この映画『グラディエーター(Gladiator)』は、監督リドリー・スコット、主演はラッセル・クロウで、2000年に公開されたアメリカ合衆国の歴史映画です。
目次
1.紹介
1)概要
帝政ローマ時代中期を舞台に、ラッセル・クロウ扮するローマ軍将軍マキシマス・デシマス・メレディウスは皇帝アウレリウスと皇太子コモドゥスの確執に巻き込まれて家族を失い、自らも奴隷に身分を落とします。マキシマスはコモドゥスへの復讐を誓い、ローマ文化の象徴の一つである剣闘士(グラディエーター)として名を上げていき、決戦の時を迎えました。
2)制作
制作会社はドリームワークスで、監督は『エイリアン』・『ブレードランナー』などを製作したリドリー・スコット、音楽は『ライオン・キング 』・『クリムゾン・タイド』のハンス・ジマーです。
3)キャスト
主要キャストはラッセル・クロウ、ホアキン・フェニックス、コニー・ニールセン、これが遺作となったオリヴァー・リード、ジャイモン・フンスー、デレク・ジャコビ、リチャード・ハリス、と名優がなお連ね、ラッセル・クロウは本作でアカデミー主演男優賞を受賞しました。
4)評価
優れた映像美やストーリーから大きな商業的成功を収め、批評家からも高い評価を得て、第73回アカデミー賞作品賞並びに第58回ゴールデングローブ賞ドラマ部門作品賞を受賞する名誉を受けました。
映画が公開されてすぐに著名な映画レビューのウェブサイト「Rotten Tomatoes」で76%(186名中142名)の批評家が本作に肯定的な評価を下し、また平均点は10点満点で7.2点となりました。
CNNは冒頭の戦闘場面を「最高の名場面」と賞賛し、『エンターテインメント・ウィークリー』はラッセル・クロウの情熱的な演技はマキシマスを「映画世界の英雄」の一人に押し上げ、同作全体も素晴らしい復讐物の映画に仕上がっていると評しました。
一方で、しばしば通俗的な評価と異なる評論を展開する事で知られる批評家ロジャー・イーバートはこの映画を強く批判した数少ない一人で、彼は映像面を「汚くてぼやけて見辛い映画」と酷評し、物語についても「喜怒哀楽を表現すれば薄っぺらさを避けられると思ったら大間違いだ」と罵倒しています。
2.ストーリー
1)プロローグ
紀元180年冬、ローマ皇帝・マルクス・アウレリウス(リチャード・ハリス)は、ゲルマニアで激しい戦いを続けていました。
そして、マキシマス・デシマス・メリディウス将軍(ラッセル・クロウ)率いるローマ軍は、遂に勝利を手に入れました。
2)陰謀
アウレリウスと兵士がマキシマスを称える中、戦地に呼ばれた息子ルキウス・アウレリウス・コモドゥス・アントニヌス(ホアキン・フェニックス)と姉のアニア・オーレリア・ガレリラ・ルッシラ(コニー・ニールセン)が父の元に到着し、コモドゥスは、後継指名のためにアウレリウスが自分を呼んだものと思い込み、父に歩み寄りました。
元老院議員のガイアス(ジョン・シュラプネル)とファルコ(デヴィッド・スコフィールド)を伴ったコモドゥスは、マキシマスに対し、元老院を意のままに動かすための協力を要請しました。
3)後継者
アウレリウスに呼ばれたマキシマスは、戦いの意味や故郷スペインのトルヒーリョについて聞かれます。
持病が悪化し、死期を悟ったアウレリウスは、 自身や兵から絶大な信頼を得ているマキシマスに、暫定的とした上で全権限を与えようとします。
マキシマスはそれを断りますが、アウレリウスの説得で返事を保留しました。
かつてマキシマスに心を寄せたルッシラは、思い悩む彼の心を読みました。
そしてアウレリウスは、息子のコモドゥスに帝国を託す事を断念します。
コモドゥスは、父アウレリウスがマキシマスを後継にすると告げられ、父を病死に見せかけて殺害してしまいました。
しかし、自らを皇位敬称者と宣言するコモドゥスの企みは、マキシマスには見破られていたのでした。
4)処刑
既に、マキシマスの腹心クイントゥス(トーマス・アラナ)はコモドゥスに忠誠を誓い、マキシマスを拘束して処刑する命令を出しました。
