この映画『ニュー・シネマ・パラダイス(Nuovo Cinema Paradiso)』は、1988年公開のイタリア映画で、監督はジュゼッペ・トルナトーレ、エンニオ・モリコーネの音楽もよく知られています。
目次
1.紹介
1)概要
中年を迎えた映画監督が、映画に魅せられた少年時代の出来事と青年時代の恋愛を回想する物語で、感傷と郷愁、映画への愛情が描かれた作品です。
後述の劇場公開版が国外において好評を博して、しばらく停滞期に入っていたイタリア映画の復活を、内外一般に印象付ける作品となりました。
2)バージョン
本作は以下のようにいくつかのバージョンが発表されています。日本では173分版と123分版が公開・ソフト化されました。
①173分: 「ディレクターズ・カット版」、DVD・ブルーレイでは「完全オリジナル版」
②155分: イタリアで上映された「オリジナル版」
③123分(124分とされることもある): インターナショナル版、「劇場公開版」、DVDでは「SUPER HI-BIT EDITION デジタル・リマスター版」
短縮版(「劇場公開版」)と長尺版では、映画の主題が大きく異なっています。短縮版においては映画館「パラダイス座」が物語の中心となるのに対し、長尺版では主人公の人生に焦点が置かれており、青年期のエレナとの恋愛や壮年期の帰郷後の物語が丹念に描かれています。
1988年にイタリアで劇場公開された「オリジナル版」の上映時間は155分でしたが、興行成績が振るわなかったため、ラブシーンやエレナとの後日談をカットして123分に短縮されて国際的に公開され、成功を収めました。このバージョンの編集も監督本人が手がけています。
2.ストーリー
1)プロローグ
自由な生活を送るサルヴァトーレ(ジャック・ペラン)の元に故郷の母親(プペラ・マッジオ)から電話が入ります。30年間1度も連絡をすることもなかった彼に届いたのは大切な存在アルフレード(フィリップ・ノワレ)の死でした。
2)出会い
2人の出会いははるか昔に遡り、まだサルヴァトーレがトト(サルヴァトーレ・カシオ)と呼ばれ学校に神父(レオポルド・トリエステ)の手伝いにと動き回っていた幼い頃、彼の興味は村に唯一ある映画館の存在でした。
人々が数少ない娯楽として映画を楽しむ中トトは映写室に興味を示します。そこには教会の都合で切り取られたフィルムが散乱していました。その多くはキスシーンでした。
その映写室で出会ったのが村で唯一の映写技師アルフレードでした。初めは子供に関わることを避けていた彼だったがいつしか二人に不思議な友情が生まれ始めました。
3)全焼と再建
村で唯一の映画館は人々の間で大人気でした。しかしそれが悲劇を呼んでしまいます。
ある夜あまりの盛況ぶりに映画館に入れない人達が騒ぎを起こしていました。それを鎮めるためアルフレードは屋外にフィルムを映します。喜ぶ彼らにトトとアルフレードもまた喜びその様子を眺めていました。
しかし少し目を離したその隙に映写機から炎が上がり、それはみるみる燃え広がりついには映画館は全焼しました。アルフレードは、両目の視力を失うほどの大火傷をおってしまいます。
その後、映画館はトトカルチョで儲けたナポリ人のスパッカフィーコ(エンツォ・カナヴェイル)がパラダイス座支配人となり新たにオープンし、アルフレードはトトに映写室の全てを任せることにしましたた。
4)別れ
それから数年が経ってからも相変わらずトト(マルコ・レオナルディ)は映写室にいました。そしてその頃彼は運命的な恋をします。それは遠くからこの村に越してきたエレナ(アニェーゼ・ナーノ)という少女でした。
一目惚れをしたトトはエレナに長い日数をかけ思いを伝えました。あまりに長いその時間にトトはついに諦めかけます。しかしその思いはついに叶いました。それから夢のような時間を過ごした2人でした。
しかしそれも長くは続かずエレナは大学進学のためトトは徴兵され2人は村を離れました。そしてトトが村へ戻った時エレナの行方は分からなくなっていたのです。そしてアルフレードは久しぶりに帰ってきたトトにある話をするのでした。
アルフレードはトトに村を出るように言いました。トトには人生があり、小さな村で一生を終えるな、そして出たらすぐには帰ってくるなと。
それはアルフレードの愛ゆえの言葉でした。そしてトトは故郷を離れ、以来30年彼は一切連絡も取らず過ごしていました。
5)帰郷
実に30年ぶりの帰郷です。村は大きく変わっていました。車が多く以前よりも活気が溢れているようでした。そしてあの映画館は数年前に閉館し今では廃墟と化していました。
