凸凹玉手箱

A Post-Baiby Boomer

映画『最強のふたり』アクション映画ではなく、ヒューマン・アクション映画です?!

 

この映画は、2011年のフランス映画で、頸髄損傷で体が不自由な大富豪と、その介護人となった貧困層の移民の若者との交流を、ときにコミカルに描いたヒューマンドラマです。

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この映画のモデルになったフィリップ・ポゾ・ディ・ボルゴは、1951年生まれ、1993年にパラグライダーの事故で頸髄損傷となり、2001年に自身のことや介護人アブデル・ヤスミン・セローとのことを書いた「Le second souffle(第二の呼吸)」を出版しました。この話は2002年にテレビに取り上げられ、2003年にドキュメンタリーが製作されました。


これを観たエリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュが、フィリップに会いに行き、「事故を境に二つの人生を生きることができた。その両方の人生に誇りを持って、幸せを感じている。僕たち2人をユーモアが救ってくれた」という話を聞いて、脚本を書き上げ、映画化しました。

 

また、原題の「Intouchables」について、フィリップ本人は、
”映画タイトルになった「Intouchables(アントゥーシャブル)」という言葉は、フランス語で「触れ合わない」「触れられない」の意味。北アフリカ移民アブデルもフランスでは常に疎外された存在だし、アブデルに言わせると金はあるが四肢麻痺の自分は「金ピカの檻」に閉じこもり、痛みをもたらさないように周りの人が触れることを恐れている存在。ふたりとも「アントゥーシャブル」なのだ。”

と語っています。

 

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つまり、どうしようもなく触り難い存在であるが為に最強の存在となる、言い換えればこれ以上落ちるところがないが故の最強、と悲しい絶望的な立場をひっくり返して解釈したところに光明を見出します。

 

フィリップを演じるフランソワ・クリュゼは、フランスのアカデミー賞に相当するセザール賞に受賞を含めて10回もノミネートされている超実力派俳優です。若いころのダスティン・ホフマンそっくりです。頸椎損傷のフィリップを顔の表情だけで演じ、パワフルなオマール・シーとみごとに好対照のベテランの味を出しており、まさにキャストも最強のふたりとなっています。

 

名優フランソワ・クリュゼを相手に、オマール・シーの魅力が溢れる映画で、ドリスは実際はアルジェリア出身ですが、前作でオマール・シーを気に入ったエリック・トレダノオリヴィエ・ナカシュ両監督が、オマール・シーを起用する為に設定を西アフリカ出身に変えたものです。オマール・シーはコメディアンでもあり、絶妙に笑いを振りまきますが、家族の問題で悩んだり、フィリップやその娘に優しさを見せたりと千変万化の演技を見せてくれます。

 

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最初は障害者ネタのきついジョークとさらりとした下ネタにびっくりしましたが、これにはフィリップが事故後の人生にも誇りを持っており、下手な同情をされるよりは、遠慮なしにガンガン言ってくるドリスに魅力を感じているという背景があってのことです。からかわれても、フィリップは嬉々としています。

 

そういう意味では、これは単なる介護の映画ではなく、住む世界は違うが誇りを持った大人同士が心を触れ合い、お互いの本当はつらい人生を明るく生き抜く為の栄養剤として、ユーモアを上手に取り扱っているのを見せている映画でもあります。


劇中にはこの二人だからこそ、挑戦できたエピソードが数多く登場します。冒頭から猛スピードでドライブ中の二人が警察に追われ、フィリップがとっさに、発作のフリをしてことなきを得るが、実際のフィリップも「警察に追われたときに使うのさ」とロールス・ロイスに人工呼吸器を装着していると語っています。

 

麻痺(まひ)の原因となる大事故を引き起こしたパラグライダーに、再び乗ったというエピソードも真実で、「イカれたことも彼と一緒だからできた」とアブデルが話すように、映画だからと誇張しているわけではなく、実際の二人もとんでもなくユニークだったみたいです。

 

このような正反対の二人の出会いは、アブデル(ドリス)はフィリップを自然に受け入れ、二人は信頼関係を築いたと、映画では人種や年齢、階級といった壁を越えて友情を築き上げていきますが、実際の二人の出会いはどうだったのでしょう。何と、実際のフィリップはドリスのモデルとなったアブデルの履歴書も見ていないという。そんな開けっぴろげで自由なフィリップだからこそ、飾らないアブデルを直感的に気に入ったともいえるかも知れません。

 

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そして、フィリップはアブデルについて「人生について同じ哲学を持っている」とも言っています。アブデルはアラブ系ですが、「各自が独自の人生を楽しむべき」という考えの持ち主で、個々を何より大切にするフランス人の人生観にも通じていて、フランス社会の寛容さを見るようで面白くもあります。

 

実際のフィリップは、フィリップ役のフランソワ・クリュゼの演技には「とても動揺した」といい、クリュゼのまなざしに宿る「苦しみ」が見て取れたと打ち明けるように、この映画は一見するとコメディー映画ですが、非常に重苦しいテーマを含みながらも前向きなメッセージをわたしたちに与えてくれています。

 

そして、フィリップはこの映画について次のような言葉を添えています。

最強のふたり』は力強いメッセージが込められた作品。健常者と障害者、才能がある者とない者、二者の対立を嘆いている。われわれはもともと弱い人間だから支え合うべきなんだ。