凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『我等の生涯の最良の年』映画史上に残る不朽の名作です!!

 

この映画『我等の生涯の最良の年(The Best Years of Our Lives)』は、監督ウィリアム・ワイラーにより、1946年に製作かつ公開された、アメリカ合衆国の映画です。第二次世界大戦後に市民生活に復帰した復員兵が直面する様々な社会問題をテーマにしています。

目次

 


1.紹介

1945年に発表されたマッキンレー・カンターの小説”Glory for Me”を基になっていて、自らも1942年から終戦まで陸軍航空軍少佐として従軍したウィリアム・ワイラーが、戦後最初に撮った作品です。

各方面から絶賛され、映画史上に残る不朽の名作といわれた本作は、第19回アカデミー賞では、8部門にノミネートされ7部門で受賞し、ハロルド・ラッセルは助演賞の他、退役軍人に希望と勇気を与えたという理由で名誉賞も受賞しています。

1989年、アメリカ議会図書館が、国立フィルム登録簿に登録しました。


2.ストーリー

1)プロローグ

1945年8月に第二次世界大戦終結し、オハイオ州シンシナティ近郊のブーンシティ出身のアル・スティーブンソン(フレドリック・マーチ)、フレッド・デリー(ダナ・アンドリュース)、ホーマー・パリッシュ(ハロルド・ラッセル)の3人の帰還兵がたまたま同じ軍用輸送機に乗り合わせることで初めて知り合い、故郷に帰ってきました。

 

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2)家族との再会

アルとフレッドは、故郷に帰れる安堵の表情を浮かべますが、ホーマーは、戦場の事故で両手を失っていたため、恋人の待つ故郷の様子が気がかりでした。

ホーマーは、家族に温かく迎えられますが、恋人ウィルマ・キャメロン(キャッシー・オドネル)と抱き合いつつ、彼の心境は複雑でした。

家族に再会したホーマーを見送り、アルとフレッドも自宅に向かいます。

帰宅したアルは、妻ミリー(マーナ・ロイ)の美しさ、娘ペギー(テレサ・ライト)や息子ロブ(マイケル・ホール)の成長ぶりを喜びます。

フレッドは、両親(ローマン・ボーネン/グラディス・ジョージ)の元に戻りますが、妻マリー(ヴァージニア・メイヨ)は、家を出て、ナイトクラブで働いていました。


3)受け入れる家族

その後アルは、ミリーとペギーを連れて街に繰り出し、クラブを何軒もハシゴします。

その頃、ホーマーの家で、彼の今後などを話し合っていた両家の家族は、体のことを意識し過ぎる態度で彼に接してしまいます。

家族の過剰な反応に、ホーマーは、その場に居づらくなり席を外して外出しました。

そしてホーマーは、叔父のブッチ・エングル(ホギー・カーマイケル)の店でフレッドと出くわします。

そこにアルの一家も現れ、再会を喜んだ3人は、アルの家族を含めて楽しい夜を過ごしました。

ブッチは、塞ぎこむホーマーに気づき、受け入れる体制が出来ていない家族の心情を理解するように言って励ますのでした。

アルは酔いつぶれてしまい、フレッドもまた、マリーのアパートの前で意識を失ってしまいます。

仕方なく、ミリーとペギーはフレッドを連れ帰り、自宅に泊めることにしました。

夜中に戦闘の夢でうなされる”心的外傷後ストレス障害”と思われるフレッドを気遣い、翌朝、彼をマリーのアパートに送り届けたペギーは、次第にフレッドに惹かれていくのでした。

 

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4)難しい社会復帰

その後、アルは出征前の銀行に、小口融資担当の副頭取として迎えられことになりました。

帰宅したフレッドは、派手さだけで、女性としての魅力のないマリーをペギーと比べてしまいます。

ホーマーは、自分を哀れむ世間の目を気にして、ウィルマの愛情も同情としか捉えられずにいました。

倉庫に居た自分とウィルマを、興味本位に見ていた妹に、辛く当たってしまったホーマーは、ウィルマも突き放してしまいます。

手持ちの金もなくなり職探しもうまくいかないフレッドは、クラブを辞めて、自分を当てにしていたマリーと衝突してしまいます。

結局フレッドは、薄給にも拘らず元のドラッグストアの販売係として働くことになりました。

銀行に復帰したフレッドは、復員兵から融資の依頼を受け、その条件が整わず思案します。

アルは、窓口に現れたホーマーに気づいて声をかけ、彼の明るい振る舞いを見て、復員兵への融資を決めました。


5)ペギーの思い

ある日、フレッドの職場にペギーが顔を出し、彼女を昼食に誘います。

フレッドは別れ際にペギーを抱きしめてキスしてしまい、自分の気持ちを伝えました。

ペギーは、フレッドとマリーを食事に誘い、彼を諦めようとしますが、母ミリーは娘の気持ちを見抜き心配します。

頭取のミルトン(レイ・コリンズ)に食事会に招かれたアルでしたが、アルコール依存症気味の彼を、同行した妻ミリーは心配します。

アルは酔いながらもスピーチを始めて、戦争で培った経験を職務で生かすと、昼間、聞かされていたミルトンは困惑しましたが、アルは立派に話をまとめ上げ、ミリーは夫を誇らしく思いミルトンも拍手を贈りました。

