この映画『ファンタスティック・プラネット(La Planète sauvage)』は、ルネ・ラルー監督による1973年制作のフランス・チェコスロヴァキア合作アニメーション映画です。
目次
1.紹介
全世界でカルト的人気を誇る本作は、フレンチSFのパイオニアであるステファン・ウルの原作「Oms en Série」をもとに、ブラックユーモア溢れる幻想的な画風のアーティスト、ローラン・トポールが4年の歳月をかけて原画デッサンを描きました。
それを「切り絵アニメーション」という手法で鬼才ルネ・ラルーが、1973年に映画化し、アニメーション作品として史上初めてカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞しました。
2.ストーリー
1)プロローグ
ある銀河の惑星イガムは、青い体に赤目の巨人族・ドラーグ人が統治し、人間のようなオム族は下等民族として扱われていました。
ある日、オム族の女性は赤ん坊を抱いて、ドラーグ人の悪ガキから逃げ惑っていました。悪ガキたちは、女性をいたぶり面白がり、女性は、赤ん坊を残して死んでしまいました。
そこに、ドラーグ人少女が通りかかって赤ん坊を見つけます。少女ティバは小さな赤ん坊を気に入り、そのまま家に連れて帰りまし。赤ん坊は、「テール」と名付けられ、拘束用の首輪をはめられ、ティバのペットとして育つのでした。
2)成長しオム族のもとへ
イガムでの一週間は、オム人にとっての1年にあたります。テールはみるみるうちに成長し、あっという間に自我の芽生えた少年になりました。ティバとは、悪戯を仕掛けてじゃれ合うほど仲が良く、ティバは、少年らしくなったテールに愛情をより注ぎました。
ティバは教育を受ける年齢になり、レシーバーという遠隔受信機を用いてドラーグ人の歴史を学びます。傍らのテールも共に学び、テールは一生記憶に残るとされる知識を吸収しました。
テールの知的好奇心は、どんどん膨らむ一方でした。ティバがいない隙に、テールはレシーバーを自らの首輪に接続して知性を磨きます。ティバの父タージェは、それをよく思わずときに邪魔をしました。
ティバは思春期に差し掛かり、テールと遊ばなくなります。一方、テールも成人並に知能を高め、時機を見てドラーグ人の住まいから脱走しました。
初めての外の世界で、テールは様々な危機に晒され、そんな彼を助けたのは、オム族の娘でした。彼女に導かれ、テールはオム族の秘密の住処―「廃園の大木」へと足を踏み入れます。
オム族は、当初テールを馬鹿にしますが、彼の高い知性を目のあたりにして評価を改めます。テールは、何とかオム族に置いてもらえることになりました。
その晩。テールは寝付けず、外に繰り出す。オム人の成人男女が、不気味な建造物をよじ登って謎の光り物を口にしていました。建造物から出てきた女性たちは、次々と裸になり、男達を魅了します。そして、男女はつがいになって契りを交わします。不可思議な光景を、テールは冷めた目で眺めていました。
3)学習から人間狩りへ
何人かのオム人たちは、テールが持ってきたレシーバーで自らも知識を吸収しようとしていました。しかし、一派のボスが妨害して、部族間で仲間割れが起きます。
テールは、衝突の要因として決闘に駆り出されます。最初は攻撃されるばかりでしたが、やがて相手を打ち負かします。テールに否定的だった一部族のボスは、テールを認め、晴れてテールはオム族に迎えられました。
テールは徐々にオム人らしくなり、オム族たちも一斉にレシーバーでの学習に勤しみます。テールをオム族に導いた娘は、テールの博識さに惹かれており、二人は恋仲となっていました。
ドラーグ人が、「人間狩り」と称して「人類絶滅大作戦」を計画します。危険を察知したオム族は、大木に立てこもる方策を取ります。
テールは、様子を知るために1人住処を抜け出します。しかし、気の緩みか、木の穴族という盗賊に捕らわれてしまいました。テールは、木の穴族の女族長にドラーグ人がオム人を壊滅しに来る、と告げます。だが、聞き入れてもらえず、その日は投獄されてしまいました。
次の日、「人間狩り」が開始されます。オム族たちは、毒ガスのようなものを撒かれ、次々と息絶えていきます。テールは、女族長に縄を解かれ、共に逃げ出します。ドラーグ人をオム族の元へ導くのは、ガスマスクをつけた「人間」でした。
オム族も命を奪われる中、テールの恋人や族長はまだ生存していました。そこに、オム族たちの隠れ場所を、ドラーグ人が通り過ぎます。オム族に気付いたドラーグ人は、躊躇なくオム族を踏み殺し始めました。
