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映画『助太刀屋助六』岡本喜八の遺作のコミカルな仇討です?!

 

この映画『助太刀屋助六』は、岡本喜八原案による2002年の時代劇作品で、監督を岡本喜八が担当し、主演を真田広之鈴木京香が共演しています。

目次

 

 

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1.紹介

岡本喜八が監督映画『日本のいちばん長い日』、『肉弾』を製作した直後、亡くなった岡本の父への追悼の意も込めてシナリオが執筆され、岡本自ら「生田大作」のペンネームで執筆した漫画が『漫画読本』1969年4月号(文藝春秋刊)に発表されました。
仇討ちの助太刀を生業とする若者・助六の姿を描くコメディタッチの時代劇で、このシナリオおよび漫画を基に、1969年にオムニバスドラマ『仇討ち』の一編としてテレビドラマ化、さらに、2002年に真田広之主演で映画化されました。
2005年2月19日に岡本が死去し、同映画化作品は岡本の遺作となりました。


2.ストーリー

1)プロローグ

助六真田広之)は、ひょんなことから、仇討ちの助太刀をすることに味をしめ、それを生業として気ままに暮らしていました。助太刀屋といっても、刀を使うのは苦手で、これまでも、物干し竿や荒縄など、そのへんにある道具で器用に戦ってきました。
まとまったお金が手に入ったことから、久しぶりに故郷へ帰った助六ですが、父親の顔は知らず、女手ひとつで育ててくれた母親もすでに小さな墓石の下でした。
その墓石の前に、黄色い花が一輪供えられています。他に親戚もないのに、と首をかしげる助六でした。


2)これから始まる仇討ち

助六の故郷は、上州の小さな宿場町です。そこへ一歩足を踏み入れると、何か異様な雰囲気です。町の中は閑散として、人々は家に隠れて気配を押し殺しています。

そこへ幼なじみの太郎(村田雄浩)が現れます。太郎は、町の見張り役の番太になっていました。太郎いわく、これから仇討ちがこの町でなされるというのです。

 

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脇屋新九郎(鶴見辰吾)と妻木涌之助(風間トオル)が、兄の仇、片倉梅太郎(仲代達矢)を討とうとしています。両者ともすでに町の中に入っており、検分役の関八洲取締出役、榊原織部岸部一徳)がやってくるのを待っていたのです。

助太刀を頼んである2人の浪人とともに、脇屋と妻木は、居酒屋で酒を飲んでいます。その2階には、老婆オトメ(岸田今日子)と、太郎の妹のお仙(鈴木京香)の姿がありました。お仙は、仇討ちの後に、生娘であるにもかかわらず、織部と床を共にすることを約束させられているのでした。


3)棺桶屋にて

一方の片倉梅太郎は、棺桶屋で一時を過ごしていました。助六が訪ねていくと、棺桶屋の親父(小林桂樹)と、その娘タケノ(山本奈々)は、明らかに動揺しました。実は、梅太郎は助六の父親なのです。そのことを梅太郎は、最後まで隠して、自分の戒名を書き留めたり、震える手に刀を巻き付け固定したりして過ごすのでした。

 

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父親とは知らずに、助太刀をしたいと申し出た助六を一瞬で気絶させて、梅太郎は店の棺桶のひとつに、あの黄色い花一輪を残して出ていきました。


4)悪人榊原

片岡梅太郎は、潔く戦い、死にました。榊原や脇屋たちは、居酒屋に戻って祝杯をあげます。浪人が一人やられましたが、他は無傷です。榊原はすこしでも早く2階の女のもとに行きたくてウズウズしています。

妻木は、梅太郎が死に際に残した「兄が死んだ理由を知りたければ、榊原の袖の下を覗いてみろ」という言葉が気になっています。その意味を榊原に問うと、汚職や裏金の話を聞かされました。憤慨して立ち上がったところを、浪人が容赦なく長槍でブスリと刺し、妻木は息絶えました。


5)父親の仇討ち

一方、棺桶屋で、助六が意識を取り戻しました。残された2人分の戒名や、梅太郎が購入したという墓石、母の墓前にあったのと同じ黄色い花と、梅太郎は自分の父親であることに気がつきました。

「仇討ちの仇討ちはダメだ」との棺桶屋のオヤジの言葉に、助六は「白木の位牌に助太刀を頼まれたことにしよう」と勝手に決めてしまいます。新しい墓石を砥石がわりにして、錆だらけの刀を研ぎ、店を飛び出していきましたす。


