この映画『バルジ大作戦(Battle of the Bulge)』は、第二次世界大戦末期のバルジの戦いを描いた1966年公開のアメリカ映画です。
監督はケン・アナキン。ヘンリー・フォンダ 、ロバート・ライアン 、ロバート・ショウ、チャールズ・ブロンソン 、テリー・サバラス 、 らが出演しています。
目次
1.背景
1944年12月16日、連合軍の重要な兵站基地であったアントワープ占領を目標として、ドイツ軍の3個軍がアルデンヌ地方においてアメリカ軍に攻撃をかけました。
アメリカ軍はアルデンヌにおいてのドイツ軍の攻撃を予期しなかったため、アルデンヌには実戦経験が皆無か、以前の戦闘で消耗していた師団ばかりが配置されていました。
その上悪天候によって航空支援も受けられず、緒戦では多くの戦線でドイツ軍の突破を許しました。ところがドイツ軍の補給線が伸びて行く一方で、アメリカ軍は増援部隊の到着により防衛線を着々と固めていき、12月25日には最大でもミューズ川手前でドイツ軍の攻勢は阻止され、戦線は「バルジ」(突出部の意)を形成していました。
翌年の1945年になるとアメリカ軍による「バルジ」への反撃が開始され、ドイツ軍の作戦は失敗し、ドイツ軍は貴重な戦力や物資を余計に消耗することとなりました。
アメリカや欧米では、ドイツ軍の突出した戦線「バルジ」にちなんで「バルジの戦い」(Battle of the Bulge)という名称が主に使われます。
ドイツでは作戦の正式名称であった「ラインの守り作戦」(Unternehmen Wacht am Rhein)または西方総軍司令官ゲルト・フォン・ルントシュテット元帥の名前をとって「ルントシュテット攻勢」(Rundstedt Offensive)の名が使われています。
この戦闘におけるアメリカ軍の戦死者・負傷者・行方不明・捕虜は合わせて75,522人、イギリス軍の戦死者は1,408人、ドイツ軍の戦死者・負傷者・行方不明・捕虜は合わせて67,675人にものぼります。
連合軍の方が被害は大きいのですが、この戦いで余力のなくなったドイツの降伏は逆に早まったわけです。
2.ストーリー
1)予感
第二次大戦末期の1944年12月、ドイツ軍の降伏も噂され始めた頃、アメリカ陸軍情報部のカイリー中佐(ヘンリー・フォンダ)は、敵の反撃を警戒して、上空からの偵察に余念がありませんでした。
カイリー中佐は、あるドイツ軍将校と森に潜む敵軍らしき部隊の写真を撮影して司令部に向かいました。
2)命令
写真を撮られたヘスラー大佐(ロバート・ショウ)は、偵察機に怯える運転手の部下コンラート伍長(ハンス・クリスチャン・ブレヒ)を伴い、新たな作戦決行のため司令部に向かいました。
司令部に到着したヘスラー大佐は、コーラー将軍(ヴェルナー・ペータース)から、準備が整った機甲部隊を率いて、反撃作戦の指揮を執ることを命ぜられました。
3)潜入部隊
作戦司令室に案内される途中、へスラーはパラシュート降下で敵陣に潜入する、シューマッハ少佐(タイ・ハーディン)が率いる、アメリカ兵に扮したスパイ部隊の存在を、ディーペル少佐(カール=オットー・アルベルティ)から知らされました。
4)奇襲作戦
司令室でへスラーは、天候悪化をついた50時間以内の奇襲作戦の全容を、コーラー将軍から聞かされます。
そして、作戦に使用されるキング・タイガー(映画ではM47パットン)の旅団を視察したへスラーは、任務を遂行を決意するのでした。
5)連合軍師団司令部
ベルギー、アンブレーブの連合軍師団司令部で、カイリーは、司令官グレイ少将(ロバート・ライアン)に、敵が攻勢に転じる可能性を告げますが、 参謀のプリチャード大佐(ダナ・アンドリュース)はそれを信じません。
アルデンヌでの、戦車とドイツ将校(ヘスラー)の写真をグレイに見せたカイリーは、敵の反撃開始の確証を得るため、捕虜を捕ること命ぜられました。
6)弱体化
ヘスラーの部下コンラートは、旅団を任されて息巻く上官に、かつて指揮した精鋭兵士達が手元にいないことを指摘します。
