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映画『グラン・トリノ』紛れもないイーストウッドの傑作の一本です!!Part2 ネタバレ編

この映画『グラン・トリノ(Gran Torino)』は、監督・プロデューサーおよび主演がクリント・イーストウッドの2008年のアメリカ映画です。

イーストウッドは本作を俳優業最後の仕事と位置づけ、公開時のインタビューにおいて、今後は監督業に専念して俳優業から引退すると明かし、「監督だけをやっていこうと、ここ何年も思ってきた。だが、この“グラン・トリノ”の頑固な元軍人役にはひかれたんだ」と語っています。

目次

 

 

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1.ストーリー

1)プロローグ

アメリカ・デトロイトで愛犬デイリーと共に暮らすウォルト・コワルスキー( クリント・イーストウッド)は妻を亡くしたばかりでした。頑固で偏屈な彼の性格は、そんな妻の葬儀でも変わらずでした。

孫娘アシュリー(ドリーマ・ウォーカー)のへそピアスに露骨に嫌な顔をし、参列者は食い物にありつきに来ただけと罵り、まだ若い神父ヤノヴィッチ(クリストファー・カーリー)に対しては汚い言葉で平気で毒づく始末です。年齢を重ねる度にますますひどくなるウォルトの偏屈さに、息子家族もほとほと嫌気がさしていました。

自動車工として50年勤め上げたフォードを引退して、隠居生活を送っていたウォルトにとっての楽しみといえば、ポーチに座ってビールを飲むことくらい。しかし、ふと隣家に目を移すと、荒れ放題の芝生が目障りで仕方ありませんでした。


2)ラストベルトの中で

近年、この地域に急速に拡大してきたアジア系移民たちが、ウォルトの隣家にまで押し寄せて来たのです。偏見を隠さないウォルトは、彼らの存在が鬱陶しくて仕方ありませんでした。

一方、隣に住むモン族の少年タオ(ビー・ヴァン)は、学校にも仕事に行かず無気力に過ごす毎日です。そんな彼をストリート・ギャンググループの一員である従兄のスパイダー(ドゥア・モーア)が目を付けます。

スパイダーは、隣の家のグラン・トリノを盗んで来いとタオに迫りました。気が弱くて、強く言われると断れない性格の持ち主であるタオは泣く泣く引き受けてしまいます。


3)グラン・トリノ

ウォルトの愛車のフォード社製グラン・トリノは、1972年に自らがステアリングを取り付けたお気に入りのヴィンテージ・カーで、ピカピカに磨き上げ、眺めているだけで幸せな気持ちになれる一台でした。

 

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深夜、ガレージに忍び込んだタオを待ち受けていたのは、ウォルトが向けたライフルの銃口でした。慌てて逃げ出したタオでしたが、外で見張っていたスパイダーたちに捕まってしまいました。しかし、そこへ再びウォルトの銃口が向けられ、すごすごと退散していくスパイダーたちでした。


4)お節介な隣人

あくる朝、タオの家族らがウォルトの下へ訪れます。昨晩タオを救ってくれたお礼にと大量の料理やらお菓子を持ってきたのです。ウォルトにとっては、タオを助けたつもりも全くなかったので迷惑な話でした。ギャングに自宅の庭を踏み荒らされたことに対し行動を起こしただけだったのです。

そんな出来事から数日を経たある日、タオの姉であるスー(アーニー・ハー)が男2人に絡まれているところに偶然遭遇します。彼女を助け、家まで車で送っていくウォルトに、スーの気さくな性格は、ウォルトの心を解きほぐしていくようでした。

 

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ある時、そんなスーから自宅でのパーティーに招待されたウォルトは、戸惑いながらも楽し気な雰囲気にほだされ、自分を疎ましく感じている息子たちと一緒にいるよりは数倍マシだという思いに駆られていました。


5)偏見を超えては

そんな中、ウォルトは自身の命がいくばくもないことを知ることになります。突然吐血してしまったことで病院にかかっていたのでした。病名は、肺がんでした。

数日後、いまだに職にも就いていないタオは母親に連れられて、ウォルトの下を訪れます。先日のお詫びにこの子をこき使って欲しいというのでした。嫌々ながらもウォルトはこの頼みを引き受けます。

