凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『グリーン・デスティニー』一振りの名剣を映像美と情念で巡る芸術派武侠アクションです!!

グリーン・デスティニー( 臥虎蔵龍、Crouching Tiger, Hidden Dragon)』は、2000年の中国・香港・台湾・米国の合作作品で、中国人作家王度廬(ワン・ドウルー)が1938-42年にかけて発表した、5部作からなる小説の4作目”Crouching Tiger, Hidden Dragon”を原作として製作されたアクション・ファンタジーです。

目次

 

 


1.概要

1)評価

アメリカ独占資本では実現しなかったであろう、中国語による台詞の優美さや、神秘的な映像がとにかく素晴らしく、北米で約1億2800万ドルの興行収入を上げ、全世界では約2億1400万ドルの大ヒットとなりました。


2)受賞

第73回アカデミー賞では、外国語作品ながら、作品賞以下10部門にノミネートされ、外国語映画賞など4部門で受賞し、世界中で絶賛されたました。
・受賞、外国語映画・美術・撮影・作曲賞
・ノミネート、作品・監督・脚色・主題歌・衣装デザイン・編集賞

 

3)監督アン・リー

台湾出身のアン・リーは、成人してからアメリカに渡り、早くから頭角を現して注目され、アメリカン・コミック・アクションの「ハルク」(2003年)や、「ブロークバック・マウンテン」(2005年)で繊細なテーマを手がけて見事な演出手腕を見せ、 今やハリウッドの第一人者となりました。


4)音楽

アカデミー賞を受賞した、中国作曲家タンドゥンとヨーヨー・マ演奏の主題曲も、哀愁漂う、幻想的なドラマ展開を盛上げています。


5)キャスティング

主人公を演ずるチョウ・ユンファは、伝説の剣士リー・ムーバイを好演し、圧倒的な存在感で物語を引き締めます。

 

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なんといっても、マレーシア出身ながら見事な中国語を話してアクションをこなし、師ムーバイへの許されない愛を内に秘めた、ミシェル・ヨーの清楚な美しさと抑えた演技は秀逸でした。

 

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チャン・ツィイーは、華奢な体系にも拘わらず、名門演劇学校で鍛えた舞踏の才能を生かして、スピードと迫力で圧倒する剣術に加え、斬新なワイヤーアクションも見事にこなしています。

 

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2.ストーリー

1)プロローグ

清朝第6代皇帝乾隆帝支配下の1778年。剣豪リー・ムーバイ(チョウ・ユンファ)は、瞑想修行を切り止めて、名剣「青冥剣」(グリーン・デスティニー)を北京のティエ氏(ラン・シャン)に寄贈するため、弟子であるユイ・シューリェン(ミシェル・ヨー)を訪ねました。

かつてムーバイは、師匠を”碧眼狐”ジャイド・フォックスに毒殺され、その敵を討とうとしていたのでした。

しかし、ムーバイは剣を置く決心をし、シューリェンにグリーン・デスティニーを、預け北京のティエ氏に届けるよう指示しました。

それを亡き師匠に報告するための墓参りに向かいました。


2)災いの芽生え

北京に着いたシューリェンは、グリーン・デスティニーをティエ氏に渡しますが、ティエ氏は、剣は英雄ムーバイこそが持つべきだと言って受け取りを拒みましたが、シューリェンに説得され、彼はそれを預かることにしました。

シューリェンは、ムーバイが剣を置いたことが、彼との結婚を意味するのかとティエ氏に尋ねられるました。しかし、師弟の間では、それが許されぬことを悟るシューリェンは否定するのでした。

シューリェンは、剣を保管しにティエ氏の書斎へ向かい、ユイ長官の娘イェン(チャン・ツィイー)に出会いました。

イェンは、両親のために政略結婚させられることになっていたですが、グリーン・デスティニーを見て、剣士に憧れを抱きました。

シューリェンはそんなイェンに、結婚は女にとって大切なことだと説きました。

イェンの家庭教師カオ(チェン・ペイペイ)は、シューリェンが災いの元であり、警戒するようイェンに伝えるのでした。


3)姉妹の誓い

その夜、ティエ邸のグリーン・デスティニーを賊が奪い逃走しました。シューリェンがそれを追い、賊の手を負傷させるものの、取り逃がしてしまいます。

賊はユイ邸に逃げ去ったため、何者かが長官を陥れる企みかも知れないとティエ氏は考えました。そしてティエ氏は、この件を早急にムーバイに知らせる必要があることをシューリェンに伝えるのでした。