6)本懐遂げるが

居酒屋にひとり乗り込む助六。笑顔で脇屋に近づき、首を引き切り、爽やかに仇討ちを宣言します。残る標的は長槍の浪人と榊原です。小さな宿場町は大混乱。助六一人を仕留めるのに大勢が探し回るも、いったん姿をくらました男はなかなか見つかりません。番太である太郎は、榊原に命じられて町の捜索に加わりました。

そんな中で、助六はお仙と再会しました。お仙は幼い頃から、助六を好いていたので、大喜びです。得意の石投げで助六を援護します。

 

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助六は、死体のふりをして寝転び、油断していた長槍の浪人を葬りました。あとは榊原のみとなり、棺桶に入って少しずつ榊原に近づきます。そして一気に肉薄し、助六の錆びた刀は折れますがブスリとさすことができました。

本懐を遂げて居酒屋から出たところを、屋根の上の鉄砲部隊に狙われて、助六はついに倒れてしまいます。太郎、お仙、棺桶屋の親子は涙を流して駆け寄ります。そして隠れていた町の人々も出てきて、死んだ助六に手を合わせました。


7)エピローグ

お仙は「助六の埋葬は自分が」と言い、遺体を馬に乗せて、とぼとぼと町から出ていきます。しばらく行ったところで、助六は、むっくり起き上がりました。2人笑い合いました。事前に鉄砲の弾を、助六は抜いていたのでした。

2人は夫婦になることを約束して、仲良く去っていきました。助六が生きていることに気づいていない太郎は、泣きながら事の「始末書」を書いているのでした。

 

3.四方山話

1)遺作

結果的に岡本監督の遺作となってしまったこの映画、改めて見ると不思議と「遺作らしさ」がつきまとっています。別に当人もそのつもりはなかったろうし、実際亡くなる直前までクランクイン寸前までいっていた次回作も待機していたのですが、どうも「これが最後の一本のつもりなのか?」という印象を受けてしまいます。

それは、この映画の冒頭に、岡本映画出演組がカメオ状態で次々と登場してくるからなのです。

アヴァンタイトルは主人公「助六」が仇討ちの「助太刀屋」になる過程とその仕事ぶりが、短い場面を重ねて行く形で描かれているのですが、仇討ちする側、あるいは仇討ちされる側の役で前作『EASTMEETS WEAT』に出た竹中直人、『大誘拐』に出た嶋田久作、『吶喊』の伊佐山ひろ子といった面々が登場し、そして最後にきわめつけ、天本英世佐藤允の「岡本映画の顔」同士が「夢の対決」をしてしまうのです。


2)天本英世

御存知のとおり天本英世といえばその異様な外観でよく知られ、中でも「仮面ライダー」の「死神博士」役であまりにも有名ですが、岡本喜八監督自身も街角で子供たちにその「死神博士」と勘違いされたという逸話があるほど天本にソックリで、天本は岡本監督の「分身」のように多くの岡本作品に出演しています。

 

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岡本作品ではこの「助太刀屋助六」での1シーン出演が最後となり、2003年3月に亡くなっています。そしてその1本が岡本監督自身の最後の作品となってしまったのだから、まさに「分身」以外の何者でもなくなってしまったのです。


3)佐藤允

一方の佐藤允はなんといっても『独立愚連隊』が岡本監督ともども出世作となった異色俳優で、なぜか戦争映画の兵隊さん役が多い人ですが、この頃はさすがにあまり見かけなくなっていました。

 

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この人が久々に岡本映画に登場したと思ったらそれが最後の岡本映画になったわけで、なにやら天本さんが岡本監督の「お迎え」、佐藤さんが「お見送り」をやってるように見えてしまいます。


4)漫画家生田大作

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岡本監督の父が亡くなり、その父への追悼の意味も込めてシナリオが執筆されましたが、面白いことに岡本監督は映像にする前にこの物語をなんと自ら漫画にして「漫画読本」に発表しています。

この漫画は劇場公開時のパンフレットにもオマケとしてついていたのですが、岡本監督が漫画家としても高い才能があったということになります。実際岡本監督の影響を受けたという漫画家・アニメ作家が少なくないので相通ずるところが多いのかもしれません。

この漫画版「助太刀屋」は「原作・生田大作」とクレジットされていますがこれは岡本監督の筆名でした。

 

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4.まとめ

黒澤明『用心棒』的な宿場町に場所を限定しながら、派手な血の噴出が控えられているところがいかにも喜八印。武器もまた別系統で、打楽器を使う山下洋輔のジャズ、簡潔な岸田今日子のナレーション文体に乗せられ、劇画のように話は進みます。ウィットとビート感なのです。