タオの働きぶりにウォルト心を動かされ始めるました。タオもまた、ぶっきらぼうですが何故か温もりを感じるウォルトを慕うようになっていきます。


6)許されざる者

その後、ウォルトの紹介で工事現場での仕事に就くこととなったタオは、肉体的にはきつい仕事ながらも充足感を味わう日々を過ごしていました。しかし、それも長くは続きません。再びギャングたちがタオの人生に介入してきました。

 

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ウォルトは彼らにタオに近づくのはやめるよう警告しますが、それに対する答えはタオの家への銃撃と、スーへの暴行でした。


7)身辺整理

久しぶりに床屋にゆきしたことのない髭をそらせて、いつもながらの悪態をつき、洋服屋でスーツを初めて仕立てて、教会でヤノビッチ神父に懺悔を行いました。ヤノビッチ神父は、妙に殊勝なウォルトに嫌な予感と危惧を覚えるのでした。


7)意外な決着

怒りに震えるタオは、報復しようとウォルトをけしかけました。一方のウォルトは、何故かタオを地下室に連れて行って、彼をその中に閉じ込めてしまいます。一人で片を付けようというのです。

愛犬デイリーをタオの母親に託し、ウォルトはギャングたちの下へと向かいました。多勢に無勢の状況であるにもかかわらず、冷静で超然とした態度で佇むウォルトにスパイダーたちは怯みました。

煙草を口にし、ウォルトは胸元からライターを出すぞと宣言します。胸元に入る手。降り注ぐ銃弾の雨。「あぁ…マリア様…」とウォルトはつぶやきながら事切れました。


8)エピローグ

余命を宣告されていたので、ウォルトは遺言を残していました。そして、彼が生前に最も大切にしていたものを贈られたのは、彼の実の息子たちではありませんでした。

彼の魂は、愛車グラン・トリノと愛犬デイリーと共にタオへと受け継がれたのです。

 

 


2.トレビア

1)グラン・トリノとは

タイトルとなったグラン・トリノとはフォードの車種でフォード・トリノのうち、 1972年から1976年に生産されたものを指します。

大型で燃費が悪く、日本車といわば正反対の性格をもった車ですが、そのような印象は、実態がベースにはあるもののたぶんに先入観でにすぎません。また、いわゆる「アメ車」としては大きい部類ではなく、現地では中型に分類されます。

スポーツカーなどのような華々しい話題こそないものの、一定した人気を保った車種のメジャーチェンジ三世代目です。

イーストウッド扮する主人公像と重なり『ダーティハリー3』(1976年)で新米の女性刑事を連れ回した際の車というイーストウッド繋がりでもあります。


2)モン族

中国の雲貴高原、ベトナムラオス、タイの山岳地帯にすむ民族集団ですが、第一次・第二次インドシナ戦争のときに、フランス・アメリカ合衆国に協力し、共産軍が優勢になってからは反体制分子として弾圧されました。

アメリカがベトナム戦争に敗れると、モン族は見捨てられ行き場を失い、彼らの多くはベトナム軍、ラオスの共産勢力、パテート・ラーオの三者による掃討作戦で返り討ちに遭い、女、子供も含めて虐殺されました。

数十万のモン族が政治亡命を求めタイに逃げ、これらの難民数千人が1970年代後半から欧米諸国、主にアメリカ、またオーストラリア、フランス、フランス領ギアナ、カナダ、および南米に移住しています。

本作では、ルーテル教会の紹介でタオ一家はウォルトの隣人となりました。

 

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3.まとめ

イーストウッドの人知を超えた才能は、さくっと撮られた映画の楽しみを観客に手渡しつつ、「男の肖像」をディープに紡ぎ上げてみせています。

映画の軸に「ブルーカラーの気骨と笑い」を据えて、この太い軸が強力で、気骨を示し、笑いのさざ波を広げる技にはさすがに年季が入っています。

民族・家族・宗教・人生などの、多面体を思わせる映画の横顔と、話のサイズには不似合いなほど長い余韻が観る者の胸を打ちます。