映画「武士の一分」山田洋次監督時代劇三部作第三弾、ネタバレ満載です!!
冒頭、毒見役三村新之丞(木村拓哉、以後キムタク)は、毒見によった赤つぶ貝の毒に犯され頭痛・高熱により視力を失います。
周りから美男子といわれていた新之丞がいきなり死の底から這い上がったような病み上がりの姿で物語は始まります。キムタクのファンとしては衝撃のオープニングとなりましたがこれがエンディングまで続くことになります。
映画で盲人が演じられる時、大抵は瞼を閉じていますが、キムタクの盲目の新之丞は、目を見開いたままで、焦点と視線を合わさず、終始この状態での演技でした。自分でもやってみましたが、けっこう苦痛で、キムタクは多大の努力と練習を重ねたに違いありません。キムタクのこの映画にかける尋常ならざる意気込みを感じさせられました。
さて、3日の昏睡から目覚めた、新之丞は妻加世(檀れい)に目の見えないことを告げることができず、加世は医者に目の治らぬことを告げられても新之丞に告げられない。互いに相手のことを思い、慈しみ、いたわり合う夫婦でした。
それゆえに加世は新之丞の行く末を案ずるがあまり、良きに計らうという番頭島田藤弥(坂東三津五郎)の甘言に騙されてしまいます。叔母の波多野以寧(桃井かおり)の告げ口に、案じた中間の徳平(笹野高史)は加世の後をつけました。それに感付いた加世は観念し、すべてを新之丞に告白します。
その場で、「妻を盗み取った男の口添えで、たかだか三十石救われて喜んでた俺は、犬畜生にも劣る男だの...」と嘆き、殺してくれと哀願する加世を離縁しその場で家を追い出します。出てゆく加世に新之丞の見えぬ目から一筋の涙がこぼれます。
新之丞が妻加世の番頭島田から受けた辱めに、意趣返しを決意し、庭に出て木刀を振るいます。切り返しから始めるのですが、すぐにキムタクは剣道経験者であったことが思い浮かびました。長いブランクがあるはずですが、木刀の振りが流れるようになめらかでキムタクのことですからストイックに稽古を重ねたに違いありません。
ここから物語は一気に終盤の決闘へなだれ込み新陰流免許皆伝の島田に対し死中に活を求めて辛勝しました。
意趣返しの決闘の詮議もされないことになって、安堵の日が訪れようとしたときに、徳平の勧めるいつもはまずい食事の変化に気づき、徳平が飯炊き女として雇った加世に再会しました。
中間の徳平は、どの画面、どのシーンにも必ずといっていいほどどこかに姿を見せています。前作、前々作の様に妻以外の親身になってくれる親友の役回りが本作にはなく、徳平が一途にこの役を担っています。
全編を通して流れるのは、夫婦の互いの思いやりなのですが、この徳平の気遣いがいたるところに垣間見えて地味に物語を彩りました。
「武士の一分」は山田監督の追求したリアリティーをキムタクががっちり受け止め見事に昇華し、檀れい、笹野高史が、表に裏に花を添え、三部作第一弾の「たそがれ清兵衛」と並んで時代劇の名作となりました。