機甲部隊の若き戦車長達を見て、へスラーはこの大作戦に挑む彼らに未熟さを感じるのでした。
しかし、戦車長らは”パンツァーリート”を合唱し、意気込みを見せる彼らに、へスラーは勝利を確信するのでした。
7)捕虜の様子
その後カイリーは、前線のウォレンスキー少佐(チャールズ・ブロンソン)の部隊に、捕虜を捕らえさせました。
捕らえた捕虜が軽装備の少年兵だったため、それを自分の目で確かめたプリチャードは、ドイツ軍の反撃はありえないと考えました。
しかし、撮影した将校が機甲部隊で戦果をあげたヘスラーだということが分かり、カイリーは、自分の考えが正しい方向を指していることを確信します。
その頃、ヘスラー機甲部隊出撃の前に、シューマッハ率いるスパイ部隊が、パラシュート降下で敵陣に入りました。
8)作戦開始
へスラーの部隊は進撃を開始して、クリスマス・ムードのアメリカ軍に奇襲をかけて撃破していきました。
ウォレンスキーの部隊がそれに気づいて出撃し、カイリーもそれに同行しました。
カイリーは、破壊したタイガーの無線から聞こえるヘスラーの声で、自分の考えが正しかったことを確認しました。
9)初戦
アメリカ軍は、敵戦車の圧倒的破壊力に撤退を余儀なくされました。快進撃を続けるヘスラーでしたが、進行が早すぎるために、地雷の除去が間に合わず、司令車両が爆破されてしまいました。
一方、アメリカ軍師団司令部は大混乱となり、カイリーは、敵の目標はヘスラーの向かう場所だということを、グレイ少将に伝えました。
そして、グレイ少将はヘスラーが必ず通るであろう橋の破壊を命じました。
10)破壊工作
その頃、既にシューマッハのスパイ部隊に前線は撹乱され、さらに、橋を確保して、その後に現れた爆破工作部隊員を殺しました。
現場近くに到着したカイリーは、橋にいたのが、工兵ではなく憲兵だったことを思い出したウォレンスキーの言葉で、その兵士らがドイツ軍のスパイだということに気づき橋に急行しました。
そこで、既にヘスラーは橋を渡ろうとしていましたが、現場に到着したカイリーは、後続のトラックから川に落ちたドラム缶が水に浮いていているのを見て空だということに気づきました。
11)捕虜虐殺
ウォレンスキーの部隊からはぐれてしまったウィーヴァー少尉(ジェームズ・マッカーサー)は、標識の方向が違うことを疑問に思うデュケン軍曹(ジョージ・モンゴメリー)と共に自軍に戻ろうとします。
車が故障したウィーヴァーとデュケンは、その後、捕虜となり、ドイツ軍は彼らを含めたアメリカ兵を銃殺しようとしました。デュケンは死亡しましたが、ウィーヴァーはその場から辛くも逃走しました。
12)戦車兵
戦争を利用して物品売買を商売にしている、戦車隊のガフィー軍曹(テリー・サバラス)は、ドイツ軍の反撃で戦車を失ってしまいます。
ガフィーは、協力者の地元女性ルイーズ(ピア・アンジェリ)に分け前を渡し、商売を諦めました。
13)苦境
グレイ少将は師団司令部を死守する覚悟を決め、参謀のプリチャード大佐は、その場に戻ったカイリーに、自分の見解の誤りを謝罪しました。
重火器と援軍を要請したグレイ少将でしが、その支援もタイガーに阻止されてしまいました。
14)撤退
猛攻を続けるヘスラーでしたが、それでもその進撃状況の遅れを指摘し、コーラー将軍が前線に現れました。
郵便物を見て敵軍の余力を確認したヘスラーは、その士気を打ち砕くためにも、司令本部のあるアンブレーブを叩く重要性を主張し、攻撃の許可を得ました。
支援を断たれ、ヘスラーの部隊が目前に迫ったグレイ少将は、ウォレンスキーの部隊を残し已む無く撤退しました。
15)反攻開始
カイリーは、へスラーの機甲部隊の進撃が早過ぎるため、燃料の補給が間に合わない状況になってきていることを知ります。
新たな司令部を設置したグレイ将軍は、敵の状況を分析し、明らかにガス欠だという結論に達し、反撃命令を出しました。
