この映画『マトリックス(The Matrix)』は、 ラリーとアンディのウォシャウスキー兄弟の脚本・監督による、1999年のアメリカのSFアクション映画です。『マトリックス』シリーズの第1作目で、続編への展開をすでに暗示しています。
主演は、キアヌ・リーブスで、共演がローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィングとなっています。
目次
1.紹介
既にVFXなどが成熟しつつあった時代に、更なる工夫を凝らした、その上を行く新感覚の映像が驚きと共に話題を呼びました。
芸術的とも言える、ワイヤーアクションやバレットタイムを多用した斬新なアクション映像に加え、既にブレイクしていた人気スター、キアヌ・リーブスの魅力が生かされ、様々な表情を見せながら”救世主”をサポートする、ローレンス・フィッシュバーンの好演も注目で、アクションだけでない、物語に深みも感じさせてくれる味わい深い作品です。
1999年のアカデミー賞では、視覚効果賞、編集賞、音響賞、音響編集賞を受賞しました。
2.ストーリー
1)プロローグ
モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)との電話を盗聴されたトリニティー(キャリー=アン・モス)は、現われた警官を撃退しました。
トリニティーは、エージェント・スミス(ヒューゴ・ウィーヴィング)にも気づかれていることを知り、通りの公衆電話に向うようモーフィアスに指示された彼女は、その場から脱出します。
追跡を逃れ、トリニティーは、ベルの鳴る公衆電話の受話器をとり、大型トラックで突っ込んできたエージェント・スミスの襲撃をかろうじてかわしました。
トリニティーに逃げられたエージェント・スミスは、部下のエージェント・ブラウン(ポール・ゴダード)とエージェント・ジョーンズ(ロバート・テイラー)から、次のターゲットが”ネオ”だと知らされ、既にその準備に入っていることを知らされるのでした。
2)ネオ
コンピュータ・プログラマーのトーマス・A・アンダーソン(キアヌ・リーブス)は、コンピューターのモニター上に、「マトリックスが見ている...白いウサギの後を追え」と表示された文字を確認して不審に思います。
ハッカーでもある通称”ネオ”(アンダーソン)は、プログラムを渡した男チョイ(マーク・グレイ)の連れの女ドゥジュール(エイダ・ニコデモ)の肩の、白いウサギのタトゥーを見て、誘われたクラブに向います。
かつて、その名を知られたハッカーのトリニティーに声をかけられたネオは、彼女が、自分をこの場に誘い出したことに気づきます。
トリニティーは、危険が迫っていることを伝え、ネオの全てを知っていることを知らせるのでした。
マトリックスとは何かという、疑問を追及する毎日を送っていることをトリニティーに指摘されたネオは、自分を捜している者が現われると言われました。
翌朝、世界企業でもあるソフトウェア・メーカーに勤めるネオは遅刻してしまい、上司のラインハート(デヴィッド・アストン)に説教をされてデスクに戻ります。
その後ネオは、送られてきた携帯電話にかかってきたモーフィアスからの連絡で、危険が迫っていることを知らされました。
エージェント・スミスらが現われたことに気づいたネオは、モーフィアスの指示に従いその場を離れ、ある部屋の窓から掃除用のゴンドラに乗り、屋上に行くよう指示されたネオでしたが、結局、エージェント・スミスらに捕らえられてしまいます。
3)選ばれし者
ネオはエージェント・スミスに尋問され、当局が追っている危険人物モーフィアスから、連絡を受けていることを指摘され追及されます。
エージェント・スミスに協力を求められたネオは、それを拒むものの、彼は、体内に探知機を埋め込まれましたが、次の瞬間目が覚めました。
モーフィアスからの電話で、自分の重要さを知られていないことを伝えられたネオは、”選ばれし者”だということを知らされ、向う場所を指示されます。
その後、トリニティー、エイポック(ジュリアン・アラハンガ)、スウィッチ(ベリンダ・マクローリー)らの迎えの車に乗ったネオは、体内の探知機を除去され、彼は、夢でなかったことに気づきました。
ネオは、モーフィアスの元に案内されて、丁重に迎えられます。ネオは、マトリックスが何かを尋ね、それが、どこにでもあるものだということをモーフィアスは説明するのでした。
マトリックスの正体を、自分の目で確かめる方法として、モーフィアスは、元の世界に戻るか、奥底を探求するかを、2つのピルを差し出してネオに選択させます。