ユイ邸の外では、ジェイド・フォックスの人相書きが配られ、シューリェンは、イェンが犯人ではないかという疑念を抱き、彼女の元を訪れました。

もしイェンが賊であったなら、負傷した手をかばうはずだが、彼女は見事な書道の腕を披露します。

自由な結婚や生活に憧れるイェンに、シューリェンは愛する人がいた過去と、ムーバイとの関係を話して聞かせるのでした。

シューリェンに、一層の親近感を感じたイェンは、彼女に姉になってくれるよう頼み、それを受け入れられ、二人は姉妹の誓いを立てました。


4)現れたジェイド・フォックス

周辺を調べていた、ティエ邸の使用人頭ボー(ガオ・ジアン)は、武器を持ったある男女に目を付け、彼らと接触し、二人が妻の敵を討つために、ジェイド・フォックスを追って来た西域の警官ツァイ(ワン・ターモン)と娘メイ(リーリー)だということを知りました。

そして、ツァイに、ジェイド・フォックスからの果し状が届けられました。

ムーバイがティエ邸に到着し、ジェイド・フォックスがユイ邸に潜んでいる可能性を、シューリェンは彼に伝えました。

その夜、ジェイド・フォックスがツァイ親子とボーの前に現われますが、彼女はイェンの家庭教師カオだったのです。

両者の戦いが始まりますが、警官親子はジェイド・フォックスに歯が立たず、そこにムーバイが現れ、師匠の敵を討とうとしました。

ジェイド・フォックスを追い詰めたムーバイでしたが、そこに、グリーン・デスティニーを振りかざす賊が現れました。

警官は殺され、ジェイド・フォックスと賊は逃げ去ってしまいました。


5)別れと帰還

犯人がユイ邸にいることを確信したティエ氏は、シューリェンをユイ邸に向かわせました。

シューリェンは、イェンの結婚祝いを届けながら、警官が殺されたことや、屋敷に潜むであろう賊が、グリーン・デスティニーを返すことが事態収拾につながることをユイ夫人に伝え、探りを入れてイェンを牽制するしました。

その夜、グリーン・デスティニーをディエ邸に返すために賊が現れました。待ち伏せしたムーバイは、その賊の剣の才能に目を付け、武当派の奥義を伝授することを伝えるが、賊は姿を消してしまいます。

その後、賊(イェン)は、殺人や家族までを巻き込んだジェイド・フォックスを責めて、屋敷から追い出そうとしましが、イェンが自分を超えたことを知ったジェイド・フォックスは、自ら彼女の元を去っていくのでした。

ムーバイはイェンの正体を見抜き、彼女に武当山での修行の道を歩ませることを考えますが、シューリェンは、イェンを嫁がせるべきだと反論します。

しかし、ムーバイが引退を撤回したのを知り、シューリェンは、彼に協力することしたのでした。


6)ローの登場

その夜イェンの元に、北京に来る途中、砂漠で襲われ行動を共にして、愛を誓った盗賊ロー(チャン・チェン)が現れました。

かって、砂漠でイェンの一行を襲ったローは、彼女が持っていた櫛を奪い逃走しました。イェンは執拗に彼を追い、危害を加える気のないローに反発を続けますが、やがて二人は求め合うようになりました。

ここに残りたいと言うイェンに、こんな生活は長くは続かず親に会いたくなると伝えたローは、家族は大事にするべきだと話しました。

いつか結婚しようと言うローは、自分が出世すれば親も認めてくれると言い、彼方に見える山頂から跳ぶと、必ず思いが叶うという伝説を話したローは、信じれば必ず叶うと言って、”信は真に通ず”と伝え、ローに櫛を預けたイェンは、再会を誓い彼の元を去っていきました。

 

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7)イェンの逃亡

時は過ぎ、嫁ぐことを止めるようイェンを説得しにきたローでしたが、両親のための政略結婚には逆らえぬイェンは、ローに預けていた愛の証の櫛を受け取り別れを告げるのでした。

 

