この映画『トキワ荘の青春』は、市川準監督、主演本木雅弘の1996年公開の日本映画です。若き日の著名な漫画家がたくさん住んでいたことで有名なアパート「トキワ荘」を舞台に、巨匠たちの青春の日々をフィクションを交えて描いた青春映画です。
目次
1.紹介
寺田ヒロオが主人公であり、後にその寺田が漫画の筆を折り、途中でトキワ荘を去った森安なおや、そしてなかなか売れずに苦悩の日々を過ごした赤塚不二夫らの運命を反映し、盛り上がりを抑えた物静かなトーンの作品となっています。
主演の本木雅弘以外の主要キャストには、当時は無名に近かった自主映画・小劇団関係者が起用されましたが、後年人気スターとなった者が非常に多く、結果的に非常に豪華な顔ぶれになっています。
2.ストーリー
1)プロローグ
トキワ荘に住む後のマンガの神様・手塚治虫(北村想)の向かいの部屋には、あちこちに原稿の持ち込みをしながらマンガ家としてのスタートを切ったばかりの寺田ヒロオ(本木雅弘)が住んでいました。
ある日、藤子不二雄のペンネームで合作でマンガを描いている安孫子素雄(鈴木卓爾)と藤本弘(阿部サダヲ)のふたりが、手塚を訪ねてトキワ荘にやってきました。
あいにく手塚は留守だったのですが、寺田は田舎から出てきたふたりのために食事をご馳走してやり、東京での生活についていろいろと教えてやるのでした。
2)多士済々
その後、手塚は別の仕事場に引っ越し、上京した安孫子と藤本がその空部屋に入りました。それに続くように、トキワ荘には『漫画少年』の投稿仲間だった石森章太郎(さとうこうじ)、赤塚不二夫(大森嘉之)、森安直哉(古田新太)、鈴木伸一(生瀬勝久)らマンガ家の卵たちが次々と集まり住むようになりました。
3)切磋琢磨
トキワ荘によく遊びにきているつのだじろう(翁華栄)を加えた彼ら8人は“新漫画党”を結成し、寺田の部屋に集まっては、マンガの未来についての話に花を咲かせました。
家賃を滞納するほどに生活は苦しいながらも、希望に燃えて好きなマンガに打ち込む彼らは、少しずつマンガ家としての実績を重ねていきます。
4)倒産
そんなころ、『漫画少年』の学童社が倒産しました。以前からマンガとアニメーションの二足のわらじを履いていた鈴木は、これを機会にアニメ一筋でやっていくことを決心し、トキワ荘を出ていきます。
『漫画少年』が廃刊になってもマンガ人気はすたれず、石森と藤子はあちこちに連載を抱える売れっ子になっていました。
寺田は相変らずにマイペースで描き続け、石森のアシスタントをしながらなかなか世に出るチャンスをつかめないでいる赤塚の面倒を見たり、彼らをよくまとめていました。
5)それぞれの結末
その後、ギャグマンガに才能を見いだされた赤塚はとんとん拍子に売れっ子になり、同じころ、自分の描きたいものとそれが認められない現実とのギャップに悩んでいた森安が、こっそりトキワ荘から引っ越していきました。
寺田は、当時の速いスピードで変化していく少年マンガの世界に、自分が合わなくなってきていることを感じつつ、それでも自分の好きなものしか描けないでいました。
6)最後の相撲
ある日、赤塚が音頭を取り、久々に「新漫画党」の面々が寺田の元に集まり相撲をとることになりました。
彼らは多忙の合間を縫って兄貴分である寺田を励まそうとしたのであり、寺田もかつて彼らと切磋琢磨した日々を思い出しつつ楽しいひと時を過ごしました。寺田は、流れる汗に紛らわせて涙を拭うのでした。
7)エピローグ
寺田が、「新漫画党」のみんなで写した一枚の写真を残して、トキワ荘から去っていったのは、それから程なくしてのことでした。
3.四方山話
1)聖地「トキワ荘」
トキワ荘は、東京都豊島区南長崎三丁目16番6号、完成当時の住所表記は豊島区椎名町五丁目2253番地に、1952年(昭和27年)から1982年(昭和57年)にかけて存在した木造2階建アパートです。
漫画家の聖地と言われる「トキワ荘」は、“漫画の神様”手塚治虫が初の住民だったことと、後に2階部分を学童社が専属の漫画家を住まわせるようになったことをきっかけに、漫画家が住むアパートとして有名になりました。
学童社の思惑はある程度の画才があり、多忙になった漫画家のアシスタントも兼務できる、技量の高い新人を住まわせたという説もあり、トキワ荘にはそもそも才能のある漫画家たちが集められたと言われています。
それゆえに「トキワ荘」からは多くの人気漫画家が輩出され、“聖地”と化すのはある意味、当たり前のことだったのです。
2)トキワ莊の漫画家
手塚治虫 (1953年初頭 - 1954年10月)
寺田ヒロオ (1953年12月31日 - 1957年6月20日)
藤子不二雄 (1954年10月30日 - 1961年10月)(藤本弘、安孫子素雄)
鈴木伸一 (1955年9月2日 - 1956年6月1日)
森安なおや (1956年2月 - 1956年末)
石森章太郎 (1956年5月4日 - 1961年末)(後に石ノ森章太郎と改名)
赤塚不二夫 (1956年5月4日 - 1961年10月)
よこたとくお(1958年 - 1961年)
水野英子 (1958年3月 - 1958年10月)
山内ジョージ(1960年9月 - 1962年3月)
向さすけ (1981年 - 1982年)
頻繁に出入りしていた漫画家
長谷邦夫、園山俊二、つげ義春、つのだじろう、坂本三郎、永田竹丸、横山孝雄、しのだひでお
4.まとめ
時代背景が昭和30年代初頭から中盤の前あたりまでで、たしかに世代によっては神様と見紛うばかりの漫画家が並んでいます。
平成生まれ以降だったら、映画マニア、漫画マニア、レトロ好き、を除いて当然「これ何?」の世界であろうし、昭和20年代、昭和30年代生まれだったら直球ど真ん中であろうし、昭和40年代生まれもほぼ理解できる世代でしょう。
やはり世代により感想は大きく異なってしまいます。それほど昭和は遠くになりつつあるということですか。
静かな映画ですが、見やすく仕切られた穏やかな構成で、和ませる映画ではあります。