その後を探るという赤いピルを選んだネオはそれを飲み、サイファー(ジョー・パントリアーノ)らが待ち構える場所に案内され、追跡プログラムをセッティングされました。
4)マトリックス
夢か現実かが、区別できない世界に導かれたネオは、モーフィアスらが待つ現実の世界に向い、様々な処置をされ、そこが2199年頃だと知らされます。
モーフィアスの船”ネブカドネザル”のメインデッキに案内されたネオは、トリニティーの他、エイポック、スウィッチ、タンク(マーカス・チョン)、その兄ドーザー(アンソニー・レイ・パーカー)、マウス(マット・ドーラン)らメンバーを紹介されました。
仮想空間のプログラム内部に向ったネオは、20世紀末の、夢の世界とも言える空間に住んでいたという説明をモーフィアスから受けます。
闇の世界が現実だと言われ、それを見せられたネオは、人類が、人工知能を開発し、機械により人が栽培されるようになったということも知りました。
マトリックス、すなわち”支配”は、コンピューターが生み出す夢の世界...、それを信じないネオは現実に戻り、取り乱した彼は気を失ってしまいました。
意識が戻り苦悩するネオに、モーフィアスは、捜し求めていた男の重責を彼に伝えます。
オペレーターのタンクに励まされ、モーフィアスが言っていた訓練を始めたネオは、”戦闘プログラム”を体験します。
それを習得したネオは、モーフィアスを相手に、その成果を見せることになり、重力などを操作できるプログラム内でそれを試しました。
全ての雑念を捨て、心を解き放つよう指示されたネオは、高層ビルの屋上を飛び移るプログラムで落下してしまいます。
システムとリンクし、どのソフトにも自由に入り込める監視プログラム”エージェント”の存在と、彼らを倒す使命があることを、ネオはモーフィアスから知らされるのでした。
敵のマシン、スクイーティーの脅威を察知したモーフィアスらは、船で下水内に向かい、兵器EMP(電磁パルス)の発射準備をして対抗しようとしますが、攻撃は免れました。
その後ネオは、サイファーに、使命を受けた身でどう対処するのかを聞かれましたが、サイファーはエージェント・スミスと取引して、人類の最後の避難場所”ザイオン”のホスト・コンピューターへのアクセス・コードを知っているモーフィアスを捕らえるために手を貸すことになるのでした。
5)救世主
やがて、モーフィアスがネオを、オラクル/預言者(グロリア・フォスター)の元に案内する日がやってきます。オラクルに会ったネオは、自分が救世主ではないと感じていることを彼女に察知されました。
しかしオラクルは、モーフィアスが、ネオを救世主だと信じている事実は誰にも変えられないことを伝え、決めるのは自分自身だと告げられるのでした。
待ち構えていたモーフィアスは、オラクルに言われたことを問うことなく、ネオと共にその場を去ります。
戻った一行でしたが、ネオが、マトリックスの異常を示す”デジャヴ”を見たため、モーフィアスらは警戒します。マウスが殺され、タンクに出口を探らせたモーフィアスは、現われたエージェント・スミスに襲い掛かり、その間にネオらを逃がそうとしました。
エージェント・スミスに叩きのめされたモーフィアスは捕らえられ、最初に戻ったサイファーは、タンクを傷つけドーザーを殺しました。
トリニティーに連絡を取ったサイファーは、モーフィアスへの不満をぶつけ、エイポックとスウィッチのプラグを抜き殺してしまいます。
ネオのプラグも抜こうとするサイファーだったが、一命を取り留めていたタンクが彼を殺し、トリニティーとネオを戻しました。
モーフィアスは、エージェント・スミスらに自白剤を投与されますが、その頃、タンクは、アクセス・コードを知られないためには、モーフィアスのプラグを抜き死なすしかないことをトリニティーとネオに伝えるのでした。
ネオはそれを制止し、自分が救世主ではなかったことをトリニティーとタンクに伝え、マトリックスに戻り、自分を信じるモーフィアスの考えが正しいことを、ネオは証明しようとします。
モーフィアスを、必ず助け出せることを確信したネオは、トリニティーと共にマトリックスに戻りました。
6)奪還
ネオは、タンクに大量の武器を用意させて、軍の管理するビルに入り、激しい銃撃戦を繰り広げながら敵を次々と倒していきます。
二人の存在を知ったエージェント・スミスは、エージェント・ブラウンとエージェント・ジョーンズに、彼らの抹殺を命じます。
現われたエージェント・ジョーンズの銃弾がネオをかすめますが、トリニティーがジョーンズを銃撃します。