処刑場で、マキシマスは兵士を倒し負傷しながらも逃亡し、コモドゥスが処刑命令を出した家族の元へ急ぎましたが、マキシマスが故郷にたどり着いた時には、妻子は虐殺されていました。
絶望したマキシマスは妻子を埋葬するが、意識を失っている間に、奴隷商人(オミッド・ジャリリ)に連れ去られました。
5)奴隷
ローマ属州、ズッカバール(現アルジェリア北西部)で、マキシマスは、その後奴隷商人のプロキシモ(オリヴァー・リード)に、剣闘士”グラディエーター”奴隷として買取られらました。
家族を失い、闘いや生きる意欲もなくなったマキシマスは、ローマに裏切られ、市民の証”SPQR”の腕の刺青を消しました。
しかしながら、マキシマスは、アフリカ人ジュバ(ジャイモン・フンスゥ)やゲルマン人ハーゲン(ラルフ・モーラー)らと共に剣闘士として闘う以外、生きる道はなかったのでした。
6)新皇帝
一方、ローマに新皇帝として凱旋したコモドゥスは、市民の信頼を得られず、元老院議員のグラックス(デレク・ジャコビ)に、民を理解していると言う理由を追求されてしまいます。
そこでコモドゥスは、市民を喜ばすために、禁止されていたコロッセオの剣闘試合を復活させることにしました。
その頃、マキシマスは、”Spaniard”(スペイン人)と呼ばれ、無敵を誇る剣闘士として名を知られるようになっていました。
そしてマキシマスは、名を上げれば、ローマで皇帝(コモドゥス)に接近して復讐できる可能性を知るのでした。
7)コロッセオ
名のある剣闘士であったプロキシモが、先帝アウレリウスから自由の身を与えられたと聞いたマキシマスは、 彼の指示に従うことを決め、観客を驚かせるための闘いを見せることを約束します。
その後、コロッセオの復活を知ったプロキシモは、 元剣闘士の血が騒ぎ、マキシマスらを連れてローマへと向かいます。
ローマに到着したマキシマスらは、今まで闘った闘技場とは比較にならない、巨大なコロッセオに圧倒されました。
マキシマスらは、民衆の心を掴めというプロキシモの言葉に、闘志を奮い立たせるのでした。
8)グラディエーター
父アウレリウスの言葉通り、弟コモドゥスの監視役として傍に付き添うルッシラに、孤立しているコモドゥスは姉弟以上の関係を迫ります。
ルッシラの息子ルシアス・ウェルス(スペンサー・トリート・クラーク)に、声をかけられたマキシマスは、自分の正体が知られないかと警戒します。
遂にコロッセオに姿を現したマキシマスらは、コモドゥス、ルッシラそしてルシアスらが見守る中、”ポエニ戦争”を再現して剣闘士達を殺すという見世物に登場させられるのでした。
しかし、マキシマスは、軍隊式の統制が取れた戦法で闘いに挑み、それを仕組んだローマ側の鼻を明かし、敵を打ち破り民衆に喝采を浴びました。
9)アウレリウス帝の臣下
そして、”スペイン人”(マキシマス)に興味を示したコモドゥスは、彼と対面することになりました。
コモドゥスに名を名乗るよう命ぜられたマキシマスは、マスクのまま”グラディエーター” と答え、皇帝に背を向けて立ち去ろうとします。
侮辱されたコモドゥスは再び名乗るよう命じ、マキシマスは、真の皇帝”マルクス・アウレリウス”の臣下、”マキシマス・デシマス・メリディウス”、 現世と来世で妻子の仇を討つと答えるのでした。
兵士がマキシマスらを取り囲み、民衆の”殺すな”という声に、コモドゥスは親指を立てて、マキシマスを生かす指示を出すさざるを得ませんでした。
そして、民衆や剣闘士までもがマキシマスを称え、コロッセオは熱狂に包まれるのでした。
10)謀議
その後、マキシマスの元に現れたルッシラは、彼の妻子の死を知らなかったことを告げ、帝位継承権のある息子ルシアスの身を案じ、恐怖に怯える毎日を送っていることをマキシマスに伝えました。
さらに、民衆を操れないコモドゥスより、民衆の心を掴み、皇帝に挑むマキシマスの力を信じたルッシラは、元老院議員の中にも協力者はいることを彼に告げました。
しかし、マキシマスは、自分はコモドゥスにより殺されたと言って、自分に尽くそうとするルッシラを突き放してしまいます。
心沈むマキシマスは、自分の名声をコモドゥスが恐れているとジュバに助言され励まされたりもするのでした。
