映画『グリーンブック』とんでもない凸凹コンビのハートフル・コメディ・ドラマです?!
この映画『グリーンブック(Green Book)』は、2018年のアメリカ合衆国のヒューマン伝記映画です。
目次
1.紹介
クラシック及びジャズピアニストであるジャマイカ系アメリカ人のドン"ドクター"シャーリーと、シャーリーの運転手兼ボディガードを務めたイタリア系アメリカ人の警備員トニー・ヴァレロンガによって1962年に実際に行われたアメリカ最南部を回るコンサートツアーに触発された作品です。
製作、脚本を兼ねたピーター・ファレリーの監督作品で、主人公トニー・リップの息子であるニック・ヴァレロンガが製作と脚本を担当し、主人公の知人であるギャング役も演じています。
第91回アカデミー賞では、作品賞、助演男優賞マハーシャラ・アリ、脚本賞を受賞し、主演男優賞にヴィゴ・モーテンセン、編集賞にノミネートされました。
2.ストーリー
1)プロローグ
1962年のアメリカで、トニー・“リップ”・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)は、ニューヨークのナイトクラブで用心棒として働いています。しかし、ナイトクラブは改装工事をすることになり、トニーは短期間ながら失業してしまいました。
トニーは知人からドクター・ドナルド・シャーリー(マハーシャラ・アリ)が運転手を探していることを聞き、面接に行きます。カーネギーホールの上階にある部屋に通されたトニーの前に、シャーリーが現れました。
ドクターを医者と勘違いしていたトニーは黒人であるシャーリーを見て驚きます。シャーリーは自分がピアニストで2ヶ月間に渡り南部にツアーに行くので、世話役になれる運転手を探していると説明します。しかし、トニーは召し使いをする気はないと言って仕事を断りました。
2)出発
トニーとドロレス(リンダ・カーデリーニ)が自宅で寝ているところに、シャーリーからの電話が鳴ります。トニーが長期間不在となることについてドロレスの了解を得たシャーリーは、トニーの求める条件で雇うことを申し出ました。
レコード会社の担当者がトニーに車を届けて、南部で黒人が泊まれるホテルを記したガイドブック「グリーンブック」を手渡します。
ドロレスは、料金の高い長距離電話をする代わりに手紙を書くようトニーに言います。トニーはシャーリーを迎えに行き、シャーリーの演奏仲間と共に南部へのツアーに出発しました。
3)こだわり
車中でシャーリーは、ツアー先に着いたらピアノがスタインウェイであることを必ず確認するようにトニーに指示します。
最初の演奏会でトニーは初めてシャーリーのピアノを聞き、その腕前に驚愕しました。その夜、トニーは約束通りドロレスに手紙を書き、シャーリーの演奏が素晴らしかったことや、食べた食事のことなどを説明するのでした。
大学にある演奏会場に着いたトニーは、ピアノがゴミだらけで、しかもスタインウェイでないことに気付きます。トニーは担当者に詰め寄り、ピアノを交換させました。演奏会は大盛況で、トニーも満足するのでした。
南下していくに連れ、2人は黒人に対する差別を目の当たりにすることになります。南部では黒人が泊まれないホテルが多く、シャーリーだけが安モーテルに泊まらされてしまいます。更に、1人でバーに行って白人に絡まれてしまいますが、そこに駆けつけたトニーに助けられるのでした。
豪華な邸宅での演奏会で、トイレに行こうとしたシャーリーは家主から屋外の黒人用トイレを案内されます。シャーリーはそれを拒否し、宿のトイレを使いに戻りました。侮辱的な待遇を受けながらもツアーを続けるシャーリーの気持ちがトニーには不思議でならないのでした。
4)ふれあい
道中、トニーとシャーリーは徐々に打ち解けていき、2人の間に絆が生まれ始めます。
ある時シャーリーは、疎遠になった兄弟がいることや、かつて結婚していたことなどをトニーに打ち明けます。また、シャーリーが同性愛者であることや、母からピアノを習い、本当はクラシック音楽をやりたかったことなどをトニーは知るのでした。
シャーリーはトニーに愛と情感の籠もった手紙の書き方を指南していきます。それを受け取ったドロレスは感激し、親族らにも読んで聞かせるのでした。
大雨の中をトニーが運転していると、途中で警察に止められてしまいます。警官に中傷されたトニーは思わず相手を殴ってしまい、2人は留置所に収監されました。
シャーリーはトニーに対し、暴力ではなく威厳を保って物事に対処することが大事だと説きます。そして、司法長官に電話して留置所から出られるように力添えをしてもらいました。
