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映画『激突!』このスピルバーグ作品の凄いところ?!

今の日本なら「恐怖!あおり運転!!」とでもタイトルされそうな映画です。

 

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この映画の原題のデュエル(duel)とは、ラテン語の「duo」が語源になった言葉で、これは「二人」を意味します。デュオは現在のイタリア語でも2人、もしくは二重奏を意味し、日本でも二重奏もしくは二人組歌手などとして使われます。

その2人を意味する「duo」が変化した「duellum」という単語が「デュエル」の直接の語源となっています。これは「2人の戦い、2人の争い、2人が喧嘩」などの意味を持っています。

そして、現在英単語として「duel」と言った場合は、主に男同士の「勝負」「決闘」「果し合い」「生死をかけた勝負」などの意味で使われている単語となります。邦題の『激突!』などより、よほど直接的なタイトルと言えるでしょう。

 

映画『激突』は、リチャード・マシスンの短編小説を原作とし、米国では、もともと1回完結のテレビドラマとして1971年に制作されました。無名時代のスピルバーグ監督が手がけた作品で、この映画の成功によって、スピルバーグの名前は一気に知れ渡りました。日本では1973年に公開されています。

 

ストーリーは、勝負というより、追いつ追われつとなっていますが、ほとんど一方的に主人公のデイヴィッド・マン(デニス・ウィーバー)のクライスラーのプリムス・バリアントが運転手の姿がさだかでない大型トレーラーのピータービルト281に追いかけられます。

最後の最後に大逆転となるわけですが、トレーラーの運転手を靴だけや腕だけ見えて正体を見せないところが、恐怖をあおり、カフェでの客との誤解でトラブルまで招きます。

     

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ごく普通の乗用車に乗る主人公が、大型タンクローリーを強引に追い抜いたのをきっかけに、このタンクローリーに執拗に追い回され、命を狙われるというもので、タンクローリーの運転手の顔をあえて映さず、タンクローリー自体が迫ってくるかのような描写手法が、恐怖感を煽っています。

このやり方は、1975年公開の『ジョーズ』にも応用されたとされ、また、監督のスピルバーグは、あのトレーラーを「怪獣」に見立てて制作したとのことです。

 

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であるから、「犯人は誰か?」には焦点を当てず、その代わりにマン(人間)と殺人トレーラー(怪獣)との対決をどう見せるかに焦点を絞ったわけです。めまぐるしくストーリーを展開して飽きさせない映画もおもしろいものですが、テーマや伝えたいことがわかりづらかったりします。一方で、こういう見せたいトコロに焦点を当てたシンプルさが面白いのですね。

 

従って、この映画は犯人を見つけるサスペンスではなくて、アクションやホラーを楽しむ怪獣映画というわけです。さらに、怖い怪獣だけでなく、狂った人間の恐怖みたいなものも感じます。

今のあおり運転の怖さは、自分でも加害者になってしまうような要素もあるがゆえに尚更怖いので、怪獣には、あそこまで絶妙にイラ立ちと不気味さを感じさせる嫌がらせはできません。

だからこそ、怪獣映画っぽい面白さだけれども、犯人の人物とか心情とかも知りたくなるような、二律背反を感じてしまいます。

 

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ただ、原作では、トレーラーの運転手の名前や容貌も記述されており、映画化において、運転手の犯人からトレーラーの怪獣にすり替えさせています。

 

この辺が、スピルバーグのすごいところで、何をどうすれば観客の心を最大限に揺さぶれるかを知っているように思われます。