11)民衆の支持
コモドゥスは、マキシマスを暗殺する訳にもゆかず、引退していた伝説の剣闘士、ガリアのティグリス(スヴェン=オリ・トールセン)を彼と闘わせました。
地下からはトラが放たれ、さすがのマキシマスも苦しめられますが、ティグリスは力尽き、コモドゥスは息の根を止めるようマキシマスに指示を出します。
しかしながら、マキシマスはそれを拒み、民衆は再びマキシマスの慈悲深さを称えてしまうのでした。
再びコモドゥスと対面したマキシマスでしたが、挑発に乗ることなくその場を立ち去ります。
完全に民衆の心を捉えているマキシマスの姿を見た元老院議員のグラックスは、ルッシラへの協力を決めるのでした。
12)再会
コロッセオに来ていた、かつてのマキシマスの従者キケロ(トミー・フラナガン)は、オスティアに軍が終結していることをマキシマスに伝え、彼は自分が健在だということを軍に知らせるよう告げました。
そして、キケロは、マキシマスが戦地で想い祈っていた、妻子に見立てた人形を彼に渡しました。
ジュバは、それで家族と話せるのかとマキシマスに尋ね、彼は話せることを伝え心の安らぎを得るのでした。
13)密談
元老院議員ファルコは、動揺するコモドゥスに民衆を刺激しないマキシマスの暗殺方法を提案します。
一方、マキシマスは、キケロをルッシラに接触させ、グラックスに会い、自分を軍の集結場所のオスティアに逃がすよう要望します。
グラックスは、100年もの間、ローマに軍が入ったことがないことを指摘しますが、クーデター後に軍を元老院に委ね、全ローマを民衆に返すという、アウレリウスの意志を実行することを、マキシマスはグラックスに伝えるのでした。
そして、グラックスはマキシマスを信じ、彼を逃がすことを約束します。
マキシマスは、プロキシモにも協力を要請するのだが、彼はコモドゥスを殺すことが、商売人である自分には損になると言いました。
しかしマキシマスは、プロキシモを自由の身にした、恩人であるアウレリウスを、コモドゥスが殺したことを伝えました。
14)潰された企て
コモドゥスは陰謀に気づき、グラックスを捕らえてルッシラに探りを入れました。
ルッシラは、グラックスが捕らえられたことをマキシマスに伝え、彼への愛を告げて逃亡を即、決行しようとします。
ルッシラの裏切りをも察したコモドゥスは、身内に暗殺されたとされるクラウディウス帝の物語を例にとり、ルシアスを傍らにルッシラに脅しをかけました。
兵はマキシマスを捕らえる命令を受けるのですが、ジュバらの協力と、プロキシモやハーゲンらが犠牲となり、マキシマスを逃がすことに成功します。
しかし、キケロとの待ち合わせ場所で罠にはまったマキシマスは捕らえられてしまいました。
15)一騎打ち
陰謀を阻止したコモドゥスは、ルッシラに対し、ルシアスの命を奪わぬ代わりに、自分を愛し後継ぎを生むよう強要します。
その後、コロッセオでマキシマスを殺そうとするコモドゥスは、彼を傷つけてから民衆の前に現れ、止めをさ刺そうとしました。
二人の壮絶な闘いは始まり、剣を失ったコモドゥスは、腹心クイントゥスに剣を渡すよう命ずるが彼はそれに従いません。
マキシマスは既に体力の限界に達していたが、コモドゥスが隠し持っていた短剣を抜いたため、渾身の力を込め彼の胸を貫きました。
コモドゥスは息絶え、マキシマスは元腹心のクイントゥスに、囚人とグラックスの解放を約束させ、ローマを理想の姿にする、アウレリウスの意思を継ぐよう言い残します。
そして、マキシマスは、家族の待つ場所に旅立つのでした。
16)エピローグ
マキシマスは、寄り添ったルッシラの前で息を引き取ります。彼女は、マキシマスが命を捧げたことに値するローマを取り戻す決意を表し、そして、ローマの戦士マキシマスを称えるのでした。
ジュバは、自分をアフリカの地に帰らせてくれたマキシマムの形見(妻子の人形)を血にそまったコロッセオに埋め、いつの日か彼と再会する日が来ることを思いつつ、家族の待つ故郷に戻るのでした。
3.四方山話
1)本作の史実との相違
①後継者
