などが起きたために警備が強化され、新人を配属することになったことを知らされたエディは、その教育係を上司から命ぜられました。


新人で、元海兵隊員のメルヴィン・パントン(ローガン・マーシャル=グリーン)と組んだエディは、気軽に話しかけてくる彼と親しくなる気はありませんでした。

路上で揉めていたカップルの仲裁をしようとしたメルヴィンに、エディは、管轄外で何もすることができないことを説明し、車中に居ろとの指示に従わなかったことを叱ります。

カフェに寄ったメルヴィンは、納得いかないことをエディに伝えるものの、これから毎日、犯罪に接するために、自ら首を突っ込むべきではないと助言されました。

それが臆病な行為だとしか思えないメルヴィンは気分を害してパトカーに戻り、エディは後7日の我慢だと考えるのでした。


チャイナタウンで、馴染みの娼婦シャンテル(シャノン・ケイン)に会いに行ったエディは、男達が女を連れて行く姿が気になります。

シャンテルと愛し合ったエディは、今、組んでいる新人の不満を彼女に話すのでした。


メルヴィンからエディ・クインラン(ジェシー・ウィリアムズ)に新人の教育を変更され、エディは、混乱が続くブラウンズヴィルの巡回を始めました。

その矢先、署に戻っエディは、メルヴィンが殉職したことを知りショックを受けるのでした。

 

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その場にいたサルも気の毒に思い相槌を打ちますが、その時、アンジェラからの電話が入りその場を立ち去ります。

同じ掲示板に貼ってあった行方不明者”サリー・フェアレー”の写真が目についたエディは考え込みます。


巡回中、ある店の揉め事を鎮めようとしたエディは、騒ぎを起こした青年のID照会をするためにパトカーに戻りましたが、その時に、青年が騒ぎ始めたために床に押さえつけたクインランは、銃を発砲してしまいました。


事件の責任をとろうとするエディは、女性調査官(レラ・ローション)から意見を聞かれます。

別の調査官(イザイア・ウィットロックJr.)は、クインランは一般の市民からの信頼を守るための犠牲者であり、青年はドラッグを所持していたので麻薬事件にすると言われますが、考えを変えようとしませんでした。

 

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青年を聴覚障害にしてしまったクインランは、エディに声をかけられるものの動揺するのでした。

その日がきて、バッジなどを渡して退職手続きを済ませたエディは、警察を去りました。


シャンテルの元に向かったエディは、彼女が男の相手をしていたために外で待ちました。

警官だった客は帰り、エディはシャンテルから腕時計をプレゼントされました。

コネチカットに行くつもりのエディはシャンテルを誘い、一緒にいたいことを伝えるのですが、それを拒むシャンテルから、帰ってほしいと言われました。

エディは、しかたなくその場を去り車に戻り、酒を飲んだエディは、いつも空の拳銃に弾丸を一発込めて考え込むのでした。


そこにバンが現れ、車に乗せられたのが行方不明者のサリー・フェアレーだと気づいたエディは、彼女らを追い、サリーが連れて行かれた団地に向かいました。


部屋から出て来た男がシャワーを浴びていることを確認して警戒するエディは、部屋に入り、2人の女性を助けようとするエディは、1人がサリーだと確認して手錠を外しました。

意識のない別の女性を見つけて、4人でその場から逃げようとしたエディは、戻ってきた男に銃を向け、そこに現れた別の男を撃ったエディは格闘になり、結束バンドで首を絞めて相手を殺しました。

 


3)タンゴの悲劇

潜入捜査官のクラレンス”タンゴ”バトラー(ドン・チードル)は、麻薬組織壊滅のために潜入捜査を行っていました。

上司のビル・ホバーツ警部補(ウィル・パットン)に会ったタンゴは、過酷な状況下で昇進もなく限界を感じているため、捜査から抜けさせてほしいとうったえました。

強盗目的の警官に殺された優秀な学生の写真を見せられたタンゴは、この件が報じられれば警察は徹底的にたたかれると言い、犯人は見つけたが、警察はそれをもみ消すために更に大きなヤマが必要となり、ビルはタンゴに協力を求めるのでした。

妻アリサのことを尋ねたタンゴは、送られてきた離婚届をビルから渡されて苛立ち、必ず人生を取り戻すと伝えます。

アリサに電話をしたタンゴは、不在だったために苛立つのでした。

 