その後、車内でトニーとシャーリーは口論になってしまいます。トニーは貧しい自分の方がより黒人に共感ができると主張しますが、シャーリーは逆に、黒人としても白人としても扱われず孤独に苦しんでいることを吐露するのでした。
5)帰還
2人は最後の演奏会場に着きますが、そこで用意されていたのは物置に机を置いただけの楽屋でした。しかも、黒人は入れないとの規則を盾にレストランでの夕食を拒否されてしまいます。怒った2人はここでの演奏を中止し、車で去ってしまいました。
途中で、2人は食事のために黒人のバーに立ち寄ります。シャーリーはそこでピアノを演奏し、大いに盛り上がります。
バーを出た2人は、トニーがクリスマスを家族と共に過ごすためにニューヨークを目指します。雪が降る道中で2人は再び警察に止められてしまいました。しかし、警官はタイヤのパンクを知らせてくれただけでした。
2人は、北部に戻ってきたことを実感するのでした。
トニーは運転を続けるが、遂に眠気に負けてしまいます。シャーリーが運転を代わり、トニーを家まで送り届けました。
トニーが家族に温かく迎えられた一方、豪華な装飾に満ちた自宅に戻ったシャーリーは、自らの孤独をかみ締めるような表情を浮かべるのでした。
6)エピローグ
トニーの家の呼び鈴が鳴り、トニーがドアを開けるとそこにはシャーリーが立っていました。
トニーはシャーリーを招き入れ、家族に紹介します。ドロレスは夫に手紙の書き方を指導してくれたことを感謝し、皆でクリスマスを祝いました。
シャーリーは、演奏と作曲、そしてレコード録音を続けます。イゴーリ・ストラビンスキーは、”彼の妙技は神の領域だ”と称しました。
トニーは、”コパカバーナ”に戻り支配人になりました。
トニーとシャーリーの友情は生涯続き、2人は、2013年に数か月の差で世を去りました。
3.四方山話
1)タイトルと意味
タイトルは、ヴィクター・H・グリーンによって書かれたアフリカ系アメリカ人旅行者のための20世紀半ばのガイドブック「黒人ドライバーのためのグリーン・ブック」にちなんで付けられています。
当時は非白人に対しての公然たる、またしばしば法的な規定による差別的措置が広範に行われた時期で、激しい人種差別と黒人全体の貧困のため、黒人による自動車所有は限られていましたが、新しく黒人中産階級が勃興し自動車を所有するようになっていきました。
グリーンはそのような状況をふまえて『グリーン・ブック』の扱う地域を創刊当初のニューヨーク周辺から北米の大部分まで拡大し、また旅行代理店を創設しました。
多くの黒人が自動車を頼みとするようになりましたが、その理由の一部には黒人が公共輸送機関から隔離されていたことがありました。
作家ジョージ・スカイラーは「そうすること[自動車の購入]が可能なすべての黒人は、入手できるようになるや否や自動車を購入し、不愉快・差別・隔離・侮辱から自由になろうとした」と1930年に述懐しています。
本作のように、スポーツ選手、芸能人、セールスマンとして働いていた黒人も仕事のため頻りに長距離を移動しましたが、黒人長距離移動者はさまざまな危険や不自由に直面します。
給油を拒否される白人の経営するガソリンスタンドであったり、同様に自動車整備工場で整備や修理を断られたり、旅宿では宿泊や食事の提供を拒まれたりといったことの他、物理的暴力や有色人種お断りの「サンダウン・タウン」からの強制排除を受けたりもしました。
グリーンはこのような問題に対処するため、「黒人旅行者に対して、みすみす苦難と当惑に向かっていってしまうことを防ぎ、旅を快適なものとするための情報を与える」リソースを編纂し、『グリーン・ブック』を創刊したのです。
2)批判
アカデミー作品賞も獲得し、おおむね好評価を受けた作品なのですが、主人公が”白人の救世主”として誇張され過ぎて描かれていることなどを問題にする声も多く上がり、また、家族と疎遠になり疎外された人物としてドン・シャーリーが描かれていることで、遺族からの抗議も受けました。
3)音楽
映画のサウンドトラックのために、ファレリーは作曲家であるクリス・バワーズのオリジナル楽曲と、シャーリー自身の楽曲を組み入れました。
クリス・バワーズは、アリに基本的なピアノ技能を指導し、演奏する手のクローズアップが要求されるシーンでは、アリの代役としてピアノを演奏しています。
4.まとめ
ロードムービー、バディもの、喜劇、音楽といった王道のジャンルと素材に、人種問題やLGBTという社会派の味も加わり、しかもそれぞれの要素が邪魔しあうことなく、絶妙なハーモニーで口当たりの良い逸品料理に仕上がっていました。