トリニティーは、ネオがエージェント並みの動きができることに驚き、ヘリコプターの操縦プログラムをロードされ、2人は、モーフィアスの囚われている部屋を攻撃します。
ネオはモーフィアスの脱出を助け、ヘリに吊るされながら他のビルに移ります。損傷を受けて、ビルに激突したヘリからトリニティーが脱出し、ネオが彼女を救い、それを見たタンクは救世主の出現を確信しました。
オラクルの言葉を、モーフィアスに伝えようとしたネオでしたが、信じる道を歩むことを理解できればいいと言葉を返されました。
タンクは、地下鉄のホームが出口だとモーフィアスに伝え、彼は、かかってきた電話に出て戻り、その後ネオとトリニティーも続こうとします。
トリニティーは、一つを残して伝えたたいことがあると、ネオに語りながら電話の受話器をとるのだが、そこにエージェント・スミスが現われました。
ネオは戻ろうとせずに、自分の使命を感じてそれを信じ、エージェント・スミスに立ち向かうのでした。
激しい戦いの末、線路に落下したネオは、エージェント・スミスが地下鉄に轢かれた隙に地上に戻ります。
通行人の電話を奪い、タンクの指示を受けたネオでしたが、エージェント・スミスらに追われます。
同じ頃、スクイーティーが船に襲い掛かり内部に侵入しようとしたため、モーフィアスは、EMPの発射準備をしてネオが戻ることを信じるのでした。
7)復活
ネオはエージェント・スミスの銃弾を受けて死亡しますが、トリニティーは、オラクルから、救世主を愛することになると告げられたと、ネオに向って語りかけます。
トリニティーは、自分が愛するネオが死ぬはずがないことを信じて、彼にキスすると、ネオは息を吹き返し、それに気づき銃撃するエージェント・スミスらの弾丸を、目の前で静止させてしまいました。
モーフィアスは、ネオが救世主であることを、改めて確信し、ついに”壁”を破ったネオは、襲い掛かるエージェント・スミスを圧倒して消滅させ、エージェント・ブラウンとエージェント・ジョーンズは、その場から逃げ去りました。
船内はスクイーティーに破壊されそうになるのですが、モーフィアスがEMPで敵を倒します。そして、ネオは、無事に戻り、トリニティーとキスを交わしました。
8)エピローグ
マトリックスから電話をかけたネオは、戦がどう始まるかが問題であり、隠したがっているこの”全てが可能”な世界を人々に見せることを宣言して警告し、電話を切りました。
そしてネオは、上空に飛び立つのでした。
3.四方山話
1)「MATRIX」
「Matrix」はラテン語の「母」を意味するmaterから派生した語で、転じて「母体」「基盤」「基質」「そこから何かを生み出す背景」などの概念を表します。
本作では、コンピュータの作り出した仮想現実を「MATRIX」と呼んでいます。
2)影響
作品はSF作家のウィリアム・ギブスンから香港のアクション映画や日本のアニメまで様々なものに影響を受けた上で、特にジャン・ボードリヤールの哲学を基調としたとウォシャウスキー兄弟は語っています。
ギブスンはマトリックスを「間違いなく究極のサイバーパンク芸術品」と絶賛しています。「MATRIX」という言葉自体はギブスンのニューロマンサーにも見られ、ボードリヤールの著書『シミュラークルとシミュレーション』の中にも掲げられており、これが出所となったという見方もあります。
3)時間配分
全体の約4分の3にあたる部分でを世界観の説明と物語のセットアップに使い、ネオとトリニティが捕らわれたモーフィアスを救うラスト30分にアクションシーンを集中させています。この30分の中に『マトリックス』といえばあのシーンと思いつく名場面が凝縮されていて、ケレン味満載の銃撃戦やワイヤーワークを駆使した格闘、ヘリコプターを使った大アクションが続きます。
4)映像
銃弾が飛びかうなかで、カメラが被写体のまわりをスローモーションでぐるっとまわる「バレットタイム(マシンガン撮影)」は、本作で発明されたSFXです。120台のスチルカメラと2台の撮影用カメラを用いたアナログな手法で撮影されています。
1999年の公開直後はCMなど、あらゆる映像分野で「マトリックス」風の映像が氾濫しました。それぐらいキャッチーでフレッシュな映像表現でした。
4.まとめ
およそ四半世紀も前にこの脚本を考え、映像化した監督は天才です。今観ても凄く斬新で、ハリウッドのCG技術に、香港のカンフーアクション、哲学的な話も散りばめられていて飽きる事がありません。マトリックスと現実世界の行き来が固定電話というのも、レトロでそそられる要素でもあります。