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クラブに向かったタンゴは、組織のボスで命の恩人でもある出所したカサノヴァ”キャズ”フィリップス(ウェズリー・スナイプス)から、留守中、仲間達をまとめてくれたことを感謝されます。

レッド(マイケル・ケネス・ウィリアムズ)にその場を任せたキャズは、タンゴと屋上に向かい話し合い友情を確かめました。


ビルに会ったタンゴは、特別捜査官のスミス(エレン・バーキン)を紹介され、キャズを逮捕するための捜査を指示されます。

それを断ったタンゴはビルに説得されるものの、キャズは命の恩人だと言い、この話に乗れば一級刑事に昇進すると言われたタンゴでしたが、ビルの話を聞かずにその場を去るのでした。

そして、タンゴは、キャズが10年前の事件で起訴されることを知りました。

 

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屋上で、タレこんだ男を締め上げていたレッドは、タンゴと共に現れたキャズに、その件について説明します。

男を殺す意味はないと言うタンゴは、レッドに侮辱されたために銃を向けるものの、それを制止したキャズは男を解放しました。

レッドのやり方をよく思わないキャズは、8年間刑務所にいても組織のことは分かっているとタンゴに伝えて、タレこんだのはあの男ではないと断言しました。

この世界が嫌になってきたと言うキャズに、タンゴは、アップタウンの知り合いと取引して、大きく儲けて引退することを提案します。

手配するようにと言われたタンゴは昇進証書を受け取り、複雑な思いでキャズと共にクラブに向かい、取引する様子を携帯電話で録音しました。

トイレに向かったタンゴは、携帯電話を壁に投げつけて壊してしまいます。

ビルに電話をして降りることを伝えたタンゴでしたが、それでも取引は行われると言われ、もう関わるなと忠告されるもののキャズを捜します。

キャズを裏切るつもりのレッドは、タンゴの動きを監視します。

焦るタンゴは、街角にいたキャズを見つけて逃げることを提案するものの、取引はうまくいっていると言う彼にそれを拒まれました。

全てを話そうとしたタンゴでしたが、車に乗ろうとしたところを襲撃され、キャズは射殺されてしまいました。

キャズが死んだために、小物のレッドは野放しにすると言うスミスに憤慨したタンゴは、彼女に襲い掛かるもののビルに制止されました。

ビルから、潜入捜査は終了するので2週間のセラピーを受けるようにと指示されたタンゴは、スミスから、昇進を逃したどころか降格させると言われました。

しかしながら、ビルは、望み通りの潜入捜査をして一級刑事に昇進できるので、それで人生を取り戻せと言い、その場を去りますが、タンゴは納得できませんでした。


レッドらを襲撃したタンゴは、銃弾を受けて逃げたレッドを追いました。

レッドを追い詰めたタンゴは、ヤワになっていたキャズでは取引できないと言う彼に、あれは罠で自分は警官だと伝えてバッジを見せます。

今日から一級刑事になったと言うタンゴは、レッドを射殺するものの背後から銃弾を受けました。

駆け付けたロニーは、銃撃したタンゴが警官だと知って焦り、救急車を呼ぶようにと叫びながら345棟に向かうのでした。


4)エピローグ

その後、警官と救急車が駆け付け、状況を刑事に話したエディは、サリーが保護されたことを確認してその場を去りました。


3.四方山話

1)作品の舞台

この映画『クロッシング』の原題は「Brooklyn’s Finest」で、意味は、ずばり「ブルックリンの警察官」。ニューヨーク・ブルックリンの中で最も低所得者層が多い犯罪多発地域ブラウンズビルの分署で、本作の3人の警官たちはここに所属しています。


2)オムニバス

本作の3人の姿を見ていると、まるで今のアメリカを見ているような感覚になります。後輩(新興国)からは「もう用済みだ」と突き上げられ、長期間の戦争で身も心もボロボロになって、家計は火の車。夢も希望もないお先真っ暗の世の中で、共通の目的もなく、個々がバラバラに現状からの脱出をはかっています。本作も3人に共通の事件が起こるかというと、そんなこともなく、ただ一瞬、交錯(クロッシング)するだけです。

 

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4.まとめ

昨今のニュースで度々、黒人が白人警官に発砲・射殺された事件を耳にしますが、それがアメリカの現実なのだと改めて、悲しくなります。
本作は、その問題もからめつつ、3人の警官の生き様を激しく描いていました。
画面がとても暗くて狭く、3人の心の闇から容易に抜け出せそうにありません。
このような映画も多様性の中にはあってもいいのでしょうね。