フレッド、マリーとでクラブに行ったペギーは、2人が愛し合っていないことを感じ、ペギーはフレッドへの気持ちが逆に増してしまいます。

それを両親に話したペギーでしたが、アルは、ブッチの店でフレッドに会い、彼に娘との交際を諦めさせようとします。

フレッドは潔くアルの指示に従い、その場でペギーに電話をして、現れたホーマーに呼びかけられるものの、何も言わずに店を出て行くのでした。

自宅でフレッドからの電話を受けたペギーは、心の重荷が解けたと、母ミリーに強がりを言うが、心は大きく傷ついてしまいました。


6)義憤そして決断

先日のブッチの店のことが気になったホーマーは、フレッドの職場を訪ねます。

ホーマーはそこに居た客から、彼のような犠牲を払う価値が、参戦した戦争にはなかったと言われます。

ナチや日本とは戦わず、共産主義者と戦うべきだったと尚も言い張る客を、フレッドが追い払おうとするが、ホーマーはその客に言い寄り揉み合いになりました。

それを見ていたフレッドは、客を殴り倒して店を辞めてしまいます。

謝るホーマーにフレッドは、自分が立会人になるから、ウィルマにプロポーズしろと彼を励まします。

その夜、町を出るようにと家族に言われたウィルマは、それをホーマーに伝えますが、彼には引き止める勇気がありませんでした。

ホーマーを諦めきれないウィルマは、彼の寝室に向かい、義手をはずして全てをさらけ出し、生活の困難さを説くホーマーの、パジャマのボタンをかけました。
そして、ウィルマの気持ちを知ったホーマーは、ようやく心の安らぎを得るのでした。

 

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フレッドは、マリーの浮気を知り彼女を見限り、両親に別れを告げて町を出ようと飛行場に向かいました。

フレッドは、飛行場で搭乗する便を待つ間に、戦闘機の解体現場を見て回ります。

解体される、かつて自分が乗っていた爆撃機B-17を見つけたフレッドは、機体の内部に入り思いに耽っているとき、解体業者に声をかけられたフレッドは、そこで運良く仕事をもらい働き始めることになりました。


7)エピローグ

やがて、ホーマーとウィルマの結婚が決まり、自宅で結婚式が行われることになりました。

ホーマーの立会人のフレッドは、アルそしてペギーに再会し近況を報告します。

式は始まり、フレッドは、ホーマーとウィルマの誓いの言葉を聞きながら、ペギーと見つめ合い心を決めます。

そして、フレッドはペギーに歩み寄り、彼女に結婚することを約束して抱き合うのでした。

 

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3.四方山話

1)真実味

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ウィリアム・ワイラー監督は映画の中に真実味を求めました。製作のサミュエル・ゴールドウィンが「実に自然な演技をこなす」ハロルド・ラッセルを演技教室に通わせようとしたことに強く反対しました。

映画評論家の故淀川長治は「本当は最悪の年なんですね。この3家庭を通して、アメリカを見事に見せたんです。うまいんですねぇ。ことに、ハロルド・ラッセルがいいんです。ラッセルは、これでアカデミー賞助演男優賞と特別賞を獲ったんですけど、素人なんですね」と書いています。

また、多くの復員兵を製作スタッフとして雇い入れ、音響係や小道具、グリップ(アメリカ映画での撮影スタイルで働くスタッフの呼び名)など様々な役割を担当させています。


2)航空機の墓場

フレッドが残骸となったB17爆撃機に座っているシーンでは、戦闘任務を思い出す彼の主観的状態をシミュレートする「ズームレンズ」効果が使用されました。

このカリフォルニア州オンタリオにある「航空機の墓場」はワイラーが撮影準備の段階で見つけて脚本を担当するシャーウッドに話し、シャーウッドが素晴らしいシーンが出来ると気付いてロケ地に選ばれたものであり、大戦末期に作られて実戦に間に合わなかった戦闘機の残骸が並んでいました。


3)名シーン

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フレッドがブッチのバーへ呼び出されたアルからペギーと付き合うのを止めてくれと言われ、そう言うと約束してペギーに電話を掛けに電話ボックスへ向かうシーンで、フレッドが出て行った後、バーに入って来たホーマーとブッチが『チョップスティックス』を連弾します。

ここで撮影のグレッグ・トーランドはディープフォーカスを使用して画面の左上にフレッドを、右下にピアノを連弾する2人との3人を見せています。

こうしてアルに焦点を合わせながらも、画面のアルと同じように遠くの姿を見ているだけでフレッドがペギーに電話を掛けているのだと観客にも分かるようにしました。

本作の名シーンの一つに違いありません。


4)MPPDAの勧告無視

かつてアメリカ合衆国の映画界で導入されていた自主規制条項の「ヘイズ・コード」に基づき審査を行ったアメリカ映画製作配給業者協会(MPPDA)はアルがゲップをするシーンやペギーの「結婚を壊してやる」という発言、ミリーとアルの情熱的なキスのシーンなどはけしからんから削れとの要求を続けましたが、ゴールドウィンが一切変更しないと譲らなかったために最終的にこの異議を引っ込めてしまいました。


5)上映時間

通常の映画の2倍の長さ(上映時間   172分)になってしまったため、試写会のたびに誰からも犠牲に出来そうなカットが指摘されました。上演回数が普通の半分に減ってしまうというデメリットがありながら、ゴールドウィンは長いまま本作を公開することを決断しました。

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4.まとめ

ニューヨーク・タイムズ」紙のボズレー・クラウザーは、

「最上級のエンターテインメントのみならず、心の安らぎと人間らしい考え方の礎として全面的かつ積極的に認めることの出来る」数少ない映画であり、人々が映画に設定した「最も美しく感動的な人間の不屈の精神の実証」の基準を見事にクリアし、「アンサンブル・キャストはこの今年一番のハリウッド映画に最高の演技をもたらした」

と書いて絶賛しています。