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結婚式当日、式に向かうイェンに結婚を諦めさせようと騒ぎを起こしたローを、ムーバイとシューリェンが助け、彼に武当山に身を隠すよう指示しました。

その後、嫁いだイェンは姿を消し、ムーバイとシューリェンが彼女を捜す探すことになりました。

ムーバイとシューリェンは、剣の腕前を振りかざすイェンの噂を聞きました。そして、イェン自らシューリェンの前に姿を現し、彼女の胸の中で泣き崩れるのでした。

シューリェンは姉として、両親を安心させるようイェンを説得しますが、彼女はローの安否を気遣うのでした。

その後、ムーバイがローを武当山に行かせたことを、シューリェンはイェンに知らせました。しかし、イェンがグリーン・デスティニーを置こうとしないため、シューリェンは姉妹の契りを断ち、彼女と剣を交えることになりました。

 

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8)ムーバイの死

二人の決着はつかず、尚も剣を置こうとしないイェンの前に、ムーバイが現れました。

イェンを竹林に追ったムーバイは、彼女に武当派の奥義を伝授しようとして、グリーン・デスティニーを奪い、滝つぼに投げ捨ててしまいます。

 

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それを取り戻そうとして、水中に潜ったイェンは、ジェイド・フォックスに連れ去られてしまいました。

イェンを追ったムーバイは、彼女がジェイド・フォックスに阿片を盛られたことを知り覚醒させます。

そこにシューリェンも現れますが、ジェイド・フォックスが襲い掛かりました。ムーバイはジェイド・フォックスを倒すものの、彼女の放った毒針を受けてしまいました。

シューリェンは解毒剤を手に入れようとしますが、ムーバイは死を覚悟しました。イェンは、ムーバイのために解毒剤の材料調達に向かい、意識が薄れる中、彼は、最後の力でシューリェンへの愛を告白するのでした。

イェンは解毒剤を持参して到着しましたが、ムーバイはシューリェンの腕の中で息を引き取っていました。

 

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9)エピローグ

シューリェンは、グリーン・デスティニーをティエ氏に届けるようにと、それをボーに託し、イェンをローの待つ武当山に向かわせました。

ローの元で一夜を過ごしたイェンは、かつて聞いた伝説の言葉”信は真に通ず”を思い出し、祈ってほしいと彼に伝えるました。

そして、”一緒に新疆へ”と祈ったローの言葉を確認したイェンは、渓谷に身を投げ雲海に消えていきました。

 

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3.みどころ

1)ワイヤー・アクション

香港映画界が長年に渡って培ってきたスピード感溢れるカンフーや、今までに無かった斬新なワイヤー・アクションが現実感はともかく素晴らし過ぎます。
武侠の武術である“軽功”を見事に表現したワイヤー・アクションは、この作品以降、香港映画やハリウッド大作などで模倣されるようになりました。


2)アクション

屋根から屋根へ空気を蹴るかのように柔らかく音も無く飛び移ったり、しなる竹の上に立って戦ったりと、動きやカメラアングルなど、全てにおいて計算され尽くした華麗なアクションに見惚れます。スタントかどうかは知りませんが、それを体現する役者陣の運動神経の凄さにも感嘆しました。

 

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3)演出

エモーショナルな人間ドラマが秀逸で、繊細で情感溢れる男女の機微や、登場人物それぞれが抱える想いのぶつかり合いが丹念に描かれています。
特に、ユー・シューリンのミシェル・ヨーの清楚な美しさと抑えた演技と、ジェイド・フォックス演じるチェン・ペイペイのイェンへの思いを込めた表情のアップは秀逸でした。
しかしながら、少なからずの拙速な展開は、われわれ日本人の思考にはついていきがたいところもありますが...


4)景観

中国の多用な景観、砂漠、緑あふれる渓流山間、深山の断崖絶壁などの魅力的は風景が次々にあらわれます。


4.まとめ

詰まるところ、清の貴族の高官の跳ね返り娘が女悪党に武術を仕込まれたが、たまたま天性の武術の才能があったばかりに周りをメチャクチャにしてしまいまい、それで最後責任とって見投げしたという訳ですか。

こういえば身も蓋もありませんが、美しい映像、果敢なアクション、健気なミシェール・ヨー、可憐なチャン・ツィイー、で決まりの映画です。