悪天候のために、敵を見失ったアメリカ軍は攻めあぐみ、再び上空偵察を強行したカイリーは、敵を発見するものの撃墜されて負傷しました。
16)激突
そして、米独双方機甲部隊の大激戦が始まり、グレイ少将は戦況を見守り、敵の燃料を消費させようとします。敵の策略を察したヘスラーは、燃料補給のためアメリカ軍の燃料基地を狙ことになりました。
ヘスラーの動きを知ったグレイ将軍は、燃料基地爆破を命じましたが、既に基地はシューマッハのスパイ部隊の手に落ちていました。
17)逆転
捕虜虐殺を免れたウィーヴァーは、部隊からはぐれた兵士らと合流し、アンブレーブが廃墟と化しルイーズを失ったことで気落ちするガフィーの戦車に出くわします。
そして、その燃料基地にガフィーの戦車が現れ、ウィーヴァーがスパイ部隊の正体を暴き全滅させました。
基地にいたカイリーを助けたウィーヴァーは、燃料を利用してへスラーの部隊を壊滅させました。
18)敗走
そして、ドイツ軍の反撃作戦は失敗に終わり、生き残ったコンラートは武器を捨て、他のドイツ兵と共に祖国へと帰って行くのでした。
3.みどころ
1)キャスティング
豪華スター顔合せも注目の作品で、アメリカ側が主役の内容で進行しつつ、ドイツ軍機甲部隊指揮官へスラー大佐のキャラクターを強烈に描写してバランスをとっています。
2)脇役陣
チャールズ・ブロンソンは最前線の部隊を率いる指揮官、戦争よろず屋のテリー・サバラスの悲哀なども興味深く描かれ、彼の恋人役で、攻撃の犠牲になってしまうピア・アンジェリも、登場場面は少ないが印象に残ります。
3)名脇役
『史上最大の作戦』(1962年)や『レマゲン鉄橋』(1969年)などで、ドイツ軍人を何度も演じたハンス・クリスチャン・ブレヒが、へスラーに愛想を尽かす部下役を好演しています。
4)パンツァーリート
本作での最大の見せ場、というか誰もが感動する場面は、反攻作戦の機甲部隊の若い戦車長達が歌う「パンツァーリート」です。ドイツ軍の行進歌として広く知られるこの曲が、派手な戦闘場面よりも印象に残りました。
元はドイツの歌でしが、戦後フランス軍や他の軍隊でも歌われ、日本でも陸上自衛隊の音楽隊が演奏してます。
4.残念なところ
1)偽物
スペイン陸軍全面協力の多くの戦闘場面は、当時としては迫力あるものの、ドイツのティガーII戦車の役はM47パットン戦車、アメリカのM4シャーマン中戦車の役はM24軽戦車が務め、個々にはかなり小粒であることに間違いはありませんが、これほど大量に画面を埋め尽くすと圧巻ではあります。
ドイツ軍のタイガーⅠやタイガーⅡ(キングタイガー)は現存する個体がわずかですから実物を大量に出すことは当然無理ですが、少しは似せる努力をしてほしかった。
2)雪
場所は12月後半~1月、冬のベルギーの郊外です。雪の中の戦いであったはずが撮影地がスペインであったため、後半は砂漠の様な地形(おそらくスペイン軍の演習地)になってしまっています。
3)捕虜虐殺
この戦いで実際は偶発的に発生した事件である『マルメディの虐殺』が本作では計画的犯行のように描かれています。
4)フィクション
実際の戦史とはかけ離れているフィクションも多くあって、隠居生活を送っていたアイゼンハワー元大統領が公式に抗議声明を出したほどでした。
4.まとめ
史実はともかく、脚本が素晴らしく練れていて見事で、戦争映画の中でも1・2の面白さです。
縦糸にヘンリー・フォンダ演ずるカイリー中佐の物語、横糸にドイツ軍機甲部隊の指揮官ヘスラー大佐など大量の人物の物語を配しながら、3時間を全く飽きさせないで物語を進行させ、それでいてお話に複雑さはなく、大きな軍事作戦の全体像を観るものに見事に伝えてくれます。
さらに、2人の美女を絡ませるシーンを無理やり感無しでそれぞれ登場させるのだから恐れ入ります。まさに、全盛期ハリウッドの脚本力の強力さが解ってきます。
そういう意味で、バルジの戦いの史実は横において、エンターティメントに重きをおいた映画に間違いはありません。