映画『夜の訪問者』サスペンスから絶品のカーアクション映画です?!
目次
1.制作
制作は『告白』のロベール・ドルフマン、監督は『007/危機一発』『暗くなるまで待って」のテレンス・ヤングで、リチャード・マシスンの原作をシモン・ウィンセルベルクと『地下室のメロディー』のアルベール・シモナンが共同脚色し、撮影は『シェルブールの雨傘』のジャン・ラビエ、音楽は『軍曹』のミシェル・マーニュ、美術をトニー・ローマン等が各々担当しています。
2.ストーリー
1)プロローグ
フランスのコートダジュールで暮すアメリカ人ジョー・マーティン(チャールズ・ブロンソン)は、所有するクルーザーで観光客相手の商売で収入を得ていました。
ある晩、妻ファビエンヌ(リヴ・ウルマン)と自宅にいたジョーの元に脅迫電話がかかってくると同時に、何者かが家に侵入してきました。
その男ホワイティ(ミシェル・コンスタンタン)はジョーの過去をよく知る男でしたが、もみ合いの末、ジョーはホワイティを殺害しました。ファビエンヌはホワイティとの関係をジョーに問いただします。
2)忌まわしい過去
朝鮮戦争従軍時に上官への暴力で服役中、ジョーは軍の武器を密売し、同じく投獄されていたロス大尉(ジェームズ・メイソン)とその部下であるファウスト(ルイジ・ピスティッリ)、ホワイティと出会います。
運転の腕を買われたジョーは脱獄計画に加わりますが、手引きをした傭兵カタンガ(ジャン・トパール)が警官を殺害したことに反発した彼は単独で逃走、ロスらは再び捕らえられたのでした。
3)追ってきた過去
ジョーがファビエンヌとともにホワイティの遺体を処分して家に戻ると、そこにはロス、ファウスト、カタンガの3人が待ち受けていました。彼らはジョーの持つクルーザーを密輸に使うことで、借りを返させようとしていたのでした。
ファビエンヌを人質に取られたジョーは、カタンガと共に取引の場所へクルーザーを走らせますが、寸前でカタンガを眠らせ港へ戻ります。
キャンプに参加していた娘ミシェル(ヤニック・ド・リュール)を迎えに行ったジョーでしたが、既にミシェルも人質に取られたあとでした。
4)反撃
そこでジョーは空港へ向かい、大金を持参したロスの愛人モイラ(ジル・アイアランド)を迎えに来ていたファウストを出し抜いてモイラを誘拐し、人里離れた小屋に金とともに監禁しました。
家に戻ったジョーはモイラを監禁したことを話し、ロスに妻子の解放を要求します。ロスは妻子と部下を引き連れ、ジョーにモイラの監禁場所まで案内させました。
小屋に着いたところでジョーは妻子を逃がそうとしますが、カタンガが乱射した銃弾でファウストが死に、ロスも被弾、重症を負い手当てが必要なため、ジョーはモイラとともに街から医者を連れてくることになりました。
5)逆転
ロスは金を持ち逃げしようとするカタンガに銃を向け、ファビエンヌはロスが意識を失わないよう介抱を続けます。それでもいよいよ力尽きたと悟ったロスは、カタンガの隙をついてファビエンヌとミシェルを逃がしますが、その後をカタンガが執拗に追っていきました。
ようやく街から医者を連れ戻ったジョーは、逃げ出したファビエンヌたちを助け出しますが、追いついたカタンガに再び拘束されます。
目的の場所までクルーザーで連れて行くよう迫られたジョーは船上で照明弾をカタンガに撃ち込み、火だるまになったカタンガは金と共に海へ落ちました。
6)エピローグ
港へ戻ったジョーはファビエンヌ、ミシェルとともにパリ際で賑わう街の中へと入って行きました。
3.四方山話
1)ステージ
テレンス・ヤング監督作品ながら、フランスはコートダジュールを舞台にしてフランスのフィルムノワールの味わいがあります。ただ脚本はもう少しこなれていれば、とはいえ、楽しめる映画であるのは間違いなく、南仏の美しい風景、街並み、登場人物のお洒落な衣装の着こなしと色彩はファッション雑誌から飛びだしたかのようです。
2)チャールズ・ブロンソン
『荒野の七人』(1960年)や『大脱走』(1963年)でアクの強い脇役俳優として注目され、アラン・ドロンと共演したフランス映画『さらば友よ』(1968年)とマカロニ西部劇『ウエスタン』(1968年)で国際的なトップスターへと成長しました。
日本でも1970年に出演した男性化粧品「マンダム」のテレビCMで爆発的な人気を獲得し、当時はブロンソン主演作が次から次へと輸入され話題になったものでしたが、その中の一本がこの『夜の訪問者』でした。
ちなみに、本国アメリカで本格的にブロンソン人気が高まるのはもうちょっと後のことで、世界的なブレイクのきっかけとなった『さらば友よ』ですら、アメリカでは一部のアート系シアターで限定公開されたのみで殆ど話題にならず、その後のヨーロッパでの主演作も大半が1~2年遅れでのアメリカ公開だったものだから、ブームが逆輸入されるまでに時間がかかったようです。
1970年製作の本作も、全米公開されたのは4年後の1974年。ちょうど『狼よさらば』(1974)の大ヒットで、アメリカでのブロンソン人気がようやく頂点に達した頃のことです。そんな具合で、当時のブロンソン・ブームはヨーロッパと日本が完全に先行していました。
3)リヴ・ウルマン
ブロンソンの妻役のリヴ・ウルマンは巨匠ベルイマン監督の公私のパートナーで彼の作品の常連女優です。かなりのパートを占めている大きな役を演じていますが、その演技と存在感は正直ブロンソンを上回っています。
4)カーチェイス
終盤の岩だらけの峠道の爆走シーンは、今の出来過ぎのウソっぽいカンフー映画みたいなのと比べると本当に走っているからというか走っているだけだから、『ブリット』と同じ実写の迫力があります。
さらにカーチェイス映画の元祖とも言われる『バニシング・ポイント』や『フレンチ・コネクション』が1971年制作だと考えると、あのスピード感は時期としてもかなり速いと言えるでしょう。
5)テレンス・ヤング
本作は、チャールズ・ブロンソン主演のアクション映画として見ると、今の目にはアクションシーンも少なく、地味で渋く、言葉を選ばずに言えば物足りない一作です。後半に凄まじいカーチェイスシーンはあるが、アクションとしての盛り上がりはそこへ一点集中されていると言っていいのですが、見てる間に退屈するのかと言われるとそういう訳ではありません。そのアクションシーンに至るまでのサスペンスはとても上手く、ハラハラドキドキさせられるのです。
つまり、この作品は、サスペンスがどんどん盛り上がり、アクションが発生していくという構造がよくわかっります。サスペンス映画がどんどんと観客の要望に応えて過剰になっていくうちに、アクション映画と呼ばれるような作品へと進化して行ったのです。
テレンス・ヤングの業績とはなにか。『007』のようなアクション映画の元祖という評価も間違っていないのでしょうが、サスペンス映画からアクション映画へと時代を変遷させる繋ぎ目になった監督。それがテレンス・ヤングであり、それが彼の業績でしょう。
4.まとめ
何と言っても、チャールズ・ブロンソン演じる戦うお父さん、ジョーの渋いカッコ良さに尽きるでしょう。体脂肪低めの鍛え抜かれた肉体は、撮影当時49歳とは思えないほど若々しいのです。