本作では、コモドゥスが自分を皇帝にしてくれないのでアウレリウス帝を殺害したことになっていますが、そのような事実はなく、それどころかアウレリウス帝は自分が生きていた時からコモドゥスを共同統治者として帝位に据えています。
なので帝位継承問題すらそもそも起きていません。この部分に関しては実は当時からそういう噂が流れていたし後世の人物がそうであるべしと思っていた部分でもあって、名君たるアウレリウス帝があんな暴君を後継者にしたという事実を受け入れたくないがためにこのような創作になってしまった部分があるのでしょう。
だが実際には、本作中でもアウレリウス帝に吐露させていますが、帝が甘やかしすぎたのでコモドゥスはあんなになってしまったのであって、しかも史実のコモドゥスは映画のよりも酷くかったようです。
②実は、
コモドゥスはネロと共にローマの暴君として有名になってしまっていますが、実際には姉であるルッチラの方が酷いようにも言われています。
ローマ一の悪女と言っても過言ではないレベルで、コモドゥスがおかしくなったから暗殺したのではなくて、ルッチラがコンモドゥスを暗殺しようとしたからおかしくなったという方が正しいのでしょう。
アウレリウス帝は哲学者としてはこの上なく優秀でしたが、子育てという面においては失敗したというべきでしょう。
本作では、ルッチラが共和政を守る善玉みたいになっていますが、そのような事実は微塵もありません。
ただ、コモドゥスが姉を慕っていたというのは本当で、自分が信頼している人物が自分を殺そうとしているのを知って暴君化したという説が今は強いみたいです。
もちろん元々そういう性格だったんでしょうが、信頼していた肉親が自分を殺そうとしていたら致し方のないことなのかも知れません。
③虚構
そもそもマクシムスという人物は実在せず、なにせ架空の人物が実在の人物を殺害してしまう訳だから。ここが一番の問題点かも知れません。
それも史実っぽく作ってるのは問題で、やはり学者から結構クレームが来たらしいのです。
歴史の認識は、映画とか小説の影響が大きいから、史実を捻じ曲げてしまうのはさすがにやりすぎかも知れません。
日本の映画では表現できない巨大スペクタクルを実現した大作であるし、完全なるフィクションとしてとらえれば過去に上映された映画の中でもトップクラスに面白く、映画というのは娯楽なんだから肩の力を抜いて楽しめばいいのでしょう。
なお、ローマ皇帝がコロッセウムに立つ訳なんかないように思われるかも知れなませんが、コモドゥス帝は実際に剣闘士として活躍したという記録もあるみたいです。なんと、一番嘘っぽいところが本当とは、です。
2)歴史映画
大筋において史実に基づきつつ、細かい部分において独創的な脚色が加えられた歴史映画という意味で、『グラティエーター』はソード&サンダル路線の継承者といえるでしょう。
その中でも特に共和政期の奴隷反乱を元にした『スパルタカス』と、本作と同時代を元にしている『ローマ帝国の滅亡』の影響が指摘されます。
『ローマ帝国の滅亡』の大筋は暴君コモドゥスが父を暗殺して帝位を奪い、主人公を味方に加えようとししたところ拒否されたことから粛清しますが、生き残っていた主人公と一騎討ちの末に倒れるという内容で、グラディエーターも同じ粗筋を使用しています。
しかしながら、主人公を初めとする主要人物の描写や戦闘シーンの工夫によって、両作品の芸術性は全く異なる方向へと向けられているのです。
リドリー・スコット自身は『ローマ帝国の滅亡』よりもむしろ『スパルタカス』と『ベン・ハー』など、それらはスコットが若い頃に愛好した映画でもあって、古代ローマを舞台にする上で影響を避けられなかったと言及しています。その上で「2000年という人類文明の一つの節目に、人類の歴史に影響を与えた大帝国の分かれ目を描きたいと思えた」ともコメントしています。
4.まとめ
本作は、世界中の映画館で大ヒットを記録し、歴史的に正確かどうかは疑わしいところですが、分かりやすいストーリー、ローマ時代の社会正義をめぐる考察、死へと向かう主人公の死生観など、真面目な問題提起を含んで、高級な娯楽作品となっています。