2019年に公開された実話を脚色したモーターサイクル映画です。監督はジェームズ・マンゴールド、主演はマット・デイモンとクリスチャン・ベールが務めました。
目次
1.制作
2011年5月27日に、マイケル・マン監督がル・マン耐久レースにおけるフェラーリとフォードの競争を題材にした映画の製作に着手したと報じられました。
2013年10月、降板したマン監督の代わりにジョセフ・コシンスキーが監督を務めることになり、トム・クルーズがキャロル・シェルビー役に起用されました。その際、『Go Like Hell』という仮タイトルが発表され、12月18日、ブラッド・ピットがケン・マイルズ役に起用されたとの報道がありました。
2018年2月、本作の企画が再始動することになり、ジェームズ・マンゴールドが監督に起用され、5月23日、マット・デイモン、クリスチャン・ベール、ノア・ジュープ、カトリーナ・バルフの出演が決まったと報じられました。
6月12日、ジョン・バーンサルが本作に出演するとの報道があり、7月30日、本作の主要撮影が始まりました。
2.ストーリー
1)プロローグ
1950年代後半。敏腕レーサーとして名前を馳せていたキャロル・シェルビー(マット・デイモン)は、心臓の異常が判明して引退を余儀なく迫られました。しかし、その後はカー・デザイナーとして成功を収め、スポーツ・カー製造会社シェルビー・アメリカンを設立していました。
ある日のこと、シェルビーのもとにアメリカ最大の自動車メーカー、フォード・モーター社からマーケティング戦略を手掛ける切れ者リー・アイアコッカ(ジョン・バーンサル)がやってきて、思いがけないオファーを提案しました。
それはル・マン24時間耐久レースにおいて、モータースポーツ界の頂点に君臨しているイタリアのフェラーリ社に勝てるレース・カーの開発をしてほしいという、途方もない無謀な依頼でした。
2)白羽の矢
フォード社は経営難でした。会長のヘンリー・フォード2世(トレイシー・レッツ)は、フェラーリに対抗心を燃やし買収計画を進めてきましたが、あと一歩のところで創業者のエンツォ・フェラーリと交渉決裂し、エンツォの傲慢な態度に腹を立てたフォード2世は打倒フェラーリを誓い、シェルビーに白羽の矢を立てたのでした。
フォードの本気を感じ取ったシェルビーは、この不可能とさえ思えるオファーを受諾することにしました。
3)運命のコンビ
かつてル・マンにアストン・マーティンで参戦し、アメリカ人レーサーとして初めて優勝した経験を持つシェルビーでしたが、彼の胸の奥底には、今でもレース界への熱い思いが燻っていました。
しかし、次のル・マンまではわずか90日しか準備期間がありませんでした。そこでシェルビーは真っ先に凄腕イギリス人ドライバーのケン・マイルズ(クリスチャン・ベイル)を訪ねました。
自らが経営する自動車修理工場が国税局に差し押さえられ生活に困っていたマイルズは、妻モリー(カトリーナ・バルフ)と一人息子のビーター(ノア・ジュプ)に背中を押され、シェルビーの挑戦に加わることを決意しました。
4)内なる障害
こうして史上最高のレーシング・カーを生み出すために、フォードGT40を大胆に改良し、何度もテストを重ねていきました。
しかし、妥協を辞さないマイルズの激しい言動は次第にフォードのレーシング部門の責任者レオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)の反感を買っていきます。
扱いづらいマイルズを除外しようとするビーブの思惑を察したシェルビーは、奇策でフォード2世に直談判して、ミッションを達成するためには外すことは許されないマイルズを守ることに成功しました。
レースへの純粋な気持ちを共有しているシェルビーとマイルズは、いつしか固い友情で結ばれていました。
5)理不尽な指令
いよいよ決戦の日。マイルズが乗り込んだフォード1号車は、フェラーリと壮絶なデッドヒートを繰り広げました。夜や雨を乗り越えて、トップを走るのはマイルズ。そしてそれに続いて、2位3位もフォード社が独占していました。
ところがそこに、ビーブからの命令が下されました。「ゴールまで減速して、3台同時にゴールせよ」と言うのです。理不尽な大企業の倫理に、マイルズとシェルビーは怒りがこみあげてきます。シェルビーはマイルズに言いました。「どうするか自分で決めろ」と。
6)意外な結末
いよいよゴールが見えてきました。それまでに加速し続けて、記録更新を重ねてきたマイルズでしたが、なんと減速を始めたのです。2位3位の車も追いつき、ゴールは3台揃っての感動的なシーンでレースは幕を閉じました。
しかし、表彰台を飾ったのは、マイルズよりずっと後ろを走っていたマクラーレンでした。より後ろからのスタートだったためでした。まんまとビーブの思惑にはまった2人は、背を向けて出ていきました。
7)エピローグ
その後も速い車を追求していく2人でしたが、テスト走行中、危険な挑戦が理由でマイルズは命を落としてしまいました。
半年経っても深い喪失感から立ち直れずにいたシェルビーでしたが、マイルズの妻モリーと息子のピーターにあたたかく勇気をもらい、新たな明日に向かって出発していくのでした。
3.みどころ
1)フォード社長のGT40体験乗車
シェルビーが自ら運転する車にフォード社の社長を乗せて、マイルズの出場を直訴するシーンは本作の中でも屈指の名場面であり、そこには本作の裏テーマである”父親と息子の絆”が見事に描かれています。
彼の運転により、プロのレーサーの走りを体験させられたフォード社の社長の意外な反応と、その後に語ったセリフには、亡き父への愛情と家業である自動車会社への深い想いが込められており、映画の序盤で非情なビジネスマンに見えたこの男の中にある少年の心を見事に表現しているのでした。
2)チェッカーフラッグ
ドライバーのテクニックだけでなく、車の性能や耐久性が勝負のカギとなるラストの展開は、やはり『フォードvsフェラーリ』のタイトルに嘘はありません。
加えて、ここに1・2・3ゴールの宣伝効果という残酷な企業エゴと、友の栄光を奪い取ってしまうことの葛藤が、みごとに表わされています。
4.評価
本作は批評家から絶賛されていて、特にベールの演技は称賛を集めています。映画批評集積サイトのRotten Tomatoesには287件のレビューがあり、批評家支持率は91%、平均点は10点満点で7.71点となっています。
サイト側のアメリカの批評家による見解の要約は「『フォードvsフェラーリ』は目の肥えたレース映画ファンが期待しているであろう全ての要素を盛り込んでいる。それでいながら、観客の心を掴む人間ドラマを十分に展開しているため、カーレースにそれほど興奮しないものでも満足できる作品になっている。」となっています。
5.まとめ
この映画ベビーブーマー、いわゆる団塊の世代がモータリゼーションの波に煽られ、血沸き肉躍って観たカーレースの頂点、ルマン24時間を再現してくれました。
おそらく10年後、自動車産業はEV全盛の時代になっているでしょう。香港では、毎年E-Prixという電気自動車のレースが開催されていて、地球環境にもよいという謳い文句で良いことなのですが、F1のようなエンジンの咆哮が聞けないのがこの世代には物足りなく感じてしまいます。
そういう意味で、この映画はギリ間にあったのかもしれません。もうハリウッドはこんな本物のガソリン車でレース映画作れないでしょう。60年代のヨーロッパ車が席巻していたカーレースにアメ車で挑んだエンジニア達の心意気。この映画はそんな「物作り」をする人々や、それを支えた人々への鎮魂歌でした。