凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『ジェシー・ジェームズの暗殺』これこそサスペンス伝記映画です!!

ジェシー・ジェイムズと言えば銀行強盗や列車強盗の先達として名を馳せ、西部開拓時代の熟成と南方戦争の終焉が生み出したモンスターです。

 

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ジェシー・ジェイムズは、古きよき(?)時代をノスタルジアとするアメリカ人の間で、一種のヒーローとして扱われる伝説のギャングです。南北戦争の生き残りの荒くれ男たちの頂点に立ち、銀行強盗や列車強盗など派手な犯罪を繰り返した無法者のリーダーです。

この映画はその荒くれた生涯を、ブラッド・ピットが渾身の演技で描く伝記映画です。


19世紀のアメリカで、南北戦争で負けた南部の人々は、北軍政府の圧政に苦しんでいました。彼らの間では、大犯罪を繰り返す賞金の懸けられた有名な、ジェシー・ジェイムズ(ブラッド・ピット)は英雄でした。

 

兄フランク(サム・シェパード)と最後の計画を練っていたジェシーの前に現れ、自分を売り込むロバート(ボブ)・フォード(ケイシー・アフレック)も、伝説の男に少年の頃より憧れていた若者でしたが、渋るフランクに対し、心の広いジェシーは快くロバートを仲間に迎え入れました。

 

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ケイシー・アフレック演じる気弱な若者ボブと、その憧れの人ブラッド・ピットジェシー、という二人の関係を中心に構成された地味で淡々としたドラマであり、決してジェシーの英雄的活躍を描く痛快な西部犯罪ムービー、というわけではありません。

ちょっとしたアクションもありますが、あくまで見所は英雄的ギャングの苦悩に満ちた生き方と、謎の死に様です。

 

このボブのジェシーに対するの行動は憧れの人とは言え、そのキモさときたらハンパではなく、ジェシーの枕の匂いはかぐわ、風呂は覗くわ、いかにも目に余るものがあります。ボブが、あのすわった眼で、うっとりと、何かそれだけでただならぬものが漂ってきます。

ジェシーがボブの視線に気づいて、「何を考えてる? 俺に憧れてるのか? それとも、俺になりたいのか」と背を向けたまま問いかけました。

裸のジェシーのこの視線に酔っているかのような問いかけがまた、なんとも異様で、挑発的にすら思えてしまいます。

 

そんな話を、B級サイコサスペンスでなく、達者な役者が、がっちり組んで、大真面目な大作伝記映画として成立させてしまうあたり、さすがはハリウッドです。抑えた色彩や雄大なカメラワークは、風格さえ感じさせ、文芸作品を下敷きにしたようなテイストさえ感じられます。

 

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もちろん、ストーキングの対象となったブラッド・ピットの存在が大きく、漂うカリスマ性には、実際のジェシーもかくありなんと思えるほどで、マヌケになりかねない筋書きを重厚なそれへと押し上げるだけの力がありました。

 

もはや演技を超えたとさえ言っていいブラッド・ピットの凄まじいまでの凄みぶりに、全米マスコミの絶賛の声が鳴りやみませんでした。それほどまでにブラッド・ピットを本気にさせた男、それが、合衆国史上もっとも有名なアウトロージェシー・ジェームズです。

 

破格の懸賞金をかけられ、常に追われる身だった彼を最後に仕留めることになったのは、もっとも信頼すべき仲間であるはずなのに、アメリカ一卑怯な男として人々に記憶されることになるその男こそ、誰よりも臆病で、誰よりもジェシーに憧れていた20歳のボブだったのです。

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憧れから殺意に至るあいだに一体何があったのか。ひとりの臆病者が、憧れてやまなかったヒーローの背中に向かって引き金を引くまでのサスペンスを描いた、息詰まる緊迫の心理劇となっています。