オム族の人々は屈さず、ドラーグ人に立ち向かいました。2人のうち、1人のドラーグ人が捕らわれ死亡します。しかし、闘いの中で、オム族のボスが命を落としてしまっていました。
4)地下都市から宇宙船で
女族長が、人間たちをロケットの墓場に案内します。そこは、ドラーグ人が立ち寄らない場所で、隠れるには最適でした。
一方、ドラーグ人会議では、各県の知事たちがオム族の人間の知能の高さや順応性、繁殖ぶりに懸念を示します。そして、更なる人間狩りの強化を訴えました。タージェだけは、ドラーグ人が人類に惨たらしい仕打ちを犯してきたことを顧みていました。
3つの季節が巡った。人間の感覚で言えば、15年後。人類は、ロケットの墓場に地下都市を建設していました。大勢の人間が、地下都市に流れ込み住み着います。しかし、彼らの最終目的地は「野性の惑星」でした。
レシーバーで磨いた知恵を使って、人々は宇宙船を人間用に改良します。人類の指揮を執っているのは、成人したテールでした。
地上では、ドラーグ人によって放たれたドローンのような探索機が人類の住処を探していました。地下都市に侵入すると、ドローンは宇宙船を発見します。人々は、建物に身を潜めました。ドローンは、攻撃も仕掛けず地上へ戻りました。
テールらの危機を救った女族長は老衰で、宇宙船に同乗することは難しかしく、新しい惑星で平和な人類の世界を創るよう言うと、女族長は息を引き取りました。
その直後、ドローンが地下都市に攻め入り、人間を次々に捕獲します。同タイミングで、宇宙船は、とうとうイガムから飛び立ちました。
5)ドラーグ人の弱点
イガムの衛星の月に酷似した星に着地します。宇宙船を降りた人々が目にしたのは、首から上がない巨像でした。人々はそこで、ドラーグ人の秘密を知ることになりました。
ドラーグ人は一日の大半を瞑想に費やしますが、この衛星に意識を飛ばして、異星人と交流します。その異星人と夫婦になることで、生命エネルギーを得、ドラーグ人の種を保存していたのでした。
男女の形をした巨像は、宇宙人の意識体を首に載せて、踊り始めます。何とも不気味な光景を目撃した後、人間の宇宙船は衛星を離れました。
ドラーグ人は、瞑想中の状態が一番の弱点だったのです。それに気付いた人類は、宇宙船から巨像を次々に破壊します。結果、ドラーグ人は絶滅の危機に追いやられ、人間狩りは収束しました。
6)エピローグ
戦争終結後、ドラーグ人とオム族人類の間で和平交渉が取られました。ドラーグ人は人間の知恵を逆に取入れ、自身の生活向上に役立ました。人類は、イガムと衛星の付近に人工の惑星を創る―それはテール(地球)と呼ばれています。
3.四方山話
1)本作の世界観①描写
奇妙な巨大生物の描写など、宮崎駿の漫画・アニメ『風の谷のナウシカ』に影響を与えたと指摘されたりもしましたが、宮崎は、本作を鑑賞した際に、ヒエロニムス・ボッシュの絵みたいで、美しくもおぞましい、キリスト教ベースの美術に辟易しつつも「面白い」と思い、翻って風土を念頭におかない作品を描く通俗的な日本のアニメの現状を、「美術が不在」という表現で反省しています。
制作の作画やストーリーは最初の頃はローラン・トポールがアイデアを出していましたが、途中「母にやめろと言われた」という理由で制作を投げ出しました。これに監督のルネ・ラルーは激怒したとそうです。
本作は、『ハリウッド・リポーター』選出の「大人向けアニメ映画ベスト10」において10位にランクインしています。
2)本作の世界観②評価
ジャズピアニストとしても名高いアラン・ゴラゲールが音楽を手掛け、そのロック・サウンドが映像に一層サイケデリックな印象を与えています。あまりに独創的でファンタジックな世界観で瞬く間に批評家・観客たちを魅了しました。
絶賛評はフランス国内だけに留まらず、イタリアのトリエステSF国際映画祭では特別賞、アメリカのアトランタ映画祭ではアニメーション映画のグランプリ、テヘラン児童映画祭では大賞を受賞するなど世界中で高い評価を得ました。
日本でも1985年の劇場初公開以来カルト的な人気を誇り、2020年12月に東京・渋谷で行われた1週間限定上映でも満席回が続出しました。作品の誕生からまもなく半世紀を迎える今なお新たなファンを獲得し続けています。
4.まとめ
今のアニメ作品は実写にも引けをとらなくなりましたが、むしろ、アニメの方がよりリアルにその世界観が伝わるのかも知れません。本作は敢えて初期アニメの作り方を踏襲して、リアルよりも空想の凄さに重きをおいたようです。