アルフレードの葬式のあと彼の妻からトトに1本のフィルムが渡されました。生前トトに渡すよう言われていたのでした。
6)エピローグ
トトはローマへ帰りそのフィルムを再生しました。すると始まってすぐにキスシーンが流れた。トトが欲しがったものの、アルフレードが預かっておく約束したものでした。
それは、神父が事前に検閲して削除されたもので、次から次へと流れる数々の名画のキスシーンにトトは思わず涙を流しました。
3.四方山話
1)あり得ない描写
パラダイス座に入りきらなかった観客のために、アルフレードが映写機の反射板をクルリとひねって、外の広場の壁に映画を映し出すシーンです。
劇場内のスクリーンと同時上映させるこの手法は理論的に不可能ではありませんが、突発的なアイデアで外の壁にうまくピントを合わせるなんて、神業レベルです。しかも反射板を鏡面として使っているので、映ったとしても左右逆になるはずですが、そうはなっていません。
まさしく映画的演出と言え、感動的なシーンなので片目をつぶり、百歩譲らざるを得ません。結果、鏡を使ったことでフィルムが燃えるという流れは、意外にもリアルではあります。
2)繋がれたフィルム
有名な「つないだフィルム」のシーンも、冷静な観点からリアリティを超えているのではと、公開時に話題になったそうです。
数十年も前のフィルムを手作業で細かくつないだ状態で、そのまま新しい映写機にかけて問題なく映るものなのでしょうか。
そして、これはアルフレードが失明する前につなげて保管していたものであると思われ、そうすると火事の前に持ち出していたのか?などと考え始めるとキリがないのです。
しかしこれもまた、あまりに映画的なクライマックスであるために、さまざまな疑問は頭から消え去ってしまいます。映画への愛が、映画としての嘘や疑問を軽々と凌駕してしまいます。
3)音楽
主題曲「Cinema Paradiso」はこれまでに各国のさまざまな企業のCMに使われているほか、テレビ番組でも頻繁に用いられています。
イタリアのジャズ・トランペット奏者ファブリッツィオ・ボッソのアルバム『Nuovo Cinema Paradiso』、パット・メセニーとチャーリー・ヘイデンのデュオ作『ミズーリの空高く』、クリス・ボッティのアルバム『When I Fall in Love』など多くのミュージシャンがカバーしています。
日本では、ギタリストの渡辺香津美がアコースティック・ギターをメインに用いた『おやつ』で、 大賀好修がB'zの松本孝弘のソロ・ワークス『Theatre of Strings』でカバーしています。
4)サウンド・メモリー・スケープ
本作にも「サウンド・メモリー・スケープ」という力が大きく働いています。「サウンド・メモリー・スケープ」は、ある音楽を聴くと当時体験したことやものごとが鮮明に思い出されるという事象です。
その要因の一つで素晴らしいサウンドトラックがあります。この『ニュー・シネマ・パラダイス』のサウンドトラックは場面場面の音楽が巧みに構成されていて、同じテーマやフレーズが何度も出てきて、それ自体が映画の流れのような作りになっています。
『ドクトル・ジバゴ』『アラビアのロレンス』『ひまわり』しかり、当時に見た映画のシーンが音楽を聴く都度、鮮明に蘇ってくるのは、映像だけの力ではありませんね。
5)単館公開でのロングラン
日本では1989年12月に東京のシネスイッチ銀座で公開されると、40週にも及ぶロングラン上映を果たし、この1館だけで約30万人近い動員を果たす大ヒットとなりました。
6)作中登場した映画
どん底、駅馬車、揺れる大地、チャップリンの拳闘、無法者の掟、にがい米
白い酋長、ジキル博士とハイド氏、風と共に去りぬ、ヴィッジュの消防士たち
アンナ、CATENE(作中題「絆」)、素直な悪女、掠奪された七人の花嫁
青春群像、貧しいが美しい男たち、ユリシーズ、さすらい、嘆きの天使
街の灯、激怒、白雪姫、カサブランカ、戦場よさらば、ロビンフッドの冒険
素晴らしき哉、人生!、ベリッシマ、夏の嵐、マンボ、ヨーロッパ1951年
ウンベルト・D、サリヴァンの旅、越境者、ならず者、黄金狂時代、熱砂の舞
ノックアウト、ナポリの黄金、ローマの休日、ヒズ・ガール・フライデー
美女と野獣、玩具の国、底抜け極楽大騒動、丘の羊飼い
4.まとめ
恥ずかしながら、この名作をつい最近はじめて観ました。音楽もさることながらそれぞれのシーンの美しいこと、まるで写実派